第54話 宿題 佐藤みさきの場合

 会う約束をしていない日でもまー君に会えるといいなって思いながら近所をウロウロしているんだけど、いつの間にかまー君の家の近くに行ってしまうんだよね。会えるといいなって思いながらも、会えることはほとんどないんだけど、今日は珍しく会うことが出来た。まー君も嬉しそうにしてくれたけれど、今日も会えないと思っていたからそんなにオシャレしてこなかったよ。

 二人で並んで歩いているだけでも楽しいんだけど、綺麗な花が咲いているところがあるのでそこに一緒に行きたいなって思っているんだ。普段はそんなに花とかは興味ないんだけど、今の時期はついつい見てしまうのよね。でも、まー君はそういうのに興味が無いみたいでお店がある方に向かっているの。何か欲しいものでもあるのかな?


「いつも行かない店を見てみないかな?」

「まー君は何か欲しいものでもあるのかな?」

「みさきに似合いそうなものがあればいいなって思ってさ」

「それなら、お揃いでつけられる物がいいな」


 やっぱりまー君は何か欲しいものがあったみたいだけど、それが私と一緒の物を買うためだったなんて嬉しいな。私が思っているのと一緒でまー君も私の事を大事に思っているのね。どんなものが良いのかなって思っていたけれど、アクセサリーとかは欲しいんだけどちょっと高いのよね。私のお小遣いでも買えそうな物ってデザイン的にそんなに好きじゃなかったりするし、どうせなら普段から使える物が良いかもしれないわ。


「どれも魅力的なんだけど、イマイチ日常生活で使いにくそうなのよね。まー君と同じものなら普段使いもしたいし、学校でも自慢したくなるよね」

「学校はアクセサリーとか大丈夫なのかな?」

「そうね、アクセサリーじゃなくて文房具とかでもいいと思うな」


 やっぱりまー君も指輪とかの身に着けるものが良いって思ってたみたいだけど、添れはもう少し先でもいいと思うんだよね。少しアルバイトしてみるのもいいと思うんだけど、ソレだと二人の時間がもっと減っちゃいそうだし、まー君が他の人と一緒にいる時間が増えちゃいそうなのよね。

 それでもまー君は私の事を変わらずに愛してくれると思うんだけど、他の人がまー君を好きになる可能性が出てくるのよ。そう言うのって個人の自由かもしれないんだけど、私としてはそういう人は早めにどうにかなってほしいなって思うんだよね。


 一緒に色々見ていたんだけど、これと言っていいなって思うものが見当たらなくて、どうしようかなって思っていたら、メッセージを書き込めるキーホルダーが目に留まった。これなら他の人と同じように見えても中身が違うから特別感があるかもね。


「こんなにたくさんあるのに、同じものを取ろうとするなんて面白いね」

「ああ、俺はこれがみさきに合うと思ってたんだけど、みさきも自分に合うと思ったのかな?」

「え、私はまー君に似合うかもって思ったんだよね。お互いに似合いそうっていいかも」

「じゃあ、これにしておくかい?」


 まー君は私の分も一緒に買ってくれたんだけど、私も二人で使える何かを買っておいた方がいいかなって思って、一緒にメッセージを書けるようなペンが必要だと思って、セットになっているペンを買ったんだけど、意外と高くて驚いたわ。

 そのまま二人で歩いて公園に行ってみたんだけど、この公園もお花が咲いていて綺麗ね。ちょっと虫が多くて怖いけど、この辺の虫は襲ってこなそうだし近付かなければ大丈夫かもしれないわ。

 まー君にペンを渡して何を書くのかなって見ていたら、書くことが思い浮かばないのかペンは止まったままだった。私も何を書いたらいいのかわからないんだけど、二人で考えてみればいいのかな。自分のだってわかるように何か書いた方がいいと思うんだけど、名前を書くのはちょっと恥ずかしいよね。


「ねえ、何を書こうか?」

「こういうのって何を書くのが正解なんだろうね?」

「とりあえず、生年月日と血液型でも書いておく?」

「それがいいかもね」

「でもね、裏に愛のあるコメントを書いて欲しいって思うんだけど。ダメかな?」

「全然いいよ。俺にも書いてもらえるかな?」

「うん、でも、たくさん言葉がありすぎてこの紙には入りきらないかも」

「俺もそうかもしれないな。じゃあ、とりあえず家に持ち帰って明日の朝に交換する?」

「わかった。じゃあ、明日の朝も迎えに行くね」

「それなんだけどさ、明日は迎えに来なくてもいいよ」


 どういう事なんだろう。私が毎日迎えに行っているのが重いってことなのかな?

