第48話 仕事②
事件の情報を得るために二人が真っ先に向かったのは、ギルドと繋がっているこの町で一番大きな酒場であった。
情報といえば酒場、と言うのは何処でも共通認識で、実際にこの町の酒場にも多くの冒険者や商人たちで賑わっており、情報を得るには打って付けの場所であった。
「本来この町にはここ以外にもう一つ大きな酒場があったみたいニャンだが、その店が事件の現場で貴族殺しに燃やされたみたいだニャ。だから今はこの酒場に自然と人が集まり、ここにこれば大体の事は話が聞けると思うニャ」
「そうか」
スーの説明には適当に相槌を打つが、内心は自分がいない間にティアが何をしでかしたのかが気になっており、初めと違いこの調査にかなり乗り気になっていた。
二人はさっそく酒を飲んでいる冒険者達に聞き込みを開始する。
すると、直ぐにその件について知っている男と出会う。
「ああ、あいつか!勿論覚えているぜ、あの野郎、いきなり現れてゲイルの頭に酒をぶっかけたかと思うと火をつけやがったんだ!」
男は酔いもあったためか、かなり興奮気味で二人に当時の状況を説明する。
「犯人と被害者は面識はあったのかニャ?」
「さあな、俺も離れた席で飲んでいたから会話までは聞いていねえからな。ただ向こうは知ってる感じだったな。」
「なら、何か殺されるような心当たりはなかったのか?」
「知らねえがあるんじゃねえか?なにせアイツらは結構色々とこの町ででかい顔をしていたからな、恨んでるやつも少なくなかったと思うぜ?」
――まあ、そうだろうな。
レーグニックも以前滞在していた時にアイアンヘッドについてはある程度噂は聞いていた。
依頼の強引な割り込みや報酬の上乗せ要求。冒険者と喧嘩など、とてもじゃないが素行はいいとはいえない内容ばかりで、実力以上に素行の悪さが目立っていた。
だがほとんどはギルド内でのよくある揉め事で自分が介入するほどの事でもなかったため特に何もしないでいた。
「そのアイアンヘッドの奴らはまだこの町にいるのか?」
「いや、もうこの町にはいねぇ、あの事件があった後にすぐに町を出ていっちまったよ。」
「あんたは相手の姿を見たんだニャ?」
「ああ、赤い髪が特徴的なまだ
「んー、それ以外にはないのニャ?」
それは元から知っている情報だけに、スーは更なる情報を掘り下げようとする。
「そうだな……そういえば確か奴が火をつけた時、呪文を唱えてなかったなあ、あと、その火は一瞬だったが青かった気がする。」
「無詠唱で青いの炎……と言うことは炎関連のスキルを持っている可能性があるみたいニャ。」
「どうだろうな。まあ、なんにせよまだ情報が足りないな。」
庇う立場にいるレーグニックにとって、情報が少ないことは有難いことだが、レーグニック自身少しティアの素性が少し気になっている。
元は貴族殺しという実績と、その見た目とはかけ離れた風格を評価し手を組むよう持ち掛けたのだが、それ以外の事は名前以外聞いてはいない。
「まあ、そいつのことを知りたければあそこで飲んでる奴らに聞くといい。」
そう言って男は別の席で酒を飲んでいる若い男二人の冒険者の方を指さす。
「なんでもアイツらはあのガキのことを前から知ってたみたいだったしな。」
――ほう
「そうか、邪魔したな。」
そう言ってレーグニックはテーブルの上にチップを置くと、そのまま紹介された男達の方へ向かう。
「あんた達に事件について聞きたいんだが……」
レーグニックが先ほどと同じ説明を二人にする。
すると、興奮して語っていた先程の男とは違い、二人を少し顔を顰めて肯定する。
「ああ、勿論知ってる。一年以上前に訪れた町の酒場でも男があいつにボコボコにやられたのを見たからな。」
――あいつ、暴れすぎだろ。
「喧嘩ニャンて珍しくニャイと思うけど、そんなに記憶に残ることだったのニャ?」
