五月、公園。
一人で歩く春の夜は、こんなにも寒かっただろうか。
レストランで食事をした日を境に、奏は松葉の前から姿を消した。
あの日からもう一月以上が経ち、奏の姿を探しては
会社帰りに駅のホームや改札口を眺める習慣がついてしまった。
「今夜もいない、か……」
誰もいない夜の公園で、滑り台に鞄を放り投げる。
玉座だとふざけて遊んでいた蛸足のような滑り台も、
今となっては味気なく、ただ風変わりな遊具にしか見えない。
「毎週、会ってたのよね……奏と」
あの頃は気づけばほとんどの週末が奏との予定で埋まっていて、
誘われてはどこかしらへ行き、一緒にいた。
それが急に抜け落ちて、誰とも過ごさない週末になってしまった。
奏と出会ってからはめっきり少なくなっていた公園での一人飲みも、
彼と連絡が取れなくなってからは、ふらりと現れるのではないかと
期待して毎週必ず居座るようになっていた。
友人から誘われる日もある。でもそれが金曜日なら、松葉は断っていた。
もし自分のいない公園に奏が来ていたらと考えると、自然と足が向かってしまうのだ。
申し訳ばかりに買った安いアルコールを流し込み、声をかけられたバーを思い出した。
もちろんバーへも奏を探しに行った。
あそこは彼の仕事場でもあったし、公園よりもいる確率は高いだろうと。
夜は飲みに、昼にも休憩のついでと覗いてみたが、それも空振りに終わった。
足しげく通ってみても姿は見えず、マスターに聞いてみれば
常連だったのに最近は見かけないと言う。
心当たりが絶たれた松葉は、こうして最後の望みをかけて公園に通うのだ。
取材の名目で利用するだけされたのではないかと考えたこともある。
ただそれにしては、遊んでいる彼の笑顔はとても表面的に
浮かべている表情には見えなかったし、松葉も嘘の思い出にしたくはなかった。
何より最後の、レストランで同席を頼んできた真剣な態度は本物に見えた。
石蕗の彼女と奏がどこまでの仲かは知らないが、
相当に悩んで兄へ打ち明けることにしたのだろうと。
思えばそれまで彼の名字も知らず、家も、友人も知らなかった。
連絡先も、相手から返事がなければ知っていても意味がない。
「そうだ、石蕗……兄弟なんだから居場所を知ってるはずよね」
メッセージを送信するのに、松葉はためらいを感じなかった。
奏のことで話をしたいと言うと、彼とも最後に会ったのはレストラン
以来だというのに、石蕗はすぐに返信をくれ、約束を取りつけられた。
明日、会って奏の様子を聞こう。
そして連絡を返せなかったことへの謝罪も。
松葉はまだ残る缶をビニールに捨て、これ以上酔いが
まわらないようアルコールを摂るのをやめた。
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