天使を食らうもの
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天川翼を暗い部屋に閉じ込めて逃がさない。
足に重しをつけて、反吐が出そうなほど甘ったるい言葉をかける。
「死にたくない……!」なんて、小さな悲鳴を上げる。
そんな声出されたら……もう我慢なんてできない。いいよね?天川翼。
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ガチャン………ジャラ…ジャラ…
「は……っ………なに…するんですか…」
「静かにして。……ほら、せっかくいい顔をしてるんだから。逃げようとしたら……どうなるか分かるよね……。」
今、天川は僕に閉じ込められてとても困惑しているらしい。
困惑して迷わないように、重りを着けて簡単に逃れられないようにしてあげた。
可愛い顔を少しだけ歪ませている。分からない。
可愛さが増している気がする。堪らない。
どうしてそんなに僕をそそるのか分からない。逃げたそうにする意味も分からない。
だから許せない。虐めたい。
ずっとこのままでいさせてあげたい、今すぐにでも絶望を与えてあげたい……。
「ん…っ……」
ジャラ…
「天川?」
どうしたの、と声をかける。
「まだ…っ…いやだ……っ…ぁぁ……」
ジャラ…ジャラ…
逃げようとしてるのなんて、見ればすぐに分かる。
「天川」
少しだけ低くした僕の声に、天川の体は固まった。
「あ………っなっ…なっなんでもな……いぎっ!」
天川の首に着けた首輪のリードを引っ張ってこちらに寄せる。
「逃げようとしたら」
「がっ……!……っぐっ…ぇっ……えっ…えっえっ…くるじ…ぃ……!」
「……どうなるか…分かった?」
「あっ…っ…ぁぇ……わか……っ………わか…り……まし……た…ぁぁ…」
天川は苦しそうに息をしながら大粒の涙を流し始めた。
どうやら逃げられないと悟ってくれたらしい。…ああ、とても可愛い。好きだよ。
少し申し訳なくなった僕は、天川を近くに寄せて、たくさん愛でてあげた。
「好きだよ、天川」
頭を撫でてあげる。
「っ………こ……こ…わい……たすけて………もう……いやだ…」
天川は安心したのか、今思っていることを包み隠さず僕に教えてくれる。
「もう……いや…だ……こわい………はなして……ください……かえりたい…です…」
「駄目」
「う…うう……まだ……っ…やりたいことが…あるんです……」
「駄目だよ」
「…………もう関係ないことで…死にたくないんです……つらいから…こわいから……だから……おねがい…はぁ…っ…お願いします……」
「………。」
我慢出来なくなってきた。可愛くて可愛くてもう耐えられない。天川…天川の困っているところがもっとみたい。絶望させたい。堪らない。もう駄目だ。関係ないこと?そんなわけない少なくとも僕には関係あることだ早く早くはやくみないと逃げられてしまうかもしれない、早く急がないと、我慢できない……どうしようどうやって■そうか?
