第26話翠を守る為に出来る事
お昼休みに真白と話してから、午後の授業を集中せずに翠を守る為の考えを張り巡らせた。
今は翠を守る為の行動を考えられはしたものの、守るだけで根本の解決にはなっていない。
どうすれば翠を根本的に守れるか。まあ、単純な手段なら日堂に翠に手出しさせられないようにすればいい。
でも、そんな単純な手段が出来る訳がないんだよなあ。と、手に持ったシャーペンをクルクルと回しながら窓の外を眺めた。
「蒼ちゃんどうした? 上の空じゃないか」
「……礼、流石に後ろ振り向くのはダメじゃないのか?」
今現在の授業は長老と呼ばれるおじいちゃんな先生の数学。なにをしても怒らないので、生徒の大半はおやすみ中だったり、違う科目の勉強や漫画を読んだりしている。
みんな好き勝手してるが、礼も礼で俺と会話する為に後ろを振り返った。一応は注意をするが、ちょうどいい、日堂について聞いてみるか。
「まあ、暇だからな。長老は授業めっちゃ眠いけど、ノートさえまとめたら点数取れるし」
「おっと礼、さらりと勉強出来る発言だな。……これだから賢い奴は」
「ふへへ。またノート貸してやるよ。それよりどうした? 悩みか?」
「まあな、日堂の件でさ」
軽口を叩きながら、本題をさらりと礼に告げると、礼の顔つきが察したように鋭くなった。
まったく、察しが良くて助かるよ。
「成る程な。なんか俺で手伝える事は手伝うぞ?」
「ありがとうな。じゃあ、早速で悪いんだが少しでも情報をくれないか? 日堂の弱みとか」
「うーん。聞いた話だが、日堂が二年の頃に年下の女子にボコボコにされたみたいでな。それ以来年下の女子に強い恨みをもってるようだ」
「へえ、年下にねえ」
「ああ。だから、年下を狙って乱暴を働くという噂があるが、その女にだけはトラウマを持ってるらしい」
礼から日堂の清々しい程のクズエピソードが呆れを通り越して笑えてくるが、少しだけ光明が見えてきた気がする。
日堂をなんとかしようと思ったら、その女子を見つけて協力をお願いする事が出来れば勝ち確定だろう。
「礼、その女子の情報をもらえないか? なんでもいい」
「え? すまない、日堂の年下としかわからないな。俺も翠ちゃんが心配で先輩から聞いただけの事だからさ」
「そうか、わかったよ。むしろ謝らないでくれ。翠の為に動いてくれたって、それだけでもありがたい」
礼から教えてもらえた情報はありがたい情報ばかりで謝られるような事ではない。
むしろ、俺からすれば俺だけじゃすぐには集められなかった情報だと思う。
それを礼は先輩に聞いてまで集めてくれたんだ。本当、親友っていいもんだ。
俺が素直に感謝すると、礼は照れくさそうに頬をかいて少しニヤリと笑った。
「いいってことよ。役に立てたならなによりだ。さっきも言ったが俺に出来ることがあれば協力するからな」
「ああ。恩にきる。頼りにしてるぜ」
「おう。なんてったって親友だからな」
礼はニッコリと笑って拳を突き出した。俺も応えるように拳を当ててニヤリと笑い返した。
こう言ってはなんだけど、魅墨とはやっぱり違うよな。自然な感じというか。まぎれもない親友って気がする。
魅墨もこれくらい自然な感じになれるだろうか。今頃くしゃみをしてるだろうが、別に魅墨の事は嫌いではないし、親友になれるようにしないと。
「なあ、礼。親友ってどこからが親友だ?」
「ん? そうだなあ。……拳を突き合わせたら親友じゃないのか?」
……前言撤回。こいつ、魅墨と同じだった。
どうやら、親友というのは握手したり手を突き合わせたら親友だそうだ。少なくとも俺の親友業界ではそうなんだろう。
こいつら、手が触れたら親友を増やす気じゃないだろうな。
「な、なんだその痛い奴を見るような目は。悪かったな。考えた事もなかったんだよ。気兼ねなく気を許せるようなのは蒼ちゃんしかいないからな! 言わせんな恥ずかしい」
俺が怪しむような目で礼を見ていると、礼は顔を真っ赤にしながら恥ずかしくなるような事を言ってきた。
いかに俺が好きなのか語る、デレ礼さん頂きました。
可愛い奴め、お前が女の子なら告白してるよ間違いなく。
「ありがとうな。俺も礼を親友だと思ってるぞ」
「クソッ、ニヤニヤしやがって。どこら辺が親友だと思ってるか言ってみろ」
礼は顔を赤くしながら先程のお返しとばかりに質問してきた。なんだこいつ、急に可愛くなりやがって。
それに、今の俺にその質問をしてきたら回答は一つしかないんだけどわかってて聞いてきてるんだろうか。
わかってるのであればマゾだと思うし、わかってないのなら天然ちゃんだろう。
いかん、礼がすごく可愛くなってきた。ラノベの世界ならワンチャンヒロインだな。
まあいい、ここまで可愛くなった礼をもうひとおちょくりしてやるか。
俺は最高潮にニヤニヤしながら口を開いた。
「そうだな、拳を突き合わせたらだな」
その後、礼は顔を真っ赤にしてしまったのは言うまでもないだろう。
礼は無言でそっぽを向くと、それ以降はこちらを振り向く事なくガリガリと長老の授業をそれはそれは真面目に聞いていた。
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