宮本真乃介はパンツが見たい

@Riot1944

第1話 ちょっぴり嫌な顔されながらパンツが見たい

「…パンツが見たい」

「……はっ?」


我らの学校の一室、旧校舎にあるどの部活でも使われない場所で俺達は購買のパンを食べていた時であった。

500ミリの紙パック牛乳をストローで吸いながら唐突に発した言葉に俺は鳩の瞬きの様になりながら理解しようとした。


「いやぁ…なぁ…。ちょっぴり嫌な顔されながらパンツを見せてほしいと…思ったわけだ」

「…え?」


嫌々嫌々!?理解とかではない。一瞬藤原竜也みたいな声出ちゃったよこれ!?

何故パンツ?コイツまさかパンツレスリングにはまったわけか!?


「女子がプリッツスカートをたくしあげて俺を下衆を見るような目で見ながらおパンティーを見せてほしいんだ」


いかん危ない危ない、俺はホッとした。


いや、ホッとしてどうする?そもそもコイツはパンツ見せろと言ってるんだぞ?馬鹿なのか?女子のパンツ見せろとおっしゃってるだぞ!?

俺は思考回路をメチャクチャにされている。


「どうした?そんなに頭を抱えて?風邪か?」


お前のせいだよ。


「最近色々流行ってるし、なんなら俺が担任に言って早退させて貰うか?」


その優しさは嬉しいけど、殆どお前の言動が原因なんだよなぁ…何でさぁ…。


「いや、大丈夫だ。問題ない」

「一番良い装備使わないのか?」

「…やっぱり一番良い装備…ってちゃうわ!!」


コヤツのノリに引っ掛かり、思わずツッコミを入れてしまった。関西人でも無いのに…。

とにかく俺は真意を聞く事にする。でないとこのまま誤解がアンジャッシュするだろう。


「…まず、何故パンツを見たいと思った?」

「ただ見たいんじゃない。スカートの裾をたくしあげながらゴミを見るような目で俺にパンティーを見せてほしいのだ我が竹馬の友」

「とにかく黄色い救急車かハンニバルレクターが必要なのかな?と思った」

「それは笑えない冗談じゃない?」

「それは俺のセリフと言いたい馬鹿野郎」


ああ…コイツはどうしようもない変態だったのかぁ…救いようが無いだろうけど、コイツは俺を友と認めてくれる以上、何とかしてやりたい気持ちはある。

…いや、何とかしてやりたいとは全く考えていない。ちょっとコヤツに毒されてた。

まさかコイツの馬鹿因子は感染型なのか?

そもそもコイツと縁を切るべきじゃないのか?

クソッ!?塹壕の中で弾が僅かな兵士の心情はこう言うことなのか?ジョーイ伍長すまなかった…許してくれ。


「でだ、我が親友よ。誰であったらそのシチュエーションを叶えられると思う?」


叶うかよ。叶ったらブルースウィリスも彗星に残って爆弾爆発させねぇよ!


「候補としては、教育実習終わって今年入った新人の七丘ティア先生はどうだろう?」

「いやっ、確かにあの先生は断りそうに無いけれども…」


と少々妄想してみる。


七丘ティア先生 フランスと日本のハーフであり、語学力抜群で科学等も優秀とのこと。

ウチの学校にはALTの先生として授業を請け負いながら科学部の副顧問として新任ながらも勤勉に勤しんでいる良い先生である。

同時に外国人の遺伝子もあるのか、腰まで伸ばされた金色の髪は先まで艶やかで整っており、女性物のスーツで隠しきれない豊満なバスト、名陶芸家が造り出した様なくびれたウエストライン、そして歩く度に震えるヒップ。

何よりも男の欲望を叶えたような美顔。

唇にリップクリーム塗ってる所を撮った写真が一枚数千円で闇取引されてる所を考えてみれば当然の帰結であろう。


いかん、大切な先生をそんな目で見るのはとても恥ずべき事だ。

頭から振り払うように妄想を消し飛ばしながら一応説得を試みる。


「七丘先生は可哀想だろ、新任の先生困らせてどうする?」

「確かに。彼女は皆に打ち解けようと頑張っているし、そんな要求したらむしろ可哀想過ぎて気持ちが萎えてしまうな」

「そっちの問題?ねぇそっちの問題なの?」

「うむ…そうなると…後は今年生徒会長になった加賀美先輩はどうだろう?」

「無視したなオイテメェ」


俺の意見を聞く耳持たずに腕を組んで考え込む。

加賀美カナ先輩。在学中の学年成績では一位と三位を行ったり来たりする超優秀学生の一人。

スポーツも万能で陸上三種の百メートル走と走り高跳び、棒高跳びのエースとして陸上部を引っ張っている。

身長は170センチと女性平均より高めであり

若干ボーイッシュな面もあるため学園祭の時は喫茶の執事を任された程だ。

そのため男子よりも女子人気が高いのである。

ひとたび女子と一緒に居ると百合の花畑が見えてくるからある種の因果なのだなぁと推測。


「そもそも加賀美先輩と知り合いなのか?話してる所見たこと無いんだが?」

「うん?学校では学年違うし、彼女は生徒会の仕事があるから話は其処までしないぞ」

「じゃあ何故彼女が候補になってるんだよ?」


俺には全く検討がつかない。


「言ってなかったが、彼女とはLINEグループの一人何だか?」

「…えっ?」

「最近は個別にして色々話したりもしてるし最近はバレンタインチョコのレシピで盛り上がったなぁ」


コヤツいつの間に!?女子の壁すり抜けて加賀美先輩のLINEアドレス持っているだ

と!?

