第22話 謎の少女ルリ

「おーい! どうしたー! ライン! 遅いぞ」


 ロザリーは僕の視界に入るギリギリの位置から大声で僕に呼びかけて来る。全く、彼女の身体能力には驚かされる。それなりに鍛えていて一般人より遥かに強いはずの僕でさえ追いつくことは出来ない。まあ基準が一般人程度の僕じゃ彼女の相手にはならないだろうけど。


「はっはっは。体がなまっているんじゃないのか?」


 ロザリーは余裕の笑みを浮かべて僕を待っている。本当に野生児かとツッコミを入れたくなるくらいすいすい登るんだもんな。


「あ! ライン後ろ!」


 ロザリーが僕の後方を指さす。僕が後方を確認するとそこには四匹のゴブリンがいた。


「く……」


 一匹程度なら今の僕でも倒せるかもしれない。しかし、四匹となると流石にきつい。僕は急いで山を登って逃げようとする。


 しかし、山に慣れていない僕とこの山で暮らしてるであろうゴブリンとでは身体能力に差がありすぎる。あっという間に追いつかれてしまい、僕の襟元を思いきり掴まれた。


「ライン!」


 ロザリーは山の傾斜を利用して滑りながら素早く降りてきて、そのままの勢いで跳躍する。加速度的に上昇する力を足の一転に込めて渾身の飛び蹴りを僕を掴んでいたゴブリンに食らわせた。


 ゴブリンは思いきり後方に仰け反ってそのまま崖の下に落下してしまう。あの高さでは助からないだろう。


 仲間がやられたことに怒ったゴブリン達はロザリーに一斉に襲い掛かった。しかし、彼女は追いついて深呼吸をした後に回し蹴りをくらわして三匹のゴブリンをたった一撃で倒すことに成功したのだ。


「ライン! 大丈夫か?」


「ああ。ありがとう。ロザリー助かったよ」


「すまん。私が離れたばかりに。これからはラインと離れずに進むよ」


 ロザリーは僕に向かって手を差しだした。え? この手は何?


「ほら、手を握れ。はぐれないようにな」


「いや、恥ずかしいよ」


「もっと恥ずかしいことをしているくせに今更何を言う! そ、その……私達はキ、キスまでしたんだぞ」


 ロザリーの顔も真っ赤になってる。自分で言ってて恥ずかしくなったのだろう。


「わかったよ。ロザリー。はぐれないように手を握るよ」


「ああ。最初からそうすればいい」


 こうして僕達二人は仲良く手を繋いで山頂を目指すことにした。



 僕達やっとのことで二人は山頂にたどり着いた。ロザリーは余裕そうだが、僕はもう息が切れている。正直かなり疲れた。


 山頂には先客がいて、紅色の髪飾りを付けた黒髪、黒目の少女がそこにはいた。少女は紫色の見たこともない服を着ていて、明らかに異民族風の感じだ。顔つきは幼い感じでどことなく彫りも浅い感じがする。


「貴様一体何者だ! ここで何をしている? その格好は異国人と見た。私は紅獅子騎士団の団長ロザリーだ。正直に全てを話せ」


 ロザリーは少女に向かってそう言った。すると少女は振り返り、こちらに微笑みかける。


「私の名前はルリ。ある花を探しにこの山まで来たの……お察しの通り私は異国人よ。団長さん」


 ロザリーの問いかけに一つずつ丁寧に答える少女。どうやら敵意はないようだ。


「この山に入るのは許可が必要なはずだ! まさか無許可で登ったわけではあるまいな?」


 ロザリーの問いかけにルリちゃんはハッとした表情を見せて悲しそうな顔をした。


「ごめんなさい。許可が必要だなんて知らなかったの。許して」


 今にも泣きだしそうなルリという少女。知らなかったのならあまり責めることは出来ないのでロザリーはこれ以上何も言及出来なかった。


「えーと……ルリちゃんだっけ。この山結構険しいけど一人でここまで来たのかい? 凶暴な獣やモンスターがいっぱいいたけど怪我とかは大丈夫?」


 僕は衛生兵として怪我している人を見過ごすことは出来ない。この少女がここまで無傷にこれるとは到底思えないが……


「心配してくれてありがとう。でも大丈夫だよ。ここのモンスターあんまり強くなかったし。私どこも怪我してないよ」


 ルリちゃんは舌をぺろっと出した表情でそう言った。モンスターと運良く遭遇しなかったなら話はわかる。だが遭遇して無傷とは一体どういうことだ。


「ねえ、質問ばかりされてるのもつまらないし、今度はこっちから質問してもいい?」


「あ、ああ。構わんが……」


「団長さん達の探し物ってこの花?」


 ルリちゃんの手元には小さい鈴型の黄色い花があった。間違いない、これは煉獄の書で見たスロボルの花だ!


「その表情は……当たりみたいだね。わざわざこんな危険な山を登る理由なんて、修行かスロボルの花を集めることしかないよね。ってことは例の魔導書のことも知っているのかな」


 ルリちゃんはくすくすと笑いだした。


「ルリちゃん。キミはその花について何か知っているのかい? 知っていることがあるなら教えて欲しい」


 僕の懇願に対して、ルリちゃんは人差し指を顎につけて考え込むポーズを取った。


「んー。そうだなー。お兄さんが私の恋人になってくれたらいいよ」


「は?」


「だって、私恋人になら何でも包み隠さず教えちゃうタイプだしー。お兄さんの見た目と声結構気に入っているんだよね。黒髪の赤目の美形とか好きになるなって言う方が無理だよ」


「ダメだ!」


 ロザリーの声がルリちゃんの話を遮った。

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