第38話 近所の喫茶店 佐藤みさきの場合

 オシャレなカフェでお茶を頂くのもいいと思うけれど、私は小さい時から家族で通っているこの喫茶店が好きだ。オシャレな看板メニューは無いけれど、シンプルながらも飽きのこないパフェとか手作りのケーキがお気に入りなの。いつもは紅茶とセットにして頼んでいるんだけど、今日は何となくカフェオレな気分になっていた。

 家族経営のこの喫茶店は夜になるとBARになるのだけれど、私は未成年なんで昼間にしか着たことが無いのでわからないけれど、お母さんたちは何回か来ているみたいで、大人になったら一緒に来る約束をしている。

 昼間は奥さんと娘さんが切り盛りしているのだけれど、どちらも美人で巨乳なので常連客は男性の方が多いと思われがちだが、二人ともいいお姉さんと可愛い妹みたいだと近所のマダムたちに評判だったりするので、意外な事に女性客の方が多いのだ。


 そんな喫茶店にまー君と一緒に来ているのだけれど、なぜかさやかと田中君までついてきていた。お昼休みが終わる直前にまー君だけを誘ったはずなのに、なぜか二人も来ることになっていた。さやかは一緒でもいいのだけれど、田中君とは特に話す事も無いのでどうしたらいいのかわからなかった。


「みさきの通ってる喫茶店って雰囲気いいんだね」

「うん、小さい時から家族で来てるんだけど、自分の家より落ち着くときがあるんだよね」

「へえ、そんな昔から通ってるなんて凄いね。私にはそういう店が無いから憧れるわ」


 本当ならまー君と二人っきりでゆったりした時間を過ごしたかったんだけど、時々ならさやかがいてもいいかもね。田中君はずっとマスターの娘である彩香さんの事を見ているようだけど、あれだけ美人で胸も大きいと普通の男の子は気になってしまうんだろうな。まー君はそんなこと無いみたいだけど、本当はどう思っているんだろう。


「なあ、ここのお姉さん達ってすっごい美人で胸大きいのな。俺もここに通おうかな」

「そんな金があるんなら自由にしていいんじゃないか」

「おいおい、あんまり冷たい事言うなよ。お前だって少しは興味あるんだろ?」

「あのな、俺はみさきにしか興味ないって言ってるだろ。お前は俺達の仲を引き裂きたいのか?」

「そういうんじゃなくて、男として純粋に聞いてみただけだって」

「はあ、ホント田中君ってデリカシーの無い最低男だよね」


 私の思っている事をさやかが代弁してくれて助かった。もう少しさやかの発言が遅かったら、私が行ってたと思うし、そうなったらまー君の印象が悪くなっちゃうかもしれないもんね。

 それにしても、私の周りには胸の大きい人が集まる気がするんだけど、これって何かの罰なのかしら?


「あらあら、みさきちゃんがお友達と来てると思ったら恋人がいるのね。小さい時から知ってるからお姉さんも嬉しいな」

「はい、今度来るときはまー君と二人で来ます」

「あら、まー君って言うのね。えっと、私の胸を見ていないこっちの子かな?」

「そうです。そっちの人はまー君の友達だと思います」


 田中君は胸をじっと見ていたのがバレていないと思っていたのか、指摘されると顔が真っ赤になっていて面白かった。それ以外は全く面白くないのが気に障るけど、まー君の友達だから我慢しておくことにしよう。それにしても、普通の男子って最低だわ。


「田中君って私の事も顔より先に胸を見るよね?」

「そんなこと無いだろ、って言いたいけど、お前のその胸は大きすぎるんだよ」

「何言ってんのよ。愛華先輩の方が大きいって」

「そんなの知らねえよ。大体、愛華先輩を紹介してもらおうと思っても前田は嫌がるし、どうしたら俺にも彼女が出来るんだよ」

「その性格を直した方がいいんじゃないか?」


 まー君の一言に私とさやかがうなずいていたんだけど、今日初めて田中君に会ったはずの彩香さんも一緒にうなずいていた。初めて会って数分で理解されるような田中君はある意味で凄いと思った。


「なあ、前田はどうして胸に興味を持たないんだよ」

「どうしてって言われてもな。小さい時から胸に執着なかったみたいだし、気にした事も無かったな」

「そうだよな。胸に興味が無いって聞いた時はホモなんじゃないかって思ってたけど、佐藤さんみたいな可愛らしい彼女がいるんじゃそれも違うんだよな。なあ、前田って女子のどこのパーツが好きなわけ?」