そうだ、もう辛くて怖いのなら、■してあげた方がいい。
それにきっともう辛い思いしなくてもいいんだ天川も喜んでくれる…!そうだよね!それがいいだろう幸せな死にかたをすればきっともう生き返ることはないはずだよね満足してくれるぼくのおかげですごいことだとおもうんだけどきっときみもすごくよろこんでくれるよねえへへへへへうれしいああああまがわあああああああかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいい
「………そうだぁ…そうだよ…!!うひゃぁぁ…!天川…天川…ぁ!きいてよ、きっとよろこんでくれるよ君も…大丈夫だから、すぐによくなる……君をすぐに楽にしてあげられるんだ!すごいことだからね………!!」
「ひぃ………っ!?…ああああ……!………いや…だ………!!」
撫でていた天川は可愛いけれど…なぜかもっと泣いている。だけど大丈夫だから心配しないで。
可愛い可愛い天川を移動させて、助けるためにすぐに準備に取りかかる。
なぜか興奮してきて手が震える。耐えないと。早くたすけてあげないと。
死は救済だ。僕の手で愛しい天川を今すぐにでも楽にしてあげることができるんだ。
だけどぐしゃぐしゃになった天川もきっとすてきだよね。
少し時間がかかってしまったが準備が出来た。
はやく始めよう。まずは…。
「いやだ…いやだぁ………」
と無防備に嫌がる天川の白衣をむしりとる…つもりだった。
けど手が震えていて、脱力してもなお、微力ながら暴れ続ける天川からはうまく取れなかった。
だから首を締めた。これで楽に取れるはずだと思って。
「が……っ…!!!!?…がひっ…ぁ…がはっ…はあは……んぐっ………!?……がぇっ…!」
「あまがあああっひゃひゃひゃひゃああああはあはあはぁぇへへへぇ!!!!!!!!」
天川が完全に息するのが難しくなってから、白衣と、それとリードを外してあげる。
全く抵抗しない。おかしいな、出来ないんだね。だからとても取るのが楽だ。
目の位置がおかしい。首もちょっとぐったりしてる。戻すのが大変そうだ。
それが見ていてとても楽しい。でもこれで十分だと言うわけない。
楽しみはあとに取っておかないと。
「うひゃははっ!うへへぇ…!!可哀想な姿……!天川が可哀想だよ…すごい!…ねえ…無理はしないで…すぐによくなるから、だからそれまで寝ていても大丈夫だからね、天川………!!」
「……だ…ずげ…て……ぇ………げぇぇ…い…いや…だ……」
死にかけの可愛い天川は何か言いたげだけど、僕はあえてそれを無視する。
本当はこれだけで満足するつもりだった。
視界の隅で微かに助けを求める天川を見ながらコーヒーでも飲もうかと思っていた。
けどそれより、もっともっと苦しむのが見たいと言う欲の方が強かった。
自分に抗えず、とにかく、喉の乾いただけの僕はナイフを天川の白い肌に押し付ける。
それからしばらく天川の体から流れる赤色の血を眺め続けた。美しいと思った。
天川は何をしても反応しない。泣いているらしい。
少し怪訝に思ったので、深めに抉ってあげることにした。
「…あ…ぐっ…?……あああ……っ…!……いた……い…いたい…!…や…めて……」
少し反応してくれた。気を失っている訳ではないようだ。よかった。
よく見てみると、刺した場所から反対側に刃が貫通してしまったらしい。
天川はより強く、痛がる様子を見せてくれた。息をする速度が速くなっている。
もっとみたい。あえて刃を引き戻すのをやめて見る。
「いたい、いたいよ……は…はやく…ぬ…いて…ちが………とまら……」
「…あああはっ…天川、苦しそうだね…」
「い…いやだ……だれ…か…あ……ふ…ふるや…さ…ん……たすけ……て…」
「っ…ねえ……天川…どうして…?」
…気に入らない。その憎らしい名前が。
降矢…。天川の先輩…と言うべきなのかもしれない…でも僕には憎くて堪らない。
それは天川がこの研究所に来たばかりのことだった。
その時の可愛い天川に一番最初に近づいたのがその男だった。
天川は幼い頃、ある事故のあった不幸な家で、全く外に出してもらえず親から理不尽な実験ばかりさせられ翼が生やされ、しまいには不死身になってしまった可哀想な子だったそうだ。
ここに連れてこられたのもいかにして天川が不死身になったのかを調べるためだ。
天川は…特に父が嫌いだったそうで、父に名付けられた自分の名前が嫌いで嫌いで。
