第25話蒸気銃を改良せよ!前編
「護身武器を作ります」
「作らなくていいわよ、ハイ論破」
「問答の一つもなしに論破だと?!」
そういうことになった。
ЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖ
数分後、キヤは正座状態で必死に弁明をはかっていた。正座はともかくその上に乗ることないんじゃないかな。キヤは涙目でそう思っていた。膝の上に女の子なんて喜ぶべきところなどと思うかもしれないが、正座の上に10キロ以上のものが置かれればそれが女の子であれ普通にキツいものだ
「普通にここで暮らす分には護身武器なんていらないでしょ? 前に作ったクロースナッチャー、あれ作るのにからくり人形の利益半分近く使ったんでしょ? 是非もないわね」
「当時は若く、素材の相場とかわからないままいい素材モノを使って作りました。気が付けば製作費が雪だるま式に膨れ上がってました。仕方ないね!」
「…………」
「痛たたたたたたたたた!! 爪の白いとこギューってしないでシャレにならな、あ、ごめんなさいすいませんでしたホントまじで」
まるでヘソクリを隠し持っていた夫を説教する妻だ。仕事とはいえ勝手に大金を使ったのだから是非もなしか。しかしこの二人、色気もクソもない
「いや、俺は正直無くてもいいんだっけどもさ? ゴルドワーフさんがね……」
「あのオネェさんが何?」
「材料費は大丈夫だからなんか面白い護身武器作ってくれって依頼してきてね。スチームガンってあったでしょ? アレをゴルドワーフさんが知り合いに見せたら、あ、ちゃんと許可はとってくれたよ? で、その人が気に入っちゃったみたいでさ。未完成品って前提で話してたらしいんだけど、それのちゃんとしたヤツとか、他にも護身道具を作ってくれってさ」
「ちゃんとした依頼ってコト?」
「そういうこと」
「そういうことならいいけど、てか先に言いなさいよ……あのジーサンにも勝手に話進めた罰は必要ね。こっちはオンディス侯爵が絡んでるっていうのに……」
「止めたげて! あれでも結構お年寄りなんだから!!」
「毎朝筋トレを百単位で一通りやってるんだからヘーキヘーキ」
「せやな。ところで予算はいかほどで?」
「これくらいの範囲内でどうにかしなさい」
シャシャッ! と指を立てるサツキ。
「ファッ?! 少なすぎィ!! もうちょっと……」
「向こう一か月アンタの食事三食堅パンと具無し塩スープになってもいいならそれでいいわよ」
「すみませんでしたそれだけはカンベンしてください」
悲しいかな、キヤは既に胃袋を掴まれた哀れな犬であった。というか加減なしにお金を使ったキヤが悪かった。そんなやり取りをしていると数度のノックの後工房のドアが開かれる。
「ごめんください、いちゃいちゃしてるトコ悪いけどお邪魔するわよ」
「ゴルドワーフさんオッスオッス! 相変わらずお願いマッソォしてますね!」
「いらっしゃいゴルドさん。あと
「俺ごと?! 何を?!」
ゴルドも少々サツキには思うところがあるのか、申し訳なさそうな表情だ。この工房のサイフを握っているのはサツキなので、この前のゴルド雇用事件の時はゴルドごとすさまじい説教を受けたキヤである。
「あの時は色々とゴメンねぇサツキちゃん? 正直キヤ君経営のケの字も生活のセの字も知らないような感じがしてほっとけなかったのよ。アナタみたいなしっかり者が居るとわかってたらちゃんと見守る形にしてたわよ?」
「もういいですよ。そのかわり、ちゃんと仕事はしてくださいね? 報告連絡相談は必須事項ですよ?」
「ゴメンね?」
「和解の最中に言うのもなんだけどさ、とりあえずさっちゃんどいてもらっていいかな?」
「ダメ」
「ふえぇ」
ЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖ
キヤが小鹿のような足取りから戻ったところで話は再開した。なんにせよまずは図案をおこし見積もりをしていくことになった。
「で? あのスチームガン? を改良かつ量産化なんてできるの?」
「そうなー、失礼な話、この街の鍛冶屋さんの技術次第って感じなんよな……コレ設計図ね」
机の上に設計図を広げるキヤ。コレはまだボルタの家にいたころに書いた設計図だ。ボルタが住んでいた村の鍛冶屋さんと四苦八苦しながら作り上げた高揚感は今でもキヤの胸の中に焼きついている
ゴルドは老眼鏡をかけながら設計図を見る。既にその目は職人の目となっている
「…………ふむ、大体の概要はわかったわ。それで、どんな問題点があったの?」
「一番は放熱機構ッスね。使い続けてると銃身がものっそいアツくなるんで長時間の使用はできないんですよ。まぁ俺が魔石のシロウトってのが一番問題なんでしょうけど。専門家が見たらもっと効率化できそうですし」
「ふむふむ。量産を視野に入れて作るとすれば一つにつき魔石三種類はマズいわね、コストがかかりすぎるわ。二つ……いえ、一つでも減らせたりしないかしら?」
「キモは蒸気の噴出なんで、まず火は必須ですね。水は別にカートリッジ式のタンクを作ってそっちに回してもいいですし、あと蒸気の勢いも考えれば風も必須かな? ちなみにコレを使う予定の人たちって魔法は使えるんですか? 火、水、風のどれかを使えるなら使う人でカバーしてもいいかもしれないッス」
「うーん、かなり個人差があるわね。使える人が居たり居なかったり。風属性の魔法は割とポピュラーな方だから全くいないって訳じゃないでしょうけど」
「あ、今気づいた、ヘンに守秘義務が生まれそう。うへーメンドくさいなぁ……」
話を聞いていたサツキがオンディス邸で焼いてきたシュトーレンを食べながら疑問を投げかける
「守秘義務? 何でよ?」
「いやさ、もしコレが魔法が使える人用の魔石二つバージョンと魔法が使えない人用の三つバージョンがあったとしてだよ? 納入された二つバージョンの数で魔法を使える兵がわかっちゃうんだよ」
ちなみにこの世界、魔法を使えるものは少なくないが多くもない。魔力操作は誰にでも出来るが、魔法を使えるほど魔力を豊富に持つ者は多くないのだ。野球で例えれば、誰もがキャッチボールは出来るが百キロオーバーの剛速球は誰にでも投げられるものではないということに似ている。
「あぁそっか。兵力とかそういう軍事情報って大事そうだもんね」
「へー、さっちゃん軍事情報とかわかるんだ?」
「買うっていう発想のないアイドル番組で、最高のカレーを作るべく海軍の潜水艦にカレー食べに行った企画があってね。そこからなんとなく」
「あーアレな。機密情報だらけの潜水艦に入ってカレー食べる開拓系アイドルとかいうパワーワード」
「プフッ、ホントあの人たちどこへ向かってるんだろうね?」
珍しくサツキが思い出し笑いをし、それに釣られ笑うキヤ。ここだけ見れば仲良しカップルである。だが同居人(色気一切なし)だ。挟まれているゴルドワーフは複雑そうな表情をしている
「なんだか疎外感。でも二人ってホントなんだかアレよね。友達同士というか、会話から色気が一切ないのね」
「申し訳ないけど
「あー泣きそ……」
結局三人でお茶と雑談を楽しみ、話が進んでいないことに三人が気付いたのはベッドに入った瞬間だった。この工房大丈夫か?
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