第10話 魔物遭遇
「ほら、初めて女の子を好きになって気を引こうとする時って、かなり神経を使うだろ?どうしたら好きになってもらえるだろうとか、その
「――つまり、どういうことですか?」
「俺達の魔法の発動の仕方が前者で、小鳥は後者だと思うんだよね」
なぜ小鳥の魔法がああも簡単に発動されるのかの考察を、佐田なりに後輩達に述べた。
「俺が初めて治癒魔法で小鳥の傷を治そうとした時がそんな感じだったんだ。どうやったら治せるのかすごく考えて集中しないと出来なかった。…でも、小出に魔法を使う頃には、特に治したいとは思ってなかったけどコツで治せるくらいにはなってたよ」
「佐田さん、爽やかに俺に酷いこと言ってますよね」
「まあまあ。で。その『ちょっとしたこと』っていうのが、小鳥の場合は『
現在、小鳥の傍には武晴が付いている。
寡黙な彼相手なら小鳥も失言することはそうそうないだろうし、万が一他の誰かに魔法が発動したとしても、武晴なら
「小鳥さんのMPはどうなってるんですか?」
「消費は少ないし回復が早い。レベルも確実に上がっている」
「うえー。きびしいっすね」
それにしても、ニノスがここを離れてから、ゆうに1時間以上は経っている。
「やっぱり道に迷ったんですかね」
さすがに心配になって、羅針儀の
「腹も減ったしな」
「城に行ったらお茶菓子くらいは出るといいっすね」
小出と岸はのんきそうに話していたが、城だって食料があるかどうかあやしいものだとも思ってはいた。
リャリャとかいう馬車馬もじっとしているのに飽きたようで、落ち着きのない動きを始めた。
誰も乗っていない荷車を引いたまま、道から外れて進もうとしている。
松にも似た枯れかけた古い大木が辺り一帯を覆っているような場所だ。
慌てて岸が御者台に飛び乗り、見よう見真似で手綱を思いきり引っ張ったが、愚図るだけで止まってくれそうな気配はない。
相手は10人以上を乗せて山越えできるような相手だ。
力勝負ではとても太刀打ちできそうになかった。
「高橋さん、武晴さん、駄目です!!すみません!力を貸してください!!」
その情けない声を聞いて、名指しされた2人以外の部員達も荷馬車の周りに集まってきた。
リャリャの向かう先は下り坂になっている。
10mほど下った所に窪みがあり、そこに草が生えているのが見えた。
リャリャはそれに気付いて食べんがために向かっていっているようだ。
普段は乾草等の飼料ばかりだから、緑の草もたまには口にしたいのだろう。
それくらいはさせてやってもいいのではないかという雰囲気になりかけた時、東堂の一言が場の空気を変えた。
「止まってください。あれ、植物じゃないですよ。魔物です」
「魔物?」
現実社会ではこれまで縁のなかった単語だ。口にするとなんだか違和感がある。
「あの緑のは草ではなくて魔物の体の一部みたいですね。近付いたところを食べるつもりなんじゃないですか?」
だがそれを言ったところで、馬であるリャリャが止まってくれるはずはない。
武晴が前へと回り、それ以上進まないように押し戻そうとした。
なかなか互角の勝負だったが、徐々に彼らの足元の砂が崩れはじめ、その下方にいる魔物の元へと流されそうになってきた。
「武晴!」
「武晴さん!」
岸はすでに御者台から降りており、荷車が前に落ちていかないよう押さえている。
他のメンバーも加わり、まだ足場の崩れていない後方から引き上げようとしたが、そうしている間にも、砂はどんどん彼らを飲み込もうとしていく。
その
「アリ地獄みたいなタイプですね。まだ幼虫みたいです。レベルは5。全員で戦えば倒せる相手ですし、経験値も入ってレベルアップ出来ますけど、どうしますか?」
「そんなのやるに決まってるじゃん!!」
やっと異世界物のそれみたいな展開になり、ワクワクしてきた小出は即答した。
それに異論を唱えるものはなく、東堂の解析を元にその体勢のまま作戦会議を始めた。
「あの魔物は土を扱うようなので、土属性の武晴さんならこの足場にも順応するのが早いと思います」
「武晴さんが先頭に立つってことになるんですよね。防御力も高いからその方が安心ですね」
「荷馬車も押さえる人がいるよね。俺攻撃手段ないから押さえとこうか」
「俺も直接攻撃の魔法はないので、バックアップしつつ押さえますよ」
「じゃあ、残りのメンバーで魔物に攻撃というのでいいか?」
「はい!」
そこまで話したところで、各自配置に付いた。
どの属性魔法が苦手かについては、それぞれ実際にやって様子を見てみることにする。
小鳥は1人後方に立っていたが、荷車が傾き東堂がバランスを崩したのを見兼ねて、自分も荷車を押さえにかかった。
「ごめん、春日野さん。大丈夫だから」
東堂は体勢を立て直し、小鳥に負担がかからないように荷車を押さえる。
「あたしこそ…。もっと力になれればいいんだけど」
何か自分に出来そうなことはないかと思い巡らせてみたものの、
この状況で仲間を自分に向かって飛びつかせてしまっては、魔物を倒すところではなくなるだろう。
と、諦めかけたところで、あることが思い浮かんだ。
「ねえ、東堂くん。あたしの魔法って、人間にしか効かないの?」
「え?」
「リャリャに魔法が使えたらあたしの方へ向かってくるでしょ?そしたらこのアリ地獄から抜けられるんじゃない?」
小鳥は名案だと思ったが、佐田はそれを聞いて慌てた。
「駄目だって!魔法が効いたとして、こんなのが飛びかかってきたら小鳥死ぬよ?即死だよ?」
しかしそんな佐田とは裏腹に、東堂は「いや」と言って小鳥の提案に賛同した。
「いいかもしれません。自力でアリ地獄から抜け出てくれたら、俺が麻痺を使って動けなくしてしまえばいいですし」
「大丈夫かなあ」
心配ではあったが、試してみるのも悪くはない。
「問題は小鳥の方を見てもらわないといけないってところだよね。…おーい、武晴」
リャリャの前に立つ武晴を呼ぶ。
「ちょっとでいいからさ、リャリャの顔を小鳥の方に向けさせてよ。…小鳥。ここ離れていいから、リャリャと顔を合わせやすい位置に移動して?足元気を付けてね」
武晴は頷くとリャリャの首に手を添え、小鳥も少し斜め前に移動した。
「じゃ小鳥、お願い。東堂、タイミング間違えないでよ!」
佐田の台詞を合図に、皆が武晴を見守る中、武晴がリャリャを小鳥の方に向けさせた。
「
「…………!」
――それは一瞬の出来事だった。
小鳥が
その直後、颯爽とその場から抜け出した武晴は小鳥の元へと駆け寄り、そのまま小鳥を小脇に抱えて明後日の方向へと走り出してしまった。
「はあ!?」
「武晴!!」
「春日野さん!!春日野さん!!!…――とら!来い!!」
走り去って行く武晴を、小出ととらが追って走り出した。
「おいおいおい。武晴ーっ!!小鳥ーーっ!!!……っておい、嘘だろう」
小さくなっていく4人の姿を見ながら、途方に暮れたような高橋の声が虚しく響いた。
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