13

私の話はこれで終わりです。これくらいでもう十分。


だってこの手紙を書いたのは、何より九十九にありがとう、と言うためだからです。


家出をしたあの日だけじゃなく、九十九はいつも私を救ってくれていたのです。


絵画のコンテスト、応募していたでしょう?

展示会を見に行きました。


私は優秀賞を取った作品よりも、九十九の絵のほうがよっぽど好きでした。


そのとき九十九の絵が載ってる画集を買って、家に帰ったの。

それで、悲しくなったり、不安になったり、眠れない夜があったりすると、決まってその画集を開いて、九十九の絵を眺めてた。


九十九の絵を見てるとね、なんだか不思議と泣きたくなるの。

その、泣きたくなるっていうのは、説明するのが難しいのだけれど、苦しかったり、悲しかったり、マイナスの感情から生まれるものではありません。


そうではなくて、どこか凝り固まった心の奥が、やさしくほどけていくような、慰し、という言葉が近いのではないかと思います。


九十九の絵を見ることで、どうにか夜を耐えることができました。いつからか、私にとって九十九の絵は、心のよりどころになっていたのです。



――私は九十九の絵が大好きです。


だから、もしお母さんとお父さんに、芸術関係の学校に進むことを反対されても、気にせず好きな道を進んでほしい。


大した額ではないのだけれど、バイトをしてためた貯金を、九十九に持っていて欲しいなと思います。必要なときに使ってください。

通帳を九十九の机の引き出しに入れておくね。



家出をしたあの日、九十九が私をつなぎとめてくれたように、九十九が道に迷ったとき、このお金が九十九を助けてくれることを願ってやみません。


私はいつでも九十九の味方だし、見守っているのだということを、どうか忘れないでいてください。







       最後に、私の妹でいてくれて、本当にありがとう。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る