「まあな、何せその相手は実力のある若手のBランクの冒険者で、対するそいつは無能だったからな」
「……無能?」
その言葉に二人が顔を見合わせる。
「でも酒場では火の魔法を使ったって?」
「それはわからないが、無能なのは確かだったぜ。何せ自分で公表してたからな、喧嘩になったのも男がそいつが無能だった事を馬鹿にしたのがきっかけだったんだ。」
「あと名前も印象に残る名前だったな。」
「名前?」
「ああ、あいつは自分の事をティアマットって名乗ってた。」
「ティ、ティアマット⁉︎」
「龍王と同じ名前……か」
それが本名か偽名かはわからないが、妙にその名前はあの男にしっくり来る。
「正直あの時よりも見た目も変わってたから別人かと思ってたけどあの容赦のなさは相変わらずだったな。」
「ああ、改めて関わりたくないと思ったぜ。」
男たちはその時の事を思い返しながら再び飲み始める。
レーグニックとスーその後もは何人かの冒険者に話を聞いてまわるがそれ以上の情報は得られなかった。
「……とまあ、わかった情報はこれくらいか。」
「容姿と名前、後は無能だと言うこともわかったにゃ。」
「無能ねえ……」
その言葉をレーグニックは未だ信じられずにいた。
無能というのは神から見放されているとされ、この世界では生まれた時から忌み嫌われて生きるのが常識だ。
ステータスこそ高いが魔法もスキルも使えない為、大抵は奴隷として売られるか捨てられる。そして生き残る力もなくそのまま死んでしまうケースが多い。
そんな中、あそこまで堂々としている奴は非常に珍しい。
――まあ仕事してくれるならなんでもいいがな。
「さてと、じゃあ今日聞いたことを団長にその特徴を報告しろ、貴族殺しは赤い髪が特徴的で
「え?でも無能って。」
「無能が青い炎なんてだせるかよ、恐らく何かしらのスキルを持ってるはずだ。」
――まあ、実際は無能だろうが、ここは少し誤魔化しとかないとな。
酒場といった興行施設の大抵の建物には火事防止の火魔法耐性が施されているものだが、それが機能しなかったということは恐らくその火は魔法で広がったものではなかったのだろう。
「そうだな、奴はかの龍王『ティアマット』の再来だと言っておけ。」
と、更に脚色もつけておく。
――さて、あとは本人に直接聞いてみるか。
レーグニックはスーと別れると、ティアが拠点としている家に一人向かうが、そこには家が燃えた痕跡だけが残っていた。
「……そういう事か。」
レーグニックは家の焼け跡を見て経緯を察するともう一度酒場へと戻り、今度は酒場と繋がっているギルドの受付嬢へ話を聞きに行く。
「聞きたいことがあるんだが、あの燃えた家に住んでいた住人たちがどこに行ったかわかるか?」
「燃えた家と言うのはツルハシの旅団の方々が住んでいた家でしょうか?あのパーティーの方々はリーダーのエッジさんが釈放された後はこの町を出て行かれましたね。」
「場所はわかるか?」
「いえ、残念ながら――」
と否定しようとしたところで受付嬢は何かを思い出したようにあっ、と呟く。
「あの?もしかしてあなた、騎士団のレーグニックさんですか?」
「ああ、そうだが。」
「実はツルハシの旅団の方々から家の事についてレーグニックという男が訪ねてきたら手紙を渡してくれと頼まれていまして。」
「手紙?」
受付嬢から手紙を渡されるとレーグニックはその場で封を開けると
神の下へいく
とだけ書かれてあった。
「……ククッ」
「あの、どうかしましたか?」
「いや、なんでもない。邪魔したな」
レーグニックはギルドを出るとその後、泊まっていた宿に戻りスーに連絡だけして
次の日、町を出発した。
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