俺の彼女がいつに間にかあざとカワイイ小悪魔どころか独占欲が強い魔王様になっていた件について
サバサバス
本編
1.ジャージ姿の女の子
突然だが俺──
「凛君、いい加減諦めてください」
「ちょっと待ってくれ、流石にそれはおかしいだろ」
「何がおかしいんですか? どこもおかしいことなんてないです」
俺の方に手を伸ばす女の子を見て俺は思った。
どうしてこうなったと──。
◆◆◆
入学式を終え、これから一年間お世話になる教室へと向かう道中、入学式に出席した同級生達の中で一人だけ制服ではなく学校指定のジャージを着た少女の姿が目に映った。ここにいるということは同じ一年生であるということなのだが、彼女からはなんとなく近寄り難いオーラのようなものを感じた。
「
「いや、あそこ」
中学からの友人である
「あぁ確かにここで赤のジャージは目立つよな。でも入学式にあんなやついたか?」
彼の言う通り、あんなに目立つ格好をした人物を入学式では見かけていない。そう思ったからこそ気になったのだが、孝太も見ていないとなるとやはり入学式にはいなかったのだろう。
「あれだな、多分入学式に遅刻でもしたんじゃないか? それより俺達もさっさと教室に行こうぜ」
「ああ、そうだな」
少し気になりはしたものの、別にそこまで気になるほどではない。最後に一目だけ彼女を見て、先を歩く孝太のあとについていくように自分達の教室へと向かった。
教室に着くとそこは既に賑やかだった。入学式後特有の空気とでも言うのだろうか、多くの者が新しい友人関係を築こうと積極的に会話をしていた。まぁそれでも例外はいるのだが。というかそれは俺のことだった。
「凛、お前まさかこのままずっと自分の席にいる気なのか? せっかく高校生活最初のイベント、友達作りをする絶好の機会だって言うのに」
「そんなイベントは知らないし、そもそも人の勝手だろ。俺はそういうの苦手なんだよ」
「もしかして自分の名前を気にしてるのか? 確かに
「うるせぇ、さっさと誰かに話しかけてこいよ!」
「はいよ」
孝太を半ば追い出すように送り出し、一人机に突っ伏す。頭の中には先程孝太に言われた名前負けしているという言葉がずっと留まり続けていた。昔から言われ慣れた言葉だが俺からしたら生まれてから今までこの名前は慣れ親しんだ名前。なんというか自分に合っていないと言われるとどうしても複雑な心境にならざるを得なかった。だがしかしこちらを知らない人に名前だけ先に伝えると実際会ったときに少しガッカリされるのは事実。悲しいが客観的に見たら孝太の言う通り、この名前にきっと俺は負けているのだろう。
そんなことを考えていると、授業開始であろうチャイムの音が教室内に鳴る。その音に顔を上げると先程まであちこち出歩いていたクラスメイト達が揃ってそれぞれの席に着いていた。その後すぐに教室前方の扉から一人の女性が現れる。
「初めまして、これからこのクラスの担任をすることになりました、桂木です。早速ですけどこれから皆さんに自己紹介をしてもらおうと思います」
それからいきなり始まった自己紹介に次々と自分をアピールするクラスメイト達。とうとう自分の番になると、右前方の席にいる孝太から頑張れよという期待に満ちた眼差しを向けられた。だがそんな期待に乗ろうとは思わない。そもそも注目されるのは苦手なのだ。頭の中で無難に済ませられそうな自己紹介を組み立て、言葉にする。
「どうも二階堂凛です。これから宜しくお願いします」
自分の中では無難に済ませられた、そう思っていたのだが担任の先生が要らぬ一言を発した。
「とても綺麗な良い名前ですね」
顔に似合わずという意味だろうか。その一言で途端に確かにとざわつき始めるクラスメイト達。そうなれば俺に注目が集まるのは必然だった。なんとなく居たたまれなくなってそのまま自分の席に座れば、その直後に左斜め前方から椅子を引く音が鳴る。音がした方を向けばそこには入学式後に見かけた学校指定のジャージを着た少女が立っていた。彼女はどういうわけかジャージ姿なのだが、先程とは違うというか長い間掃除していない部屋で走り回ったのではないかと思うほど全体的に埃まみれだった。その光景は異様で先程までこちらに集まっていた注目は全て彼女に向けられる。
「
彼女はそう言うとすぐさま着席する。全身が埃まみれなのに加えて前髪で顔が見えないからか客観的に見ると彼女は不気味に見えた。そんなこんなで一瞬にして静まり返ったクラス内、途端に悪くなった場の空気を良くしようと担任の先生は明るく言葉を発する。
「祝さん、ありがとうございます。じゃあ次の人お願いしますね。えーと次は……」
それからも自己紹介は続いたが、あまり記憶には残らなかった。それは彼女──祝四葉が印象的だったため。彼女は一体どうしてあんな格好していたのか、どうして埃だらけなのか。様々な疑問が頭の中に浮かぶが、今この時点では考えても何も分からなかった。
入学式の次の日の朝、その日は生憎の雨だった。なんとなく自分の席から左斜め前方にある祝四葉の席を見るが、彼女はまだ来ていないようで、それでもじっと彼女の席を見ていると前方から孝太に声をかけられる。
「凛、お前そんなに祝さんのことが気になるのか? 昨日も結構見てたよな」
「なんとなくだよ」
「まぁかなり不思議なキャラしてるもんな。でもそこまで気になるものか?」
「それは……」
孝太の言葉で一度気になる理由を考えてみるが、特に思い浮かばない。何も思い浮かばないということは本当になんとなくでしかないのだろう。
「……俺はどっちでもいいと思うけどよ。それよりも今日の昼飯はどうする? 購買に行くか?」
孝太の問いかけにどうするか悩んでいると突然教室の後方にある扉がガラガラと開く。いきなりのことに驚いて音がした方を見れば、そこには車にでもやられたのだろうか、昨日とは違って泥水で汚れた制服を着た祝四葉がいた。
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