首輪
貴族たちの間である噂が流れていた。
獣人の村を制圧した子爵、ライアンが何者かに使用人ごと殺され死体を抹消されたと。
恐れるものがある一方で憤慨する者たちもいた。
獣人たちの復讐があったに違いない、と。
彼らは獣人を排除すべく着々と準備を進めていた。
◇
俺はマーラとレイ、そして村の獣人たちの墓を作り、花を添えた。墓は村のあった場所に作った。家々はまだ生活の匂いを残していたが、壁にベッタリとついた血が村の色を変えてしまっていた。
墓の前に座り込みじっとその石を見つめる。
「復讐は果たしたよ。でも、どうしても気持ちが収まらないんだ」
まだ殺し足りない。選択をしなければならない者たちがいる。
でも誰が?
考えていると、足音がして、俺は振り返った。
あの顔に大きな傷のある、団長と呼ばれていた女騎士が立っていた。俺は立ち上がりもせず、ただぼそっと、
「足を踏み入れるな」
そうつぶやいた。
「話がある」
女騎士は一歩足を踏み出した。
「殺されたいのか?」
彼女を睨んだ。女騎士は顔を真っ青にして後ずさった。
「随分と雰囲気が変わったな」
「そうかな。そうかもね」
「話があるんだ」
「何だ」
騎士を見ずに言った。
「私は今までずっと正義を貫いてきたと思っていた。でも違った。こんなことになるなんて思っていなかった。私は……洗脳されていたんだ。ライアン子爵が死んで初めて知ったよ」
女騎士は自嘲した。
「言ってなかったな。私はセレナ・ノーサム。元王立騎士団長にして前国王の側近の一人だった。こんなことを忘れていたなんてな。洗脳魔法とはすごい」
「それで?」
「この村を私は襲っていない。だからといって罪がないわけじゃない。罰は受けよう。Tただ話を聞いてほしい。獣人はこれからも殺され続ける。国王が獣人たちを殲滅せよとお触れを出したんだ。知っているか?」
「知らない」
「どうか他の獣人たちも守ってやってほしい。君には力がある。あの数の騎士たちを殲滅したんだ。あれはかなり精鋭だったのだぞ」
俺は黙っていた。
正直、獣人たちのことなんてどうでも良かった。今はナオミがいる。彼女を愛している。ただ、マーラとレイを失った心をどうしても埋めることができない。
「明日もまた来る。どうか考えてほしい」
セレナはそう言っていなくなった。
夜になって俺は帰宅した。
「おかえりなさいませ。ユキハル様」
「ただいま」
俺はナオミを抱きしめてそのまましばらくそうしていた。
その時、またスマホがなった。
俺はナオミから離れると、作業的に電話に出た。
「やあ、アツアツだね」
「なんのようだ」
「いやね、LEVEL22にあがったから連絡をしたんだよ。ああ切らないでほしい。今回はクエストを持ってきたんだ。ゲームでもよくあっただろ、クエスト。それをこなしてほしい」
「興味ない」
そう言うと、いきなりナオミが苦しみだした。
「ナオミ! ナオミ!」
彼女の体に黒い入れ墨の光が現れる。
数秒でそれは消え、ナオミはふうふうと息をついて、立ち上がった。
「もう大丈夫です」
「話を聞かないと、ナオミが傷つくよ」
「おまえがやったのか!!!」
「そうだよ。だからさあ、クエスト受けてよ、ね、そのほうがお互いのためになる」
俺は舌打ちをした。
「内容は?」
「セレナの要望を受け入れるんだ」
「獣人の村がいくつあると思ってる。それに場所だって知らない」
「まあまあ落ち着いて聞きなよ。セレナが言ってただろ、王が変わって、獣人殺しが始まったんだ。わかるかい。要するに」
「王を殺すのか」
「御名答」
「でも、どうやって」
「まあ、クローゼットには王室までの転移門が作れるから一瞬で殺そうと思えば殺せるんだけどさ。今回のクエストはちょっと難解でね。ある人達を救わないといけない」
「だれだ」
「正当な国王とその側近だよ」
「生きてるのか?」
「まあ、なんとかね。側近たちは城の地下牢に、正当な王は塔の中にいる。それを助け出すんだ。クローゼットでね」
カマエルは簡単そうに言うが警備の状況もわからないのにいけっていうのか。しかし、俺は、領主を惨殺している。結局は同じことだ。
「わかった」
「それじゃあよろしく」
電話が切れた。
◇
翌日、墓の前でセレナと落ち合った。
「考えてくれたか」
セレナは期待を込めていった。
「ああ、正当な国王とその側近たちを救う」
セレナは予想外の答えに目を見開いた。
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