第67話 スキル発現

 とりあえずゲームでの今後の目的を決めた私達は冒険者組合に赴き、掛け合って素材買取屋に付いてきて貰えないか案を提示しました。

 私達は冒険者登録をしていませんので買取屋からの信用が0なのですよね。

 そこで困るのが劣化素材の売りつけ。

 誰しもが通る道なので仕方がないとはいえ、出来れば高くてもいいので安全な素材を購入したいんですよね。

 そこで先日の裏取引をチラつかせたところ……



「今回だけにしてくださいね?」



 と言って、来てもらえる事になりました。出掛け際に判明した事でしたけど、この人組合長さんらしいです。

 やたら安請け合いすると思ったら、そういえばこの人解体場にも居ましたもんね。納得しました。

 だからと言ってそんなTOPが乗り気で快諾なんて普通に考えて怪しすぎます。これは何か裏があると見ていいでしょうね。それとなく聞いてみましょう。



「快諾ありがとうございます。それにしてもお付き合いいただけるのはありがたいのですが、業務の方は大丈夫だったのですか?」

「いや、僕もこれから出る予定でね。丁度これから街中のバイヤーが一堂に集まって新しい素材を品評する会があるのですよ。だからよければ一緒に来ませんか?」



 ますます怪しくなってきましたよ。

 これは日を改めた方が良さそうですかね? ローズさん的にはラッキーと言った風に捉えているようです。何か腹案もあるんでしょうけど、危機感はそこまでないようですね。少し考えすぎでしたか。

 前回は割りを食う事があまりにも多すぎましたので常に警戒心を張り詰めすぎましたかね? ですが表面上協力しつつも一歩退いて距離は取っておきましょう。安易に乗っかるのは危険すぎますからね。



「それはありがたい提案ですが、素人の私達がご一緒しても大丈夫なのでしょうか?」

「ははは。今回の目玉商品はお嬢さん方が売り払ってくれたあの素材でね? ようやく出品できる目処が立って、満を持して発表させて貰うんだ。だから、丁度いい機会だと思ってね。一緒に流通の場を見てもらおうと思ったのさ」

「ふーん、てっきりこっちの案を仕方なく飲んでるかと思いきや、意外とちゃっかりしてるんだ?」

「なに、こっちも商売だからね。今のうちに精一杯、仲のいいアピールをして他のバイヤーより一歩リードしているところを見せつけておくという野心もあるよ」

「ふふふ。それは組合さんの誠意次第という事で」

「そこは快諾してほしかったなー。

 ……しかしそう簡単に人を信用するような人にはあの場はオススメ出来なのも本音だ。あそこは人の悪意も其れなりに渦巻いているからね……合格だよ。改めて招待するけど僕と一緒に来てもらえるかい? 正直一人で抱えるには少々厄介な案でね。この機にバイヤー達を巻き込もうと思ってね、協力してくれると嬉しい」

「組合長さんも人が悪いんだー」

「言う事を聞かない連中を丸め込ませるのには武力よりも口車が上手くないとやっていけないからね。それで聞かないような相手なら相手が一番大事にしているラインから切る。それが冒険者組合の長としての権力さ」

「それってもしかして私達も脅してます?」

「さて、どうかな? ここはひとつ協力してもらえるとこちらとしては助かると言うのも事実だ」

「いいんじゃない? 表に出ているやつよりこれから表に出すか決めかねているやつも見る機会を得られると思えば安いもんだよ。交渉はあたしがするからリアさんはドーンと構えてればいいし」

「そう言うことなら……此方から言い出した手前、撤回することもできませんね。今回は私達の負けです。ですがずっといいように使われるわけでもありませんので、そこは予めご了承くださいね?」

「勿論だとも。僕は今肩の荷が降りてとても心地よい気分さ……っと忘れてた」



 組合長さんは肩を回しながら調子のいい事を言って出口に向かおうとした間際、慌てて受付に戻ってすぐに帰ってきました。慌ただしいですね。



「これこれ。これを渡そうと思ってて忘れてたよ。いやー渡せてよかった。さ、行こうか」



 呼び止められて何かを渡されます。

 これは? 四角いカードですね。

 大きさ的にはキャッシュカードのような……ズバリそのものでしょうか?


 これ、システムに組み込まれているキーアイテムですね。アイテム欄に入ってませんでした。

 どうも本来なら冒険者登録をした登録者に配布される冒険者カードの特別版みたいです。

 生憎と残高はパーセンテージ表記。

 いくら入っているか見えないのは怖いですね。

 取り敢えず無事受け取ったという事でありがたく頂戴してお礼を言っておきました。

 それを見てローズさんもカードを欲しがってましたが、一応所有者は私という事でなんとか合意させましたが……これは後で集られるなぁと半ば覚悟しておきましょうか。

 まぁその分労働させる手段にも使えるしいいでしょうか。手札は多く持っておくに限りますし。


 ◇


 組合長さんに連れられて素材買取屋に案内されると別室に通されました。

 すでに連絡が行き渡っているようで、そのまま入っても咎められることはなかったです。

 ローズさんなんてまるで重役であるかのように肩で風を切って歩いてましたもん。

 すごすごと入って行った私の方が逆に目立ってしまったぐらいです。


 品評会と言っても卸市場のようなもので、組合の解体場ぐらいの大きな部屋に、各種持ち込まれた素材にメモと値段が貼り付けられて所狭しと並んでいました。

 中ではすでに各分野のバイヤーさんが目を光らせていました。見たことのある……チャージシープ由来の素材はあらかた売り切れの様子。組合長さんは安心したように胸をなでおろしていました。


 私達もその中でも非常に興味をそそられる素材を選んで直接仕入れていきます。

 支払いはカードで。いくら入っているのかはわかりませんのがとても不安でしたが……結構な数の素材を買ったのですが、100%が99%になっただけでした。

 これ、相当分母が大きいですよね?


