クマさん、再び山賊と その3
僕の神の耳魔法に割り込んできた……えっと、ドラコさんでいいんだよね?
ウインドウに名前が表示されているけど……い、一体誰なんだろう?
脳内に聞こえてきた声の感じからして女性だと思うんだけど……こうして魔法に割り込んでこれたってことは……
「えっと、ドラコさんも神の耳魔法が使える方なんですか?」
『あ、はい~。と、いいますか、私、恥ずかしながら魔法使いでございまして~』
「あ、そうなんですね」
ドラコさんの返事を聞いた僕は少しびっくりしてしまいました。
まさか、魔法使いの方とつながることが出来るなんて、夢にも思っていませんでしたから……
ちなみに、ドラコさんと僕の会話は、山賊と僕の会話とは別回線みたいな感じになっているらしく、僕がドラコさんに意識を集中して会話をしていると、その間に僕が発した言葉は山賊達には聞こえなくなっているみたいです。
……とはいえ、急がないといけないのは間違いありません。
このままでは、山賊達が街になだれ込んでしまうのは時間の問題ですから……
「あの……ドラコさんなら、山賊達を追い払えるということですか?」
『はい、大丈夫だと思います~』
「ちなみに……質問してもいいですか?」
『はい~、なんでしょう?』
「ドラコさんは、どうして僕のこの会話に気が付かれたんです?」
『あぁ、それはですね~……私、ちょっと人見知りなものですから~、いつも森の奥に引きこもっているんです~……でも~、一人はやっぱり寂しいといいますか~……なので、神の耳魔法を使用している方がおられたら~……その~……神の耳魔法で時々お話させていただく神の耳魔法友達になってもらえないかと思って、ずっと神の耳をこらしていたんです~』
「あ、あぁ……そうなんですね」
その言葉に、僕は苦笑しながら返答したんだけど……神の耳魔法友達って……僕が元いた世界で言うところのLINE友達ってことになるのかな?
「と、言うことは……山賊を追い払う代わりに、僕と、その……神の耳魔法友達になってほしいってことですか?」
『は、はい~、ご無理にとはいいません~。月に1回くらいお話させていただけたら、ドラコ、もうそれだけで飛び上がらんばかりに喜んじゃいます~』
「あ、はい。それぐらいなら問題ないかと……」
『じゃ、じゃあ! ドラコと神の耳魔法友達友達になってくださるんですね~!』
「はい……あ、でも、先に言っておきますけど、僕、おじさんですし太ってますし……力持ちですけど、それ以外には何の取り柄もないといいますか……魔法もちょっとだけ使えていますけど、なんで使えているのかよくわかっていないといいますか……」
僕は、あたふたしながらドラコさんに言葉を発していったのですが、よく考えたら、神の耳魔法でお話するだけのお友達になるわけなんだから、容姿のことなんて伝えなくてもよかったんですよね。
ただ……なんといいますか、やはりこうしてお友達になるからには、こちらの情報は包み隠さず正直にお伝えしておいた方が僕的に気が楽といいますか……
あれは、そう……30才になってすぐの頃……
彼女がいないまま年老いていくことに不安を感じて、出会い系といいますか、そういったところに登録したことがあった僕なんですけど……あの頃は若かったんですよね……少し自分の情報を誇張したといいますか……体重を軽めにしたり「ハリソンフォードに似てると言われたことがあります」とか登録したんです。
この「ハリソンフォードに似てる」っていうのは実際に言われたんですよ。
まぁ、当時存命だったおばあちゃんに、ですけど……
その結果、女性の方とお会い出来ることになったわけですが、始めてお会いした際に、その女性は
「……どこがハリソンフォード……」
と、呟きながら、この世の終わりのような表情を浮かべ、即座に回れ右して帰っていってしまったんです……
あれ以降、何事も正直に、を、モットーに生きてきた僕です、はい……その結果、彼女いない歴も年齢分加算されたんですけどね。
そんな事を思い出しながら自分の事をお話していると、
『あなたはとても正直な方なのですね~。なんだか安心しちゃいました……あなたになら、私の姿を見られても大丈夫かもしれませんね~』
「え?」
『神の目魔法もご使用なさっておられますよね? 今から私、ひとっ飛びして山賊達を追い払ってまいります……そこで、私の姿を確認していただけたら幸いです~本当は遠隔魔法で追い払うつもりだったんですけど~……あなたには私の本当の姿を見て頂きたいと思ったものですから~』
その途端に、ドラコさんの後方からすごい音がし始めました。
わっさわっさわっさ……
それは、まるで巨大な羽を上下させているような……そんな音でした。
しばらくすると、その音が二重になって聞こえ始めたのです。
気をつけて聞いていますと……その理由がわかりました。
僕の耳には、ドラコさんとの会話と、山賊達との会話が同時に聞こえていたのですが、その両方から
わっさわっさわっさ……
という巨大な羽を上下させる音が聞こえはじめていたのです。
「な、なんなのよ、この音は!?」
「な、なんだぁ!?」
「ど、どこから……
山賊達が戸惑う声が聞こえてきました、
同時に、神の目魔法で脳内に映し出されている画像の中の山賊達も右往左往しているのが確認出来ました。
すると……そんな山賊達の姿が急に暗くなりました。
同時に、山賊達は一斉に上を向きました。
そんな山賊達のすぐ近くに、巨大な何かが降下していき、
ずず~ん……
周囲にすさまじい音を響かせながら、そこに巨大な何かが着地したのですが……その画像を確認しながら、僕は目を丸くしていました。
そんな僕の脳内の画像の中……そこにいたのは……
巨大なドラゴンだったのです。
そのドラゴンは、しばらく周囲をキョロキョロしていたのですが……僕の神の目魔法の画像取り込み口らしき場所を見つけたのか、そこに向かって右手を振り始めたのです。
同時に、ドラコさんの神の耳魔法からは
「クマさん見えますか~? 魔法使いのドラコです~」
という、嬉しそうな声が聞こえていたのです。
あぁ、そうか……神の耳魔法をドラコさんも使用しているんだから、向こうにも僕の名前が表示されているはずだもんな……名乗っていないのに、僕の名前がわかっても、そりゃ当然か……
そんな事を考えながら……僕の頭の中には様様な思考がグルグル渦巻いていました。
っていうか……ドラゴンの魔法使い?