 田中君って基本的に必要ない人間だと思うんだけど、極稀に私も聞いてみたいことを聞いてくれる時があるのよね。もしかしたら、田中君ってそれを行うためだけにこの世に産まれてきたんじゃないかって思うのよね。これは本人にもまー君にも内緒だけどね。


「そう言われてもな。特に気にしてみた事も無かったけど、普段よく見てるのは目とか脚かな」

「脚って何だよ。ずいぶんと大人なやつだな」

「自分とは違う形してたりするし、見てるだけでも飽きないだろ」

「それを言うなら、胸の方が自分と全然違うだろ」

「そんなこと無いだろ、守屋さんは俺たちと違うかもしれないけどみさきはそんなに違わないだろ」


 うん、目とか脚が好きってのはいいと思うんだけど、私とさやかの胸の大きさを比べるのは私達が目の前にいない時の方がいいと思うな。さやかも少し気まずそうにしているし、お互いにとってプラスになることは無いよね。でも、田中君がいなければこんな気持ちにはならなかったと思うし、やっぱり田中君は私にとって必要ない人みたいね。


「ねえ、田中君ってちょっとデリカシーなさすぎるよね」

「私もそれは前から思ってたけど、なんでまー君と仲いいんだろう?」

「私もよく知らなけど、お互いの距離感がちょうどいいって言ってたような気がするわ」


 その距離感が何なのかわからないし、これからは少しずつ距離が開いていくと思うから安心してほしいな。友達って言ったって一生の付き合いじゃないだろうし、高校を卒業するまでの繋ぎだと思うよ。田中君は誰とでも仲良くなれそうだし、まー君は私とずっと一緒に幸せに暮らしていくんだしね。


 私達がオーダーしていた商品が全部そろうと、私達はひとまず目の前にあるパフェを食べていく事にした。

 私はいつものキャラメルパフェでみさきは和風パフェを頼んでいた。まー君と田中君はケーキセットを頼んでいたらしく、男子二人は同じものを食べていた。


 そんな中、まー君は全く照れる事も無く自然な感じで私の口の前にケーキを一口分持ってきてくれた。私も何のためらいもなくそれを頂くと、お返しにパフェを一口あげよう。と思ったけど、どの部分をあげればいいのかわからなかったので、生クリームにキャラメルソースがかかっている部分をすくってまー君の口元に運んでみることにした。まー君はそれを当然のように受け入れると、再び自分のケーキに戻って行った。


「ちょっと待って、目の前でそんなラブラブな事されてもどう反応していいかわかんないって。守屋さんだって反応に困っちゃうんじゃないか。って、女子同士でも一口交換してるじゃん。俺だけ他の味がわからないって悲しすぎるだろ。よし、前田。男同士でちょっと嫌だけど一口ずつ交換しようぜ」

「同じものを交換してどうするんだよ」


 和風パフェって初めて食べたけど美味しいのね。あんまりくどくないしいつもの紅茶にも合うかも。まー君のくれたケーキも美味しかったけど、いつもと同じものじゃないのかな?

 それよりも、まー君が口を付けたフォークを使ってケーキを食べたのって、間接キスになるのかな?

 二人っきりで部屋にいたらキスしちゃってた感じはあるけど、まー君は部屋で二人っきりになるのに抵抗ありそうだし、焦らずにじっくり行きましょう。


「今日のパフェは少しサービスしといたんだけどわかったかな?」

「はい、いつもよりブラウニー多いですよね」

「見た目はちょっとゴテゴテになっちゃったけど、みさきちゃんはブラウニー好きだもんね。そっちの子には白玉とサクランボ増やしといたんだけど、初めてだから普通の方が良かったかな?」

「いえ、とっても美味しかったし、サービスまでしてもらえるなんて絶対通います」

「そう言ってもらえると嬉しいけど、高校生なんだから他にお金使っていいんだからね」

「じゃあ、働くようになったら通います。お姉さんとも仲良くなりたいし」

「それはいいね。今度みさきちゃんと三人で遊びに行っちゃおうか。みさきちゃんはそれでもいいかな?」

「私もいいんですか?」

「もちろん、三人で女子会やろう」


 彩香さんとは外で偶然会った時に少し話をしたことはあったけれど、遊ぶ約束をしたのは初めてかも。さやかって年上の人に好かれる何かがあるのかな。私との違いは胸の大きさだと思うけれど、胸の大きさでそんなことが変わるとしたら、そんな世界は受け入れたくないな。

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