第5話 私の部屋に来ない?

 喫茶店を出て、

「ミシン貸すのは良いけどどうやって運ぶの、自転車で運んだら重くて倒れるかも」

「自転車乗れない、、、」

「わあ、私の部屋で使う?」

「弟くん、、、こない?」

「そこまで気を遣う?ああそんな時も有ったわ弟も、どうしたものかね、ねえとりあえず今日は作るところ見せてくんない、ちかいに行こ」

 そう言って僕の手を取った(手を繋いだ)太知たいちさん、じゃなかったお姉ちゃん。


 思わず手を引くと余計強く握られた。

「ばっか、恥ずかしがってんじゃないの弟よ、今日一緒にお風呂入る?」

 何も言えずお姉さまの顔を凝視する。


「ばーか冗談に決まってるでしょ、家はどこ」

「隣町」

「えっ歩きって事は電車?」

「うん自転車ムリ」

「じゃあお店まで電車で来てって儲けにならないじゃない」

「定期が有るから」

「あそ、でもなあ電車代バカにならないしなあ、ねえ駅で待ってて帰って自転車で行くから」

「えーそんな事」

「嫌なの、じゃあまたいじめちゃおうかな、私いじめるのも好きなんだ愛情の裏返し」

「い、いや待ってる駅で待ってるから」

「へへー嘘だよ、でも裏切ったらだめよ、私ヒステリーだから何するかわからない、タマタマ切り落とすかもよ」


 可愛い顔で恐ろしいことを楽しそうに言って離れていった。


 電車を降りて待つこと15分、

「しぬーアイス奢りなさい」

 顔に汗を垂らして太知たいちさん、いやお姉ちゃんが現れた、セーラー服のまま。

「着替えて来なかったんだ、コンビニ行く?」

「もち」


 アイスキャンディーを買って僕がキラキラピンクの自転車を押してお姉ちゃんはアイスを舐めている、時々僕の方に差し出して舐めようとしたら引っ込める、遊ばれている。いいけど。


 アイスが終わったらハンドルを取って、

「乗れ」

「でも二人乗り」

「あと何分?」

「10分位」

「乗りなさい、しっかり掴まってないと振り落とす」

 

 荷台に座って掴まれと言われても。

「お腹に腕を回すの、体くっ付けないとフラフラするから」


 いきなりこんな密着して良いのだろうか、下の方が勝手に反応してしまう。

(平常心平常心)効き目なかった。


 まあ家に着くころにはなんとか落ち着かせた。


 ぼろアパートに到着。

 四月というのにめちゃ暑い。


「ここ」

「何の冗談」

「母子家庭だから」

「そっかごめん」


 たまには素直のところもある、きっとたまにだけ、周りからチヤホヤされてきた筈のかなりの美人さんだから。(なぜ僕なんだろう)


「狭いし今日は暑いかもなんだけど」

「先に言え、来たものはしょうがないでしょ、クーラーは」

「有るけどまだ使えない七月になるまでは」

「わお」


 外の階段を上がって一番奥のドアのカギを開ける。

 その間鼻歌を歌ってるお姉ちゃん、僕なら緊張しまくるだろうな。


 中に入り、

「うわーあっつう、素っ裸になりたい」

「分かったクーラー入れるから、ちょっとだけ」

「そういう時は喜びなさい、天下の美女よ、言っておくけど男性経験ないからね、両手を合わせて拝むのよって嘘、お姉ちゃんお姉ちゃん」

「なんか挑発されてる気がするんですけど」

「へへー」

 笑ってごまかされた。


「すぐ帰るからちょっとだけ見せて、下半身じゃないわよマスク」

(経験ないっていうけどかなりやばそう)


「どこでしようか、うふ」

「弟じゃなかったの」

「弟よかわいい」

「なんかやばそうなんだけど」

「うーんそうかな、しょうがないよ高校生ってのはエロの塊、男も女も」

「そう、考えたこと、、、なくもないけど、彼女なんて無理と思ったし」


 お姉ちゃんは小さいテーブルの前で胡坐あぐらをかく極短いスカートだからパンツ丸見え。


「パ、パンツ見えてるけど」

テーブルの反対側に座るとテーブルで遮られた。(やれやれ)

「知らないの? 見せるパンツ。ってエロい?」

 正座に座りなおした。


「すぐに彼女になってあげるって言ったでしょ、まあ良い、ほんとわさ私だって何かに夢中になってこれが青春よってやってみたいんだけど、何をやっても長続きしない、ただお化粧で化けるのがうまくなって、ちんたら生きてるだけの少女に成ったとさ、めでたしめでたし、、、めでたくない地はブスよ、びっくりするほど」

「意外とお笑い系なんだね」

「どこが、マジよなんかクラブ、、、よし陸上入るぞお前と一緒に」

「ちょっと待ってて」


 立ち上がりフスマを開けてマスクと裁縫道具を自分の部屋から持ってくる。


「これ」

「陸上は?」

「三歩歩いたから忘れた」

「襲いたくなったんだけど」


 さっきと同じ場所に座りなおして、

「じゃあ生け花部」

「ガー、んなもの無い」

「でも学校終わってからマスク作らなきゃ」


 たいっちゃんは手元のマスクを手に取って、

「何時までも続かない、そのうち売れなくなるって」

「分かってる、でも違うものでも続けたい、布で作れる何かない?」

「パンツ、ちーさいのモデルになったげるパンツ一枚で」

「止めて、お姉ちゃんでいいから」


 すっと立って、

「弟よ姉弟とはいつだって助けあって生きて行かなくてはならないのよ、苦しい時辛い時手に手を取って支えあうのよ!さあ」


 両腕を広げハグ待ち態勢。

(ここで躊躇ったら張り倒されそう)

 そおーっと近付く。


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