119.アセチルサリチル酸
夜中。俺はヨツバと密会中だ。
この時間に喋るとうるさいので、文字盤を置いている。
先ほどの会談の内容、原料栽培と砂糖販売の許可が取れなかった、法律を変えさせることが出来なかったことを伝える。
どうしてこんな法律作ったんだろうなぁ、と書くと『ばかですか?』と返された。
『いや、その法律って砂糖の市場価格保持のためにあるんだろ』と書く。
『ちがいます。そのほうりつのしんいがりかいできてないみたいですね』とヨツバは指し示す。
真意?
勝手に砂糖の原料栽培されると市場価格が混乱するから、それを防ぐためじゃないのか?
聞いてみたが、違うらしい。
『さいばいしたらころすとまで、わざわざめいきしているのです。
つまり、えるふをいけどりにしてつかまえるための、たいぎめいぶんです』と示す。
な、なんだってー!
『いほうさいばいでつかまったえるふのはなしは、たまにききます。
まあそれはいいとして』
いいのかよ。
『さとうなどいちぶのしなをのぞくはんばいけん、でしたね。
くわしくきかせてください』
一部の品とは、今言った砂糖の他に、金属、武器兵器、奴隷、動物や魔獣(ただし素材ならOK)。
これらの品は販売するためには専用の資格が必要となるらしい。
ただし、それ以外なら、国王または貴族から許可を貰えば自由に売買出来る。
店舗、店長、従業員情報が更新された場合は城の近くの役場に届け出る必要があるらしい。
『かこにゆうしゃがいたせいで、めぼしいものにはあらかたてをつけられていますね』
ヨツバは、以前渡したリストから砂糖に線を引いて消す。
そうだな。文明レベルの割に、石鹸やマヨネーズが普通にあるのには驚いた。
『しかたない。とくいぶんやでせめましょう。
わたしはこおりをうります。
ねこさんなにかとくいぶんやありますか』
今の俺は、マック君に知識提供する代わりにたんまり給料を貰っているから金に困っていない。
とはいえ、いつまでもマック君に頼るわけにもいくまい。
そろそろ彼も自分のための貯金をするべきだ。
……いや、彼女か。
俺の得意分野ねぇ。
『薬でも作るか』と書く。
『つくれるんですか?』
『見てな』と書く。
癒し草を取り出す。
分離錬成でサリチル酸を分離する。
サリチル酸単品でも痛み止めにはなるが、副作用がきついためアセチル化処理を施す。
お酢を取り出しサリチル酸に振りかけ、変性錬成でアセチルサリチル酸に加工した。
これがいわゆるアスピ○ンの有効成分だ。
コーティングはするまでもないか。
『アセチルサリチル酸だ』と書く。
『いたみどめですか』
『よく知ってるな』と書く。
『かがくでならいました』
最近の学生は優秀だなぁ。
で、痛み止めの次は、抗生物質だな。
耐性菌が増える? 低濃度でダラダラ使ったらそうなるだろうな。
ちゃんと高濃度で、短期間でピタリと止めると耐性菌が生じにくい。
医者に使い方を教えるとしよう。
第1世代のペニシリンの材料は青カビだったか。
ペニシリンを産生する青カビを【探索】っと。
『ちょっと出かけてくる』と書く。
『わたしは、こおりをたいりょうせいさんします。
きれいなみずをください』
俺は煮沸済みの壺入り水を5つほど渡し、青カビ求めて町の近くの川に行ってきた。
俺は青カビのDNAを変性錬成で改造してペニシリンを大量生産するようにした。
そいつを手作りガラス瓶に入れ、【四次元空間】に仕舞って帰る。
戻って来たら、水がまだまだ足りないと言う。
再び川へ行き、分離錬成で真水を抽出し【四次元空間】に仕舞った。
ヨツバの所に戻り、壺に水を満たし、氷をヨツバが回収、それを繰り返す。
俺は青カビ入りの瓶を取りだし、待ってる間にペニシリンを分離錬成で抽出し取りだす。
青カビの栄養は、水と、適当に肉片を突っ込み変性錬成で分解しておけばいいか。
って、待てよ? 注射器が無いから天然ペニシリンの注射が出来ないじゃないか。
つまり、経口薬にするために、青カビの栄養は耐酸性ペニシリンを合成するような成分にする必要がある。
カルボン酸を脂肪酸から、変性錬成分離錬成で抽出して……。
あーだこーだやって、俺は経口投与可能な耐酸性ペニシリンを産生するための培養液を大量生産したのだった。
これなら最初から自分で変性錬成で作った方が早かったかもしれないが、まあいい。
これで抗生物質も問題ないだろう、うん。
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