 しかしここでそんな不安を打ち消す出来事が起こりました。

 買い物を終えて素材をアイテムバッグに入れますと……


<条件を達成しました。加工スキル:塩コショウにアイテムバッグ内の素材味噌、醤油、みりん、砂糖、玉ねぎ、ガーリック、胡麻、蜂蜜もどきを消費してスキルに統合しますか?>


(Yes/No)



 あらあら、これはこれは。

 まさか素材がスキルとして登録されるとは思いませんでした。

 発動条件はアイテムバッグに入れることでしょうか?

 そういえば私ったらお肉以外の素材を入れたことがありませんでしたね。

 それだけで普通の冒険とは程遠いのだと気付かされます。


 もちろんYesを選択。これからどうなって行くのか楽しみです。


<条件を達成しました>

<加工スキル:漬けダレを取得しました>

<加工スキル:味噌ダレを取得しました>

<塩コショウを加工スキルに統合しました>

<上記を加工スキルに統合しました。以下スキル使用時に加工スキルから選択してください>


 おやおや、これはご丁寧にどうもありがとうございます。

 展開されたシステムメッセージを閉じてローズさんにニマニマ笑いかけます。



「ふふふ~、いいもの貰っちゃった」

「どったのリアさん嬉しそう。良いものってさっきの素材? 早速メニュー考案しちゃった?」

「ノンノン。なんとアイテムバッグに素材を入れたらですね……スキル化したのです」

「ほぉー、ふんふん……へ? っぇえええええ!?」



 ちょ、大声出しすぎですって!

 ほら、他のバイヤーさんも集まって来ちゃったじゃないですか!



「どうしました? 」



 すぐ隣で見聞していた組合長さんが様子を伺うように慌てふためくローズさんへ語りかける。

 だが彼女はそれどころじゃないといった様子で私の両肩を掴むとがっくんがっくん揺らしてきました。



「大発見だよ大発見! なになに、どんなスキルになったの? 教えて教えて」



 仕方がないので懇切丁寧に教えますと、キュピーンと目を光らせて、こんなことを言い出してきました。このパターンはアレですかね?



「食べたい! ここで食べよう! 試食会だよ試食会! もちろん今すぐだよ?」



 まぁそうですよね。

 バイヤーさんたちも何事かとザワザワしてきました。事情を説明すると、思いのほか組合長さんがノリノリで食いついてきました。この人……口では真面目なこと言ってるけど、中身がローズさんと一緒じゃないですか……



「良いですね。私も是非それを味わってみたいです。

 酒場で組合長特権で一度だけ食べたことがあるのですけどこのお肉は非常に美味しいですよね。

 よし、今のうちに部下にエールを持って来させます。ユミリアさん、貴重なお肉の提供ありがとうございます! みんな、ここでこの素材の中でもレアに分類されるお肉が食べられるそうだ! 味は僕が保証する! 是非食べていってくれ」



 余計なことを言って組合長さんは冒険者組合へ走って行ってしまいました。



「なんと! そんな貴重な食材をこの場で振る舞うとはなんと贅沢な。是非味わわせていただきましょう」

「まさかこんなチャンスが来るとは! 今日はなんていい日だ!」



 なんかみんなに振る舞うことになりました。

 えー、これ私達の分なんだけどなー。

 なにしれっと参加してきてるんですかね、この人たちは。少しは遠慮ってもんを……

 言っても無駄みたいですね。

 皆さん子供みたいに目をキラッキラさせてましたもん。

 なぜかここで一人抗ってる私が悪者みたいになってるのが癪ですけど。

 仕方がないので半分出してしまいましょう。1000だけですよ?

 それ以上は私や孝さんが食べる分だからダメです。誰が全部出すもんですか。

 半分にして半分をアイテムバッグに仕舞うと、それを目ざとく見ていたローズさんが口を挟んでくる。嫌な予感。



「ねぇ、リアさん、それっぽっちじゃ足りないよ? ここは顔を売り込むチャンスだって! 今しまった分も出そうよ? 全部行こうよ全部!」

「ちょ、余計なこと言わないでよ! これは私達夫婦の分なんだから!」

「なんと!? 出し渋りをしていたのですか? これはこれは、人が悪い」

「ほら、なんか大事になってきた!」

「えー、だってそれっぽっちじゃあたしの食い扶持減るじゃん!」

「誰が料理すると思ってるの! あなた達はただ食べてるだけじゃない!?」

「そのとーり。後で討伐協力したげるからさ? だから全部出そ?」



 くっそ、こいつら……


 仕方がないので三等分にカットして塩コショウのまま、漬けダレ、味噌ダレの三種類の味比べをさせてあげました。

 勿論自分のはちゃんと確保した上で、です。


 皆さん一口食べてから目の色変えましたからね。そこからはもう競争でした。

 もうないのか? 次はないのか? しか言いやがりませんでした。

 せめて自分の意見や感想を述べるか料理人に敬意を払ってですね……


 でも、ローズさんを筆頭に皆さん本当に美味しそうに食べてくれたので胸いっぱいです……と言っておかなければやってられませんでした。

 仕方がないので今回は顔を売り込む方向で手を打ち、そのまま必要な包丁、鍋、はたまた野菜やら水がいくらでも出る魔導具を格安で購入させてもらいましたよ。ケッ。

 

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