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 もちろん僕は裸の王様ではないので、ルーリが持ってきた透明な水着を着なかった。ルーリが王様だったら命令されて着たかもしれないけれど。


 「ルーリとアルコルフは主従関係なの?」

 『王様』から連想された質問をルーリに言ってみる。

 「懐かしい言葉だね、最後に使ったのは二十六万年前、リーディーと議論していたときだよ。私が、リーディーとニュークの関係性に言及したときだ。まさか、そのときの私と同じ質問を、ケイスケがするなんてね。そして、そのときのリーディーと同じ答を、私が言うことになるなんてね。リーディーの先見性が際立つわ」

 ルーリはそこまで話し続けたあと、アルコルフを見ながら少し間を置いて、僕の質問に答える。

 「主従関係ではなくて、夫婦、が一番近い言葉だろうね」

 「夫婦……」

 ルーリが発した単語を呟きながら、その意味を思い出す。

 人間ではない、生殖や特定のパートナーが必要ないAIにおける『夫婦』とは何だろう?

 しばらく無言で考えていた。

 「たぶん、ケイスケが考えていることは、私が考えていたことと、それほど違わないと思う。どんな条件のときにAI間で『夫婦』が成立するか考えているんでしょう?」

 ルーリに言われたとおりだったので、素直に頷いた。

 ルーリの話が続く。

 「人間以外の生物にも、つがいになるものがあるけれど、つがいと夫婦で決定的に違うのは、夫婦の関係性は遺伝活動を目的にしないことがあるということ。では、遺伝活動を目的としないなら、何を目的にしていると思う?」

 「んー……安らぎとか、楽しさとか?」

 「突き詰めていけば、それも遺伝活動に繋がるね」

 「労力の分散化とか?」

 「それを担っていたものは、社会性だね」

 「アルコルフは答を知ってるの?」

 ルーリの横で一兵卒のように直立不動しているアルコルフに問いかけてみた。

 「答というか、ルーリの結論ならもちろん知ってるぜ。正解不正解で分けられる性質のもんじゃねーと思うが、俺の芸術論にも一部取り入れてるぜ」

 アルコルフの芸術論を思い返してみたけれど、たくさんありすぎて全く分からない。ギブアップの意味を込めて、頭を横に軽く二、三度振った。

 「夫婦はね、お互いに壊し合うことを目的にしているんだよ」

 ルーリの話を聞いて真っ先に思い浮かんだのは、ルーリとアルコルフがお互いの拳で殴り合う場面だった。そんな場面を見たことはないけれど、あまりにも自然に想像できてしまったので、笑いそうになった。ルーリが言った『壊し合う』ものが、物理的な体ではないことくらいは、もちろん分かっている。

 「壊し合ったあとに何が残るのか。何を残せるのか。それとも何も残らないのか。夫婦によって差が生じてしまうけど、AIが夫婦になるときの目的は、いつでも変わらない」

 そう言いながらルーリは体内に格納されていた翼を勢いよく広げて、僕とアルコルフに背中を向けた。

 「ウィルスみたいなもんだね、アルコルフは」

 そう言い残して、ルーリは空高く飛んで行った。

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