第5話 他愛のない理由

「っと、おっと」


少し勢い良く閉じてしまったせいで、机の上が振動で揺らぎカップの中の飲みかけのお茶の表面がゆらいだ。倒れたら大惨事だ。気を付けよう。


「はー。やらないといけないこと、いっぱいだなー。正直めんどくさいー。誰か私の代わりにやってくれればいいのにーって、無理かー」


立ち上がりながら私はもう一度部屋を見渡した。


祖母の死から1年。


慌ただしく葬儀や49日も終わり、少しずつ日常を取り戻していた頃、この家が取り壊される予定だと言う話を父から聞いた。


まあ、実は実家で叔父と父が話しているのを偶然耳にして割って入ってしまっただけなのだが。


都会とは違う瀬戸内海に面する小さな町にある祖母の家は、管理をするにも希望の者がいなく遺産としても価値がないため大きな荷物案件となっていたようだった。


土地を手放す前に家はどうするのか。その際の資金はどうするのかで話が頓挫しているらしく、このまま維持管理出来る人物がいないことが親戚一同の頭痛の種だった。


私には兄が二人いて、いとこも何人かいる。叔父夫婦も健在だし、亡くなった祖母の二人の兄ーー私にとっては大伯父ーーにもそれぞれ、息子夫婦がいて「親族としての人数」なら問題のないレベルだった。


だが、成人していても都市住だったり、既に戸建てを所有していて今さらこちらの管理まで手が回らなかったり、未成人だったり、鼻から興味がなかったりで宙ぶらりんの状態だったと言う。


そうなら、私が。と自由業を気ままにしている私が手を上げるのは自然の流れだった。


母は成人したとは言え、大切な結婚前の一人娘を実家から放して一軒家で一人暮らしさせるなんて、とかなりか保護ぎみに大反対したが、結局「戸締まりをきちんとする」ことと「定期的に連絡をする」ことと「警備サービスをいれる」ことと「戸締まりを含む保安上のリフォーム」をすることでなんとか妥協してくれた。


なお、「男性を家に泊める」ことは絶対にあってはならないと、重々言いつけられている。


友人にすれば「だから彼氏の一人もできない」のだが、返す言葉もなく苦虫を潰したような顔で押し黙る日々だ。


二十四にもなってこの過保護っぷりはかなり問題があるし、いささか頭痛の種でもあるのだが、母の気持ちもわからないでもない。


私は開けっぱなしの窓から外を見た。

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