第4話 放課後と彼女の本音
なんやかんやの昼休みを経て放課後。僕は歴史研究部という部活に所属しているけど、活動は火、木の週2回だ。
というわけで、そろそろ帰ろうかと席を立とうとすると、真澄からのメッセージが来ていた。
『そっちは、まだ学校おるん?』
『まだいるよ』
どうしたんだろう?
『うちもまだなんよ。一緒に帰らへん?』
手作り弁当に続いて、このお誘い。もちろん、断るわけはない。返事はYESだ。
『そっちに行けばいい?』
『ええよ。うちが行くから。校門前で待っとって』
『じゃあ、お願い』
手早く下校の準備を済ませて、校門前で自転車で待つことにした。
しばらくすると、真澄が近づいてくる。とともに、周りがざわざわする。
「おい、東津高校の制服じゃね?」
「あ、ほんとだ」
「誰かうちに彼氏でもいるのか?」
そんな声が回りから飛んでくる。単純に珍しいものを見た、という感じだ。
うちは男子校なので、良くも悪くも、学校一の有名人みたいな奴はいない。
それに、あんまり他学年まで関心を持たない奴も多い。
とはいえ、会うその場面を見られるのは気まずい。
遠目で真澄を見ながら、メッセージを打ち込む。
『ちょっと』
『ん。どしたん?』
『悪いけど、校門からちょっと離れたとこで待ってて』
『いいけど。なんかあったん?』
『うちの連中が見てるんだよ』
『そんなの気にせんでええのに』
『僕が気にするの』
『わかったわかった。そなら、ちょっと先で待っとくから』
冷や冷やしていたけど、無事に言うことを聞いてくれたようだ。それにしても、真澄はやっぱり僕からアプローチされていることに気が付いてないような気がする。
校門の少し先で待っていた真澄と無事合流。
「お疲れさん、コウ」
「真澄のおかげで疲れたんだけどね」
「?」
何の話だろう、という顔をしている。駄目だ。
「こっちの話」
帰りは自転車を押して歩いて帰ることになった。
「そういえば、お弁当。ありがとう」
弁当箱を受け取りながら、
「ちょっとしたサプライズやったけど、どやった?」
ちょっと悪戯ぽく微笑む真澄。
「確かに驚いたけどね。とにかく、美味しかったよ」
「それは、なによりや」
彼女は、屈託なく嬉しそうな顔でそう言う。
こういう表情にもどきっとさせられてしまう。
高揚を悟られないように、努めて平静を装った。
「それで、どうしたの?」
「どうしたって?」
「急にお昼ご飯作ってきたり、一緒に帰ろうと言ってきたり」
平日にメッセージのやり取りをしたり、放課後にデートらしきものをすることはあったけど、僕の方から誘いをかけてた事が遥かに多かった。
だから、真意を聞いたのだけど。
「……コウのイケず」
ジト目で悪口を言われる。
「なんで罵倒?」
こっちは理由を聞いただけなのだけど。
「それくらい、わかってくれてもいいやん」
少し拗ねたそうにそう言う真澄。
「といっても……」
そういえば、朝に、昔が懐かしいと言ってたけど。
「ちょっと、こんなこと言うの恥ずかしいんやけど」
こちらから目線を外しながら、ぽつりぽつりと語りだす。
「正直、うちは寂しかったんよ」
「寂しい?」
「いつも一緒やったのに、コウは別の中学に行くし。もちろん、他の連中もな」
後半は取ってつけた気がするけど、気のせいだろうか。
「そっか。それはごめん」
僕も寂しい思いはあったのだけど、てっきり一方通行かと思っていた。
まさか、真澄もそう思ってくれていたなんて。
「やから、また、一緒に登下校したいんや。それだけ」
その言葉には、まじりっけなしの本音が出ている気がした。
「そっか」
だから、僕は、短くそう答える。
思えば、中学以降の僕は、少し真澄と距離を置いていたような気がする。
遠ざける、という意味じゃないのだけど、ただの幼馴染じゃなくて、一人の異性としてみて欲しい、とそんな気持ちばかりが募って。
会うときは、男として見てもらえてるかどうか、そんなことばかり気にしていたような気がする。休日や部活の無い放課後も、どこか「あらたまって」会う感じになっていた。
僕と真澄の関係はそんな単純なものじゃなかったはずなのに、こんなちょっとした寂しさにも気づいてあげられなかったなんて。
「じゃあ、これからはできるだけ一緒にってことで」
「あんがとさん」
彼女の横顔は少し嬉しそうだった。
これからは、意識されているかとかばかり気にしない方がいいのかもしれない。
そんなことを考えながら、真澄と二人、自転車を押して帰ったのだった。
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