閑話 嫁いできた嫁(アナルド視点)

妻の顔も見ずに戦場へと赴き、ひたすらに前線で日々を過ごす。

長引く戦火だったが、アナルドは淡々と業務をこなすだけだ。


戦場が人生を面白くするのかと思えば、答えは否だ。

だが、終戦に向かった途端、少し物足りなくなったのだから自分に少しは影響があったのだろう。だが、その程度。

しばらくは大きな戦争もない。内紛だのと小さな小競合いに駆り出されるかもしれないが、そう頻繁には起こらないだろう。

気落ちしたところへ、顔も見たことのない妻からの手紙が戦場に届く。


そういえば、結婚したのだったと思い出しながら手紙の内容を見て少し期待したのがいけなかったのだろうか。


上司は確かにこの結婚が人生面白くなると言った。

そこまで信じた訳ではないが、この感情に面白いと名付けることは難しい。むしろ不快さが増した。

それとも人生にスパイスを与えるという意味で使われたのか。だとするならば、上司のいう面白さを一度追及したほうがいいかもしれない。不快な感情を抱えていくのは、ひどく疲れるからだ。


久しぶりに実家に顔を出して、血の繋がっていることが不思議な父と会話を交わしてみれば自分が気に入った情婦を引き留めて欲しいとの懇願だった。

自覚はないが、立場的には息子の嫁だ。嫁いだばかりの頃は成人したての16歳だ。そんな少女のような女に手を出してすっかり骨抜きにされている父を見るのは、酒浸りの父の姿を見る以上に不快だった。


そもそも帰還命令が来て帝都に戻ってきて一月余りが過ぎている。実家に戻らず軍から支給された部屋にひっそりと戻って嫁に関する情報を集めればとんでもない毒婦だった。

大商人として有名な叔父との爛れた関係から始まり、帝都一の学校では級友を相手に刃傷沙汰を起こし、自分との婚姻後には義理の父と、さらにスワンガンの領地に行っては信奉者を募っているらしい。全部が全部体の関係があるとは思わないが、父の様子からすると確実だろう。


父の頼みを了承する気などさらさらないが、上司にすら殺意を抱くほどの不快さに眩暈を覚えたほどだ。

そんな妻からの離婚の要求。

さらに条件のいい相手が現れたのか、それとも単に義父との関係を切りたいだけか。どちらにせよ、己には全く関係のないことで逃げようとしている妻に初めて激しい感情が湧いた。

なるほど、この自分をここまで滾らせるなど、なかなかの相手に違いない。


そもそも最初に期待した自分が愚かだったのだ。そんな自分にも腹立たしく、相乗効果で顔も見ぬ嫁に不快さが増すのは当然と言えた。


「なんとも大層な女を嫁にもらったものだが、離婚したいと言う相手の願望をすんなり叶えるのも業腹か…」


離婚には応じよう。

ただし、相手にもそれなりの仕返しをしたい。

ついでに人生面白くなると称し、この婚姻を勧めた上司にも報復を。

アナルドの頭脳は綿々とした計画を立てるのだった。

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