39.ネルの冒険その2



・宿屋の娘ネル視点


ネルはフランベルの森の中に入る。


森の木は大人でもそこそこ背が高いと感じるくらいの高さがある。

4歳のネルからしたらまるで魔天楼のそびえる都市に迷い込んだかのようであった。



「猫さーん!」



フランベルの森を進むこと2時間。



「猫さーん……ひゃっ!」



ツタに足を取られてこけた。

疲れが溜まっているせいで、足元がおろそかになっている。



「あたた……」


「おーい、誰か居るのかー?」



森を探索中の冒険者の男が、ネルの声を聞きつけ、駆けつける。



「あれ? 子ども? 何だってこんな所に?」


「あの、猫さん知りませんか?」


「猫さん?」



どこの猫さんの話だろうと思ったが、それより子どもがこんな場所に居ることの方が大事だ。

そう冒険者は思った。



「道に迷ったのか? ほら、町まで送ってやるよ。

森は魔王が悪さしてるから近付いちゃ駄目だって、お母さんから聞いてないのか?」



おんぶしようと背中を向けてしゃがむ男を見てネルは思った。

この男に捕まってしまっては、猫さんに会えなくなってしまう。



「『この身に駿馬しゅんめの速さを。ヘイスト』」



ネルは魔法で加速し、冒険者から離れた。

1日3回まで使える魔法で、身体や物を加速させるのだ。


効果時間は1分もないが、大人の冒険者から逃げるのには十分だった。



「子どもが魔法を使っただと?! 馬鹿な?!」



この冒険者がネルを送ってくれたら、町でのネル失踪事件が解決したであろうに。

ナンシーさんの英才教育が裏目に出てしまった。



「待っててね猫さん」



冒険者を引き離したネルだったが、1時間ほど歩いて体力を使い果たしたので、木にもたれ掛って眠ってしまった。



「あら~? 人間の子どもです~。

珍しいですね~」



そこに金髪エルフが通りかかり、ネルをひょいと背負う。

ネルの眠りは深かったので、起きなかった。



「にゃんこさんのお土産にしましょ~」



エルフは呑気に呟きつつ、ウッドハウスへ向かった。


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