ハカナキ
梅屋凹州
序:ネのかたり
さる老人の今昔がたり
むがーし、むがーし、な。
このあたり……いや、この国の海沿い全部さかかるっけぇ、でっけぇ津波が来たんだど。
町ぜんぶを飲みこむような波でな、しばらーく、潮が引がねがったんだって。
……そすてな、ようやく波が引いだっごろ、生き残った奴らで、町を歩いて見てみっどな。
人が、あっちこっちで寝てんだどさ。
寝てんのがな、って思って声をかっげどな、その寝てる人、口から、ドロっこ、吐くんだどさ。
あぁ、仏さんだ――って、みんな分って、がっかりしたっつうか、悲すぐなってなれ。
顔ばよく見っどさ、あぁ、この人はどこの人だがってこと、わかんのさ、なれ。しばらく顔見ねがった顔見知りさ。
でも、どいなぐ探しても見つからねぇ人いでなや。
そいな人は、もう、海さ流されたんだべって、家族は諦めるしかねがったんだ。
……そすて、しばらぐしだっけなれ。
どこだがの集落の男が、こんな話ばしてな。
ある朝……霧の濃い日な。
霧の立ち込める、ふかーい中さ、人の影ば見えたんだって。よく見たっけ、そいづはなんぼしたって見つがんねかった、死んだ女房と娘なんだどさ。
二人はさ、手つないで、笑い声あげて、そろって楽しそうに歩いてんだど。
そしてその男が、おめら、今までどこさいた、って声かけだっけ、ふーっと消えんだどさ。
その男だけでね。だんだん、色んな人が、海っぺりで流された母ちゃん見た、爺つぁん見た、なんて言いだしてよ。
そのあと……だれ――ともなく、言い始めたんだっけ。
津波は、みんなば海さ連でったんだって。
仏も見つがんね人は、海の神さンが、んっと気にいって、役立つがらって、傍に置いて離さんねんだって。
……そんとき、俺はな、思ったんだ。
海はな、命ばトるモンでなぐて、命が還っでぐ場所なんだって。
海がら生まれたものが、土や山に還らず、元いた海さ還えって行くだけなんだ、ってな。
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