 私は好きでしてる事なんだけど、まー君は自分の時間が欲しいってことなの?

 迎えに行くことが出来なかったら、教室で待って居ろってことなのかな?


「それって、朝は一緒に居たくないって事かな?」

「ちがうよ」

「私って何か悪いことした?」

「そうじゃなくって」

「じゃあ、朝じゃなくて夜から迎えに行っていいのかな?」


 そうだよね、朝がダメなら夜から一緒に居たいって事なのね。まー君がそう言うなら夜から一緒に過ごしてもいいんだよ。そうなった方が一緒にいる時間が長くなって嬉しいかも。そのためにもお金を貯めて二人で過ごせる場所を探さなくっちゃね。


「あのね、いつも迎えにきてくれて感謝しているんだけど、毎朝だと大変じゃないかなって思っていたんだよ。だから、これからは順番に迎えに行った方がいいんじゃないかなって思ったんだよ。みさきは大変じゃないのかな?」

「え、あ、う、え、あ、うん。私は大変だって思った事無いよ。まー君を家の前で待っているのが好きだし、待っている間に色々考えられて嬉しいんだよ」

「それならいいんだけど、俺が迎えに行けばもう少しゆっくりできるんじゃないかな?」

「朝の準備なら寝る前に大体やってるから大丈夫なんだけど、少し眠い時があるのは事実かも。朝はそんなに弱くないんだけど、少しゆっくり出来たらいいかも」

「じゃあ、明日は俺が迎えに行く事にするよ」

「ありがとう。でも、愛ちゃん先輩にバッタリ会っちゃうかもしれないけど、変な事しちゃだめだよ」

「変な事はしないけど、攻撃されないように近付かないようにはするよ」


 私の事が嫌いになったんじゃなくて私が大変だろうと思って言ってくれたんだ。ちょっとだけ勘違いしちゃったけど、私の事を思ってくれるなんて嬉しいな。ちょっと気持ちが昂っちゃったけど、こんなに思ってくれたなら抱きしめてキスしたくなっちゃうよね。それでも、まー君はキスに抵抗があるみたいだから今は一緒にいることで心を満たしておこう。手だけは繋いでも大丈夫だよね。


「ねえ、この前言った事だけどさ」

「何かな?」

「まー君とキスしたいって言った事だけど」


 まー君はやっぱりキスに抵抗があるのね。私の事を大切に思っているからこそ、そう言うのは焦ってするもんじゃないってことなのね。私もゆっくり心を重ねていく方がいいかもって思ってきたけど、やっぱり好きな気持ちは隠せないよね。


「まー君が私の事を大切に思っていてくれるのはわかっているんだよ。だからね、キスしたいなって思ったんだけど、今すぐじゃなくてもいいかなって思ったの」

「俺もみさきとキスしたいなって思うけど、もっと大切にしたいって思っているし、こうして二人でいるだけでも楽しいって思うんだよね」

「私もだよ。だからね、今日は二人だけのキーホルダーを作れるのが嬉しいんだ。こうした幸せを積み重ねていった先に、二人の幸せが待っているのかもしれないしね」


 まー君は私を家まで送ってくれたんだけど、一人で歩いている時と違ってあっという間についちゃうんだよね。今日はまだ誰も帰ってきていなそうだから部屋に上がってもらおうかと思ったけど、もう少しでお姉ちゃんも帰ってきそうだし、お姉ちゃんに見られたら後で何か聞かれるかもしれないな。S

 まー君はそのまま帰っていったからまた今度にして、今日もまー君の事を考えながら夜を過ごそうかな。今日はまー君と交換する時の為に一日かけてメッセージを考えなくっちゃね。


 まー君の後ろ姿を見送ると、お姉ちゃんから電話がきたんだけど、私はそれを無視して家の中に入る事にした。自分の部屋に戻って掛けなおすと、お姉ちゃんの話はどうでもいい事だった。


 お姉ちゃんはもう少し遅くに帰ってくるみたいだし、それまでにはメッセージを考え解かなきゃね。あんまり考えすぎない方が良いかもしれないけどさ。


 明日もまー君に会えるといいな。

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