そんな存在がありうるの?
あ、でも、映画の中のドラゴンって、魔法を使うヤツがいたかもしれない……
でも、どっちかっていうと、ドラゴンって、炎をぐわ~っと吐き出したり、力で周囲をなぎ倒していく印象ですよね……
そんな事を考えている僕。
そんな僕に、ドラコさんは、
『じゃあ、ちょっと山賊さん達を追い払っちゃいますね~』
神の耳魔法でそう伝えてくると、山賊達に向かってのっしのっしと歩き始めたのです。
歩きながらドラコさんは右手を空に向けました。
途端に、晴れ上がっている空の一部が曇っていきます。
「な、なんじゃあれは!?」
その時、荷馬車の操馬台に座っているシャルロッタの驚く声が聞こえました。
上半身を起こして、荷馬車の前方へ視線を向けた僕なのですが……その視線、シャルロッタの視線の先には、青空の一角に真っ黒な雲の塊が出現しているのが見えました。
お、おそらく、あの雲ってばドラコさんが発生させたものなのでしょう……
で、脳内に映し出されている画像の中のドラコさんは
『ライトニングどっかん魔法!』
と、少しのほほんとした感じの声をあげながら……っていうか、なんですか、そのネーミングは……
とにかく、その右手を山賊達に向けました。
その声にあわせて、黒雲から落雷がとどろき、山賊達似向かってドッシャーンと落ちていったのです。
そのすさまじい音は、脳内だけでなく、馬車の前方からも聞こえてきました。
距離があるため、若干のタイムラグがあったのですが、すさまじい落雷音が辺り一帯に響いています。
で……
いきなり出現したドラゴンの魔法使い、ドラコさんが起こした落雷。
『ライトニングどっかん魔法です~』
「あ、そ、そうでしたね」
ドラゴンが出現したこと。
そのドラゴンが魔法を使ったこと。
この2つで完全に度肝を抜かれたらしい山賊達は、
「うわ~」
「に、逃げろ~」
「お、お助け~」
口々にそんな悲鳴をあげながら、森の中へ向かって散り散りになりながら逃げ込んでいったのでした。
……ちなみに、ドラコさんの雷破壊魔法で1000人近くいた山賊達のうち、結構な数の山賊達が黒焦げになっていたのですが……そのため、逃げる事が出来たのは、ほんの一握りな感じでした。
「……そういえばラビランスは……」
山賊の頭らしい、あの女山賊の姿を探していった僕なのですが……その視界の中に、見事なアフロになっているラビランスの姿がありました。
どうやら、ドラコさんの魔法の直撃を、
『ライトニングどっかん魔法です~』
「あ、そ、そうでしたね」
その直撃をくらったのでしょう……赤いロングヘアが、見事なアフロになっていまして、その頭を抑えながら、
「お、おぼえてなさい! 絶対にこの借りは返すんだからね!」
そんな捨て台詞を吐きながら、森の中へ駆け込んでいったのが見えました。
* * *
とにもかくにも……こうして、山賊達をドラコさんのおかげで追い払うことが出来たわけです。
唖然としながら、脳内の映像を確認している僕。
そんな僕に、ドラコさんは、
『えへへ~、ちょっと頑張り過ぎちゃいましたか? クマさん、引かないでほしいです~』
少々心配そうな声で、僕に話しかけてきました。
ぼ、僕としましては、その魔法の威力の事よりも、ドラコさんがドラゴンの魔法使いという、信じられない存在だったことの方に若干引き気味だったわけなんですけど……
そんな事を考えながら、乾いた笑いを浮かべていた僕。
操馬台からは
「く、クマ殿! 起きてほしいのじゃ! ぜ、前方で不自然な落雷がじゃな……」
慌てふためいているシャルロッタの声が聞こえていました。
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