一歩
人間という存在はクソで、蛆虫のように群がっては誰かを喰らい、自分の養分にして生きている。
餌をやれば寄ってくる獣のようだが、もっとよこせと騒いだ挙句、救ったその人物に対する恩を仇で返す、足蹴にして自分が優位に立とうとする。
ナオミ以外の人間はきっと誰だってそうだ。
「そうだよね、ナオミ」
俺は腕枕をして、彼女の頭をなでた。
「はい、そのとおりです、ユキハルさま」
俺は計画を実行する。
まず手始めに教会を俺の拠点にする。そのためにはポイントが足りない。
そうだ。
俺は街へ繰り出し、冒険者ギルドに赴いてクエストを発注した。
「ダンジョンの攻略ですか?」
「ええ。近くにあるダンジョンから魔物が沸き出て困っているんですよ」
「わかりました。達成報酬はこれくらいになりますが」
受付嬢は金貨30枚分を要求してきた。さすが金の亡者。
「これで足りますか?」
俺は特級ポーションを取り出した。
「これは! ……わかりました」
受付嬢はさもそれでぎりぎり足りるかのように振る舞いポーションを奪った。
「ではよろしくお願いします」
俺はギルドを出た。
◇
冒険者より先に鑑定士が来た。ダンジョンがどのくらいのレベルなのかを計測に来たのだろう。俺はその時出現する魔物をスライムなどの弱小に変えておいた。鑑定士はダンジョンをEランクと判定し帰っていった。
Eランク冒険者が連日のように訪れ、偽のルートを通ったいったが、いつまでも魔物が出現し続け、ダンジョンコアも見つからない、怪しいと感じている様子だった。俺は索敵装置のカメラからその様子をみていた。
冒険者たちは罠にはまって次々と死んだ。このダンジョンを攻略できるものはいない、いくら対策を練ろうがボス部屋にすらたどり着けないだろう。
なぜなら俺は新しいダンジョンをダンジョンの中に生成しているからだ。
偽ダンジョンのボス部屋には死だけがある。
――冒険者が死ぬのは日常茶飯事なので気にもとめていません。
俺はインベントリの『解体』で殺した商人ダニエルの言葉を思い出した。そうだ。冒険者は死ぬ運命にある。
連日訪れる冒険者たちがダンジョンに入りこそすれ出ていくことはなかった。
特級ポーション一つでその何倍ものポイントを獲得できる。
人間の欲とはかくも醜い。
◇
俺はナサギ教会へと赴いた。シスターたちは俺を恐れているようだったが同時に崇拝もしていた。
畏れる。
その言葉がよく似合う。
「神様、今日はどういったご用件で」
司祭がひざまずき深々と頭を下げて言った。
「この教会を発展させる。ソーリッジで一番の大教会にしてやろう」
司祭は驚き顔をあげると、言った。
「そんなことが可能なのですか!」
「ああ、できる」
俺はにんまりと笑みを浮かべて答えた。
あの計画を実行する。
元の世界でも起こっていたことだ。
聖戦。
異教徒を殺戮し、捕らえ、自らの宗派へと改宗させる。
まずは兵が必要だ。
敬虔な兵が。
俺はあの獣人マーラとレイにもらった緑色のネックレスを取り出してつけた。
「まずは獣人を教徒にする」
◇
索敵装置をダウジングマシンのように持ち歩きながら森を進むと、黄色のマークが点在する場所が見つかった。俺はそちらのほうへ歩いていく。
懐かしい結界の感触があって、俺は村の中へと入った。
獣人たちは俺の姿を見て驚き、臨戦態勢に入った。
「ああ、戦いに来たわけじゃない。殺しに来たわけでもない。お前たちに新しい街をやろう。その代わり、改宗してほしい。そんなに難しい話じゃない。ただ、俺の話を聞いてほしいだけだ」
しばらくすると村長と思しき人物が現れた。
村長は俺が首にぶら下げているものを見るとため息をついた。
「それをどうやって手に入れた? まさか殺して手に入れたのではなかろうな」
「マーラとレイという獣人にもらった。マーラは猫、レイはウサギの獣人だ。俺は……俺は彼女たちを救えなかった。殺したのは騎士たちだ。俺は指示をした人間と騎士たちを殺した」
下唇を噛んで俺は目をそらした。感傷に浸るときではない。
村長は息を吐いた。
「マーラにレイ。覚えておるよ。まだ国王が獣人たちを虐げていなかったころ、あの村との交流があった。遠い村だが、あの村の村長は戦友でな。そうだったか。若いの、名前は何という」
「ユキハル」
「ユキハル、本当に私たちをこの窮屈で危険に満ちた場所から助け出してくれるのか?」
「衣食住のすべてを保証する」
俺はどこかで聞いたことのある言葉を自ら発した。
「そうか。ひとつきになることがある。改宗してほしいとはどういう意味だ。われらは神を信じていない。このようなことになってしまったからな」
村長は苦笑した。
「さっきも言ったが難しい話じゃない。人間を憎み、人間を捕まえて、奴隷にする」
村長は眉根を寄せた。
「ユキハル、そちも人間であろうが」
「人間を憎む人間がいて何がおかしい。俺は奴らに復讐する。虐げられてきた分虐げ、裏切られた分裏切り、使われた分使う」
村長はぎゅっと目をつぶった。
「その気持ちは痛いほどわかる。わかった。私はそちに従おう」
「話が早くて助かるよ」
俺はクローゼットを出した。
「俺と一緒に入れ。街に案内しよう」
俺はクローゼットに入る瞬間に言った。
「少し血なまぐさいがな」
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