第8話

「ふむ、今はこの部屋から出ない方がいいね。

 宮殿中が蜂の巣をつついたようだ」


「ですが姫騎士達に無事を知らせないと、彼女達が無理をしてしまいます。

 このままでは彼女たちが死んでしまいます!」


「アリアンナ嬢は優しいな。

 うむ、だがその通りだね。

 主人たるもの、家臣達を無駄死にさせてはいけないからね」


 クリスティアンは思いやりのある皇族ではあるが、それはあくまで君臨する立場、皇族としての思いやりだった。

 家臣が主人のために忠義を尽くし、時に命を捧げることを当然と考えていた。

 だが、無駄に死なせることは主人の無能を意味するとも考えていた。


「ではアリアンナ嬢。

 その姫騎士一人一人の顔や特徴を思い出してくれ。

 私には分からないからね。

 思い出してくれたら、魔法でその者達をこの部屋に招いてあげよう」


「ありがとうございます」


 アリアンナ嬢も全てを信じたわけではない。

 目の前の男が狂人という可能性もある。

 だが皇族であることは間違いないと感じていた。

 もしこの人の言う通り、魔法の力で姫騎士達を招くことができたら、誰一人死なせずにすむかもしれない。

 そう考えて必死で一人一人の顔を思い出し、特徴を思いだした。


「結構危ない子もいるね。

 あの子から招こうか」


「ベアトリーチェ!

 ああ、なんてことなの!

 眼を開けて、ベアトリーチェ!」


 目の前の男がつぶやいたとたん、目の前にベアトリーチェが現れたが、彼女には左の腕がなかった。

 肩からではないものの、前が腕の途中からなくなっていた。

 鎧も盾も装備していないため、敵の剣を左腕で受け止めたのだろう。


「アリアンナ嬢。

 この子のことは私に任せなさい。

 他の子も危険なのだ。

 しっかりと思い浮かべないと、ここに招くことはできないよ」


 叱られたわけではないが、厳しく命じられて、アリアンナ嬢は助けようと近づいたベアトリーチェの前で固まった。

 命令をしたクリスティアンには、今まで会った誰よりも威厳があった。

 動顛した心は完全には落ち着ていないが、それでも何とか姫騎士達の顔と特徴を思い出そうと集中した。


 それが幸いしたのか、次々と姫騎士達が何もないところに現れた。

 それにも驚いたアリアンナ嬢だったが、それ以上に驚いたのが、皇族だろう男が何かつぶやくと、ベアトリーチェが光に包まれ、失ったはずの左腕が徐々に再生しだしたのだ!

 いや、左腕だけではなかった。

 顔や体に受けていた無数の刀傷がきれいに治っていくのだ。

 アリアンナ嬢は驚愕で何も考えられなくなりそうになったが、先ほどの命令を思いだし、一生懸命姫騎士達を想おうと集中しようとしていた。

 

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