第20話 夢心地
フォクシー軍が我が国にやって来てからというもの、城内が魔族だらけになってしまった。
「チッ、なんで俺たちがあんなちんけな人間に従わねぇといけねぇんだ。魔力だって大したことねぇくせによ」
「そもそも、なぜ魔王さまもフォクシーさまもあのような下劣な人間を受け入れるのか……理解に苦しむな」
「あら、男のあんたらはまだましじゃない。私たちなんてすれ違い様にお尻を触られたり抱きつかれたり、セクシャルハラスメントの度を越えた行為を耐えなきゃいけないのよ」
「こうなったら私たちでフォクシーさまへ抗議するのはいかがでしょうか? きっとフォクシーさまならあの人間を懲らしめてくれるわ」
今日もご機嫌にスキップしながら次なる側室候補を物色。ハーピィーちゃんにケモ耳娘、多種多様なかわい子ちゃんが選り取り見取り。
これでテンションが上がらない男は男ではない。
一種族だけの寂しい生活を送っていたら、こんなにも胸が躍る瞬間が訪れることもなかっただろう。
まさにパラダイス――夢のまほろばとはこのことかっ!
「キャァッー!」
「イヤッ! 何すんのよ、この変態っ!」
ムフフ。ほどよく鍛えられ引き締まったお尻は見事な弾力と感触のハーモニーを奏でる芸術的逸品。しなやかでエッチなボディラインは日々の努力と鍛練が造り上げし結晶だな。
「うむ、素晴らしい! 百点だ!」
「なにが百点よっ! 調子に乗ってんじゃないわよ!」
「いい加減にしないとその小枝みたいな貧相な体を八つ裂きにするわよ!」
「どけっ! もう我慢ならねぇ、この俺がこの場で噛み殺してくれるわァッ!」
ハーピィーちゃんとケモ耳娘ちゃんとじゃれあっていたら、突然人狼の男が二人を押し退け身を乗り出す。そのまま大きな狼へと変貌を遂げた。
「おお、すごいすごい」
人狼が変身するところを見たのは生まれて初めてのことだ。テンションの上がった俺は拍手し、眼前の男を褒めてつかわす。
「な、舐めてんのかてめぇっ!」
「何をしておるのじゃ?」
そこへ我が側室フォクシーお姉たまがゆったりとした足取りで近づいてくる。
「「「「フォクシーさま!?」」」」
上司の登場にビシッと胸を張り、佇まいを正す兵を一瞥するフォクシーが俺へ顔を向ける。
するとフォクシーは目をはっと見開いて、間を置かず熱病に侵されたかのように赭面。
次には俺の元へ小走りで駆け寄り、たわわな胸をむぎゅっと押しつけてくる。
「もぉ~起きたらお前さまの姿が消えておったから、妾ずっと探しておったのじゃぞ♡」
「それはすまないことをしたな。フォクシーがあまりにも気持ち良さそうに眠っていたから、起こすのは心苦しかったのだ」
「して、お主らはこのようなところで何を油を売っておるのじゃ?」
絵に描いたようなデレ具合を見せつけるフォクシーが、キリッと表情を引き締める。その眼力に圧倒された兵たちがたじろいでいる。
「あ、あの……フォクシーさま?」
「なんじゃ?」
「そ、そのですね。そいつが……その人間が私のお尻を触ったんです!」
「……それが何じゃという?」
「え……?」
「尻の一つや二つ減るものでもなかろう。妾のご主人さまに触れてもらえるだけ光栄であろう?」
「「「「ご主人さまっ――!?」」」」
フォクシーの発言に目を丸くして、顎でも外れてしまったかのように硬直する兵たちをよそ目に、お姉たまが俺の胸を指先でこねくり回す。
「もぉ~、尻に触れたければ妾の尻を好きなだけ触るなり揉むなり叩くなりすればよかろう。妾のすべてはお前さまのものなんじゃから」
「うん、フォクシーのすべては俺のものだ」
「その通りじゃ。妾の下僕も皆、お前さまのもの好きにしてよいぞ」
「「「「えっ!?」」」」
目の玉が飛び出るほど動揺を隠せない彼らに、なんか文句あるのかとフォクシーが語気を強めると、一斉に首を横に振る兵たち。
その素直な姿に俺も頷き、嬉しくなってつい頬が緩む。
フォクシー軍の魔族たちが皆、とても気のいい連中ばかりで本当によかった。
というのも実のところ、俺は少しだけ不安を抱いていた。
いくら魔王フィーネが俺の傘下入りを許可したといっても、人間である俺のことをよく思わない連中もいるのではないかと。
しかし、それは俺の杞憂に過ぎなかった。
実際フォクシーは俺に一目惚れをし、その彼女が率いる魔族はとても忠実だ。
魔族だからという理由だけで、これまで人間は彼らに敵愾心を向けてきたが、話し合い、わかり合えばよき友となることを身を持って実感している。
このまま戦争など起こらず、人間と魔族が手を取り合って生きていけたら……どれほど素晴らしいだろう。
できることならそういう未来を待ち望む。
そうなれば、いまより沢山の女が我が国にやって来るかもしれない。その中にはきっと、とんでもない美女だっているに違いないと思っている。
「ああ、なんて勿体ない世の中なんだろう」
「ん……どうかしたのか? お前さまよ」
「ううん。ただ争いがなくなればいいなって思っただけさ。そうすれば一日中、フォクシーとベッドで戯れることもできるからね♪」
言いながらウインクを送ると、フォクシーの頭部からポッと蒸気が立つ。
そんな彼女の手を取り、俺は城内を歩く。
いつかこの世の誰もが、こうして種族などを気にすることなく手を繋ぎ歩けたらいいのになと思いながら、夢見心地で歩いた。
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