37.プレゼントは気持ちが大事①

 あのあとは結局何もする事なく一人家に帰っていた。帰って早々に自分の部屋に行き、ベッドへと飛び込む。感じるのは家の匂いと舞い上がった埃。天井を見ると四葉の顔が浮かんだ。


「……俺にどうしろってんだ」


 あの話を聞いてからずっと心の中に溜まり続けていたやるせない気持ちがふとした拍子に言葉として漏れる。そんな俺の頭の中は先程の話のことでぐるぐると渦巻いていた。


「……手術か」


 きっと俺と出会う前から決まっていたことなのだろう。でなければ人生のタイムリミットが迫っているかもしれない中であれだけ冷静に人と接することなど出来ない。一体どのくらい経てば普通に人と接することが出来るほどになるのか、俺には全く見当も付かなかった。


 四葉は前に言っていた。

 もし自分が困っていたら助けてくれますかと。

 もしかしたら彼女はこの状況のことを言っていたのかもしれない。でもこんなの俺にはどうにも出来ない。彼女を助けるのは医者であって俺ではないのだ。


「……ったく俺がこの調子でどうするんだよ。しっかりしろ、凛」


 俺には何が出来るのか、考えようにも上手く纏まらないが落ち込んでいても仕方がない。月城先輩は四葉のために時間を使って欲しいと言っていた。だったら俺に出来ることは先輩の言う通り四葉のために何かをしてあげることくらいだ。

 まずは何をしてやろう、そんなことを考えながらベッドから起き上がり一階へと下りる。


 一階のリビングに入るとそこには数日前に調べたプレゼントのリストがあった。そういえばまだプレゼントを決めていなかった。


 孝太と月城先輩の二人が言うにはプレゼントは心が籠ったものが良いと言っていた。ということはプレゼントするものはさして重要ではないのだろう。決めるなら実際のものを見ながらの方が良い。そう思った俺はすぐに家を飛び出した。



 それから電車に乗って隣駅にまで行き、駅近くの複合商業施設へと足を運ぶ。

 ここなら色々あり、ピンと来るものもあるはずだ。そう思ってしばらく歩き回ったのだがそれでも中々選ぶことが出来ずにいた。というのも……。


「広すぎるだろ……」


 確かにここならプレゼントをするものが見つかるだろう。だがこのような複合商業施設に普段から行き慣れていない俺にとってはこの広さの中でプレゼントを探すのは厳しかった。


 どういうプレゼントを送るかもう少し絞ってから来た方が良かったかと思った矢先、後ろから声が掛けられる。その声に振り返ると……。


「こんなところで何しているの?」


 学校帰りなのだろう。制服のままの月城先輩がいた。


「先輩? どうしてここにいるんですか?」

「私は家がここの近くでよく買い物に来るのよ。それよりもあなたの方は何をしているのかしら?」


 手に下げられたエコバッグに様々な食材が入っているのを見る限り、買い物終わりなのだろう。以前俺の家に来ていたことがあったのでてっきりあの近くに住んでいるものだと思っていたがどうやら俺の勘違いだったようだ。


「俺はその……」


 どうするか、ここで助けを求めるべきか。先輩の都合もあるだろうし、あまり迷惑はかけたくないが彼女ならこの施設を知り尽くしているのは間違いない。

 どうするか中々決断出来ずにいると先輩が深くため息を吐いた。


「もしかして祝さんのプレゼントを探しに来たのかしら?」

「まだ何も話していないのに何故それを……」

「あの流れでここにいるってことは大体想像が付くわよ」


 そんなに分かりやすい表情をしていたのだろうか。だが今はどうでもいい。そこまで気づいているんだったら一度頼んでみても良いかもしれない。


「すみません、先輩。折り入ってお願いがあります」

「いいわよ」

「実は……ってえっ?」

「何を驚いてるのよ。お願いしたいのってここの案内よね? 丁度私もまだ買い物が残っているから良いわよ」

「いや、なんで分かるんですか」

「あんなに長い時間キョロキョロしてたら流石に誰でも分かるわよ」


 そうか、確かにそうかもしれない……って待てよ。今なんて言った?


「あの先輩、長い時間というのはどういうことで?」

「言葉の通りよ、後輩君を見かけたのはあなたが丁度ここに来たくらいの時ね」


 先輩のさも当たり前のことを言うかのような表情に一瞬だけ誤魔化されそうになるが、咄嗟に踏み止まる。

 つまるところあれか、彼女は俺がここに来てからずっと俺を見ていたということか。何それ普通に怖い。


「どうしてそんなことを……」

「そんなことってどういうこと?」

「いや先輩、俺がここに来てからずっと見てたんですよね」

「世間一般で言うならばそういうことになるのかしらね。でも安心してちょうだい、後輩君の写真は悪いようにはしないわ」


 陰から見られていたのに加えて、どうやら盗撮もされていたらしい。でも何故だろう、どこかの誰かにもされそうなことのせいか。それほど驚きはなかった、不思議だ。


「盗撮は犯罪ですよ」

「違うわ、隠し撮りよ」


 それって盗撮と同じなんじゃないかという突っ込みは心の中にしまっておいた。このようなやり取りは続けていても不毛なだけ、今はとりあえず先輩が案内をしてくれるという事実だけを知っていればいい。まぁ先輩の犯行を一から説明されるというのもなんだか複雑だ。知らぬが仏である。


「分かりました。とりあえず案内をお願いできますか? 最近だいぶ遅くなったとはいえ、もうすぐ日没ですし」

「そうね、私も帰ってから夕食を作らないといけないのよ。それで具体的にどういうものを送りたいとかは決まっているのかしら?」

「それがまだ……」

「あなたよくそれでここまで来たわよね」

「家にいても思い浮かばないので実際のものを見ようかと思いまして」

「なるほどそういうことね。だったらとりあえず雑貨とかを見て回りましょうか」


 月城先輩はそう言うと早速移動を始める。


「何してるの? 付いて来ないとはぐれるわよ」

「すみません、今行きます」


 失礼かもしれないが、今この時先輩が本当の先輩のように見えた。

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