嫌いな自分の容姿で、嫌いな自分の名前を騙り天川翼になって、
辛くて怖くて仕方ないのに助けてくれたここの為に何度も死んで、捨て駒のふりをする…。
そんな可哀想な子…だから…僕が助けてあげたかったのに…。
そいつは、世界を何も知らない天川に自分の考えを注ぎ込んだ。
人のために死ぬほど美しいことはないからとか言ってた気がする。
そんな事を言い聞かせているのなら、天川は僕のために死んでくれるはずだよね。
だから僕の事を覚えてもらう。その代わりに僕は天川を救う。
二度と天川が生き返らなくて済むように。生き返ってしまってもいい。
しあわせにしねるまでいためつけてあげよう。
「ほらぁぁ……!!!!」
ナイフを一気に引き抜いて怖がらせる。
許すわけには行かない。
「ねえ??…君の言う、その嫌いな名前のせいで僕はとても気分が悪いんだよ???」
「………ひっ……」
僕は、怖がる天川の口を無理やりこじ開けて、天川の腕を刺した後のナイフを差し込んだ。
「天川、もう何も言わなくていいよ。何か喋ったら許さないからね……うへっ…うへへ…ははっ……」
「………んぅ…!……は…っ……ぁぁ…!!」
何故か、天川に注意をしたこのあと、強く、天川がここに存在してくれる喜びに興奮してきて僕は長い間笑った。
降矢から天川を救ってあげられた達成感のせいか、天川を征服した嬉しさか、とにかく何故、自分が笑っているのか分からなかった。
「…ああっ…ねえ…天川……ぐちゃぐちゃにしてあげるからね…?????」
「ああ……!!いああ…………!!!ああああああっ…………!!!!!」
僕は天川にナイフを噛んだままにしないと■すからと指示した。
天川の悲鳴は篭って聞こえづらくなったが、さらに幽閉感が増した気がして僕は興奮した。
天川はそれから悲鳴や鳴き声やら救いを求めていたが、そのうち諦めたらしく、黙りこんでいった。
少し経つと天川の口からは血がだらだらと流れ始めた。助けを求めているうちにたくさん中を切ってしまったらしい。
僕はそんな天川を椅子に座らせて、腕を後ろに縛った。たくさんの死を経験した天川には簡単に逃げられてしまうかと思い、肘の所に手を組ませることにした。
それから適当に、そこら辺の研究室から持ってきた注射器と様々な薬品で即席の毒を作った。
これを天川に打ったらどうなるだろう。平気なままかもしれない。もう少し強くした方がいいだろうか。
……気になる。とにかくやってみたい。反応をみたい。これでも僕は研究者だよ天川。
早く実験したい。君がどうなるのか観察したい。絶望しているところを僕に頂戴。
僕が黒い液体入りの注射器を持つと、天川は早速篭った声で悲鳴をあげ始めた。
「んん…天川……注射がこわいの???」
駄目だよ。これも治療の為だからね、天川。
鋭い針が天川に打たれ、黒い液体がどくどくと天川に入っていく。
天川は首を少し首をがくりと落として目を虚ろにし始めた。効きが早いらしく、天川は汗をだらだらと掻き始めた。
力がうまく出なくなったらしく、口からナイフがこぼれ落ちた。
そのうち、天川は
「あっ…あ……おとう……ざ…ん……いや…もういやだ……じっけん…したくな…」
……どうやら、昔のことを見せてしまっているらしい。
「ううっ…うううぅ……こわい……ん…んやぁ…こあいぃ……しにだぐなぃ……」
「………ああああああ!!!いやあああああ!!!んああああっ……!どうじて……いやあ…いやあ……いや…いや…もういや……ぼくじゃない!ぼくじゃない…ぼくじゃない…やってない…ひどいどうしてそんあものいらない…じゃないから…ぼくはひとじゃない…から…おとうさん…」
「ころして、おねがい」
「もういやだ」
「うう…」
「…。」
天川は何も喋らなくなった。体もぐったりと倒れ込んでいる。死んでしまったらしい。
「天川、お疲れ様。」
これでしあわせになれるね。
僕は天川を抱きしめた。ほんのりと暖かい。
これが冷たくなっていくと思うとなんとも言えない気持ちになる。
僕は天川をそのままにして部屋を出ていった。
天川は直に降矢が探しに来る。確信している。逃げなければ。
僕はもう前々から、ここを退職することを決定させていた。
だから、きっと僕の居場所は永遠に誰も分からないままだろう。
さようなら、天川。君だけが僕を覚えててくれるんだね。
僕はこの暗い部屋を出ていく。
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