異世界で猫になりまして

気まぐれ屋さん

1章

1.プロローグ


「あなたは膵臓癌すいぞうがんで亡くなりました」



修道服姿で目をつむり、祈るようなポーズをしている黒髪の女性がそう告げる。


俺達2人が立っているのは、白い光を弱く放つ床がはるか彼方まで張られた場所。

ここはどこだ?

こいつは誰だ?



「ここは、あなた方が言うところの死後の世界です。

私は女神ハーディス。

あなたを驚かせないために、今は人間の姿を借りて話しています」


「あんたの情報が正しいのなら、俺は死んだってことか」



まだ41歳だったのに。

しかも独身。


親より先に死んで申し訳なく思う。



「あなたはこれから別の世界で、勇者として召喚される予定です」


「勇者って何だよ。

ゲームやファンタジー映画じゃあるまいし。

魔王でも倒せってか?」


「そう命令されるでしょうね」


「俺はいい年のオッサンだぞ?

体力だって衰え気味だし、そんなこと出来るはずがないだろう」


「異世界転移の特典で、年齢も20代にしてさしあげましょう」



異世界転移って何だ。

うさんくさい単語だな。


だが、目の前の存在が人智の及ぶところでない者だというのは、なんとなく分かる。


俺の意志がどうであれ、こいつに逆らうことは出来ないのだろう。



「他に望みがあれば、それも聞きますよ」



ならばせめて、俺の希望を伝えておくべきだな。



「じゃあ、俺の体の猫アレルギーを取り除いてくれ」



ペットに猫を飼うのが夢だったんだ。

涙とくしゃみが止まらなくなるから叶わぬ夢だったが。



「わかりました。では準備します。まずはおすすめスキルの付与から。

スキル【鑑定Lv100】【四次元空間Lv100】【経験値100倍】【習得Lv100】を追加。

初期ステータスと耐性をドラゴン並みに設定しましょう。

転移年齢を20歳にして、あとはカスタム設定で、えーっと、猫……あっ!」



俺の体が光に包まれて視界が真っ白になった。



「エンター連打して、入力の途中で準備完了してしまいました。

うわぁ、どうしましょう、どうしましょう……」



女神様はオロオロしていたそうだが、既にそこには女神様しか居なかった。

俺は異世界へと旅立った後だった。


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