男子の中では咽び泣きながら土下座しても貰えない難易度インポッシブルの暗号だぞ!!


「…そういえば、先輩この間ラインに写真間違えて自身の下着姿送ってしまったのを思い出した」


ぶち殺す。生皮徐々に錆びた刃物でムキムキしながら殺してやる。


「大丈夫か?何か当たったのか?」

「……っは!!」


いかんいかん、とんでもないことを考えていた。

唯一無二の幼なじみをどう完全犯罪を行うのか色々模索してしまった。


「大丈夫、ちょっと嫌なことを思い出したんだ」

「なら良かった」


ホッと撫で下ろす姿を見ると本気で心配してたんだな…。

なんだかんだ色々あったが、保育園から続く仲であるし、馬鹿みたいな事を考えるのは止めとこう。それが一番。


「ってか何で加賀美先輩のLINE知ってるんだ?あの人あんまりプライベートにクラスメートも入れないって聞いたけど?」

「ああっ、ウチの親父と加賀美先輩の父親が義理の兄弟でね」

「…そう言うことか」


つまり母親同士が姉妹で、近親の従姉になると言うわけである。

そりゃ従姉が同じ学校であればLINEアドレスも手に入れられるわこりゃ。


「加賀美先輩のご両親が海外出張の時は家から通ってるし、一緒に夕飯作る時もあるんだ」


チクショー羨ましい。


「考えてみれば、彼女にパンティー見せて貰うのは背徳感より困惑しか無いなこれ」

「近すぎて異性の対象と見えない所?」

「その通りだな」


東京湾にコンクリ詰められて溺死される姿を思い浮かんだ。


「…後は誰が居そうだろうか?」

「そもそも居るわけねぇだろうが」


精一杯の正論をぶちかましてみる。


そんな中、ガラリと部屋のドアが引かれる音が鳴る。

其処には一人、女子がいた。


「仁ノ宮君、宮本君。そろそろ昼休み終わるわよ?」


肩まで伸ばした髪は束ねてツインテールにし

七丘先生より劣るものの将来有望なスタイルを持つ我がクラスのクラス委員長こと。


朝比奈凉夏が其処に居た。


「…おや?もうそんな時間か?」

「後10分で終わるから次の授業の支度しないと大慌てになるんだからね?」


宮本こと俺の親友が時計を見ながらパンの袋を小さくまとめながら指定のゴミ箱に入れる。

俺も食べ終わった弁当箱を重ねてしまい、少し名残惜しみながらも立ち上がる事を決めた。


「所で、また二人とも下らない話に花を咲かせてたの?」


委員長が目を細めてニヤリとしながら問う。

宮本も「うむ」と答えながら話を続けた。


「実は、誰に頼めば犬の落とし物を見るような目でスカートをたくしあげてショーツを見せてくれるか考えていた」

「ブッ!?」


平気で淡々と話すとは流石に思わなかった。

委員長も口を半開きで「ナニソレ」と言わんばかりに狼狽する。


「委員長ならどうすれば良いと思う?」

「ちょおまっ!ヤメっ!!」


何故聞く、コイツは何故女子に聞く!?


徐々に委員長の顔が真っ赤になり、なんと言うか漫画で良くある冷や汗みたいなのもかき始めてる。

理解し始めると細っこい指をコネコネしてモジモジしてどうすれば良いのかシッチャカメッチャカの状態だ。


「大丈夫か委員長?」


鈍感なのか鋭敏なのか、真顔であるが心配する。

俺は早くこの場を何とかしたい。


「あっ…えっーと…そのぉ~なんと言うか…」


委員長、時々出てくるポンコツ成分は今は要らないから!「バカなの貴方!」と一言言えば良いんだから!!


「委員長、ご決断を」


何決断すんだよこのド天然!テメェはオオサンショウウオと一緒に暮らしてろ!!


「…あっ…うぁ…」

「…委員長?」


………

……


「…………知るかぁーーー!!」


委員長の上段回し蹴りが宮本の頚椎を見事にクリーンヒットした。


「ジェロニモ!!」


パラシュート降下でもするのかと言う断末魔を上げ、宮本は倒れ伏せる。


「…仁ノ宮君?」

「ハイ!!」

「何もなかったわね?」

「イエスマム!!」


思わず敬礼しながら、踵を返して行く委員長を見送る。

その傍ら宮本は殺虫剤掛けられた無視のごとく痙攣していたが、コヤツの頑強性はザクマシンガン弾いたガンダム並みなので心配要らない。


「…さて、立って行くぞ」

「………うむ」


何事も無かったように立ち上がる宮本、ガンダムは伊達じゃないな。

俺達は急ぎ目に次の授業に遅れないよう教室に向かうのであった。



尚、墓まで持っていくつもりではあるが。


委員長が上段回し蹴りを行うと、必然的にスカートが舞い上がり、隣の俺の位置では見えてしまうのだ。


「まさか紅白のストライプとは…」


俺こと仁ノ宮和彦はちょっとした甘酸っぱさを感じながら残りの時間を過ごすこととなったのだった。





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