(練習帳)きまぐれ長門草紙

長門拓

第一部

「月」「少女」「希薄なメガネ」

 時折、何の前触れもなしに少女の存在が希薄になることがある。

 どう希薄になるのかという説明は難しい。それは希薄であるとしか形容できない現象なのだ。ところが先日、この一連の現象にある法則性を発見した。少女が部室の片隅で洋書を紐解ひもとき、端整たんせいな顔にメガネを着けたその瞬間、大体七割の確率で少女の存在は希薄になる。それが日本語作家の本であった場合、希薄になる確率はグンと下がる。せいぜいニ割といったところか。街中を歩いている時にも希薄になることはあるが、その場合における確率や法則性はまだはっきりしない。

 ただ、月の綺麗な夜更けだけは、少女の存在が全く希薄でなくなり、僕の心のいっさいは少女の存在のとりこになってしまうらしい。だから僕は月の綺麗な夜が、恐ろしくもあり、待ち遠しくもある。

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