第4話
『以前の住居のオーナー様より、郵便受に大量の郵便物が入っていたので困っているとのご連絡がありました。次の入居者様も入られるとのことで、いったんこちらでお預かりし――』云々といった書面が、その横に添えられている。
(……処分してくれていいのに)
会社は勝手に住所を伝えることができないし、オーナー側も宛名がある大量の封書を勝手に処分することもできない、という理由で本人宛にまとめて送りつけることにしたらしい。転送届も出してほしいとの記述もあった。
ここまでしつこいのなら、対策を考えるためにも封筒の中身を知るべきではないかという思いと、確認するのが怖いという思いが入り混じる。
『はじめ』のあとに、どんな文章が続いているのだろう。
消印は相変わらずにじんでいるが、目を凝らしてよくよく見ると、墨田吾妻橋と書いてあるようにも見える。以前の住所の近くだ。
(まさかストーカー? 警察に相談したほうがいいかな)
前の郵便受けには鍵がなかったから、住所も名前も盗み放題だったろう。改めて恐怖を覚える。
悩むより相談したほうが早いと思い、駅前の交番へ向かう。
少し大きめのその交番の中には、四人の警官と泥酔している中年男性がいた。二人の男性警官が泥酔男を宥めていて、わたしの対応をしてくれたのは同年代くらいの女性警官だ。
「気持ち悪いですよね、差出人不明とか」
同情の言葉をもらって、わたしが大げさというわけではないと実感し、安心した。
警官は封筒をためつすがめつして、眉を寄せる。
「中身を確認してみます? 内容が分からないと、なんとも判断できないし」
「はじめ、までは見たんですけど……」
「うーん、それだけじゃ……とりあえず、開けてもいいですか?」
わたしが頷くと、警官は白い手袋をはめた手で一番古い消印のものを開いた。私が引っ越した翌日の日付だ。
取り出された見慣れたカードには、『て』が表示されている。
「て、ですか。はじめ、のあと、何日くらい確認しなかったか覚えてますか?」
「……覚えてないです。気持ち悪くて、さっさと捨てたし」
「ですよねー」
相槌を打ちながら、警官は次の封筒を開いた。
『だ』
「どんどん見ていきますね」
女性警官の瞳が好奇心に輝いている。こっちは楽しむ余裕などないのに。
次の文字は、
『い』
警官は無言のまま、どんどん封を開いていく。
『す』
『き』
『だ』
『っ』
『た』
『し』
『し』
『ん』
『ゆ』
『う』
『だ』
『と』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます