第46話 ミュウさんエルフになる<4>
一歩目。
踏み出したと同時に私達三人はその場で前方に倒れ込んだ。そう、必中確定のフィールドデバフである。
「あはは……しび、しびびび」
「完全に……フィールドデバフを忘れてました。んんっ」
「余裕そうだから任せてたけど、全然そんなことなかった……あばばばば」
見事に3人とも麻痺をくらい卒倒。
初っ端から森林フィールドの洗礼を受けることになり、仕方がないのでドライアドに切り替える事にしました。
だってエルフのままでやり過ごす方法がなかったんですもの。他の二人も対策が0。自分のことを棚上げしつつ、先が思いやられるなぁと思うのでした。
そもそもこう言う時のための切り替えシステムですからね。そう思い込むことにして実行です。
ドライアドにチェンジ! まぁ、なんて清々しい気分でしょうか。全身にみなぎる魔力に、展開できる糸の数は5本から数十、数百にまで至ります。やはり “わたし” はこっちの方が性に合うのでしょうね。
しかしあの味も捨てがたい、うむむ。そこは悩みどころですね。
それはさておきノックで上空に麻痺の効果を散らして二人を起こします。大丈夫ですかー?
「ありがとうミュウさん。あたしって基本上空から入るもんだから完全に失念してたよ」
「当たり前のように入っていくから何か対策済みなのかと思ったら力技でしたか。ミュウ君はその状態、種族だと状態異常緩和?」
『緩和どころか無効。あ、でも火に由来するのは受けちゃうよ。だって樹だもん』
「急に言動が子供っぽくなりましたね。それも性格変調システムの影響ですか。いやはや今日は驚かされっぱなしです」
「あはは、ミュウさんはこっちが素だからね。向こうはリアルの素。中身お嬢様だから。で、こうやってゲームの中でリアルの鬱憤を晴らすわけさ」
『ちょっとー、それ個人情報だから!』
「わははいっけね。すっかり身内だと思ってたから。ミュウさんもずいぶん仲良さげだったしね」
『むぅ……確かに信用はしてるけど……そこまで気を許してないんだからねー』
「あはは、信用してもらえて光栄かな? それにミュウ君がお嬢様っぽいのは先ほどの食事マナーと丁寧な対応でもしかして? と思うこともあったよ」
「ほら、こう言ってるし、遅かれ早かれバレてたよ。それが今バレただけだし」
『むー、そういうのちがうしー』
「さて、本格的に子供化する前に先行こうか?」
話をはぐらかされながら先に進みます。道中をすっ飛ばしてエリア5まで爆進。もうあれですよ。森キライ。
エリア1の麻痺も、エリア2の毒も、エリア3の種族スキル封印も大嫌いです。虫も嫌です! エリア4の幻覚も大概です。
誰ですかこんなめんどくさいフィールド考えたの!
ドライアドだから全然平気だけど、エルフはどれだけ打たれ弱いんだって話ですよね!
エリア切り替えるたびにビクンビクンしている二人を精霊装備で介抱しながら先に進みます。
仮にも森の住人って自負してるんなら耐性ぐらい持っていて欲しいもんですよ。ぷんぷん。
さて調子を取り戻していきましょう。無駄に時間を使ってしまったので巻きで行きますよ巻きで。
そんなこんなでエリア5まで来ると鳥達が上空でバッサバッサ羽ばたいて、こっちを威嚇してきます。ギャアギャアとうざったいですね。
仲よさそうに羽ばたいてどっちが先に獲物を捕食するか競争でもしているのでしょうか? 残念だけどそう簡単に食べられる気はありませんよ?
ドライアドからエルフに切り替えて、スタミナ半減のデメリットをくらいます。ちょっと辛いですけど頑張りますよー。
「取り敢えず方針教えて?」
「レアとったらそれを囮にしてトラップ発動」
「もうすこし詳しく」
いつも20文字以内で簡潔に答えよとか言って来るくせに……マリさんの癖に生意気ですね。
ウッディさんも単純明快過ぎてわからないそうです。説明って難しい。
「取り敢えずレアリティや品質にヘイトつくのは知ってますよね?」
「そだね」
「はい」
「それをトラップを仕込んだ場所の中央に置きます」
「はーい、先生!」
「なんでしょう、マリさん」
「トラップの種類はなんですか?」
「糸です」
「それは分かるんですけど、羊みたいに足を引っ掛けるんじゃ面倒臭くない?」
「そうではありませんよ……そういえばマリさん」
「何かな?」
「空飛んでいるときに上空からこのように細かい糸の存在って気付けますか?」
「無理だね」
「それが答えです」
「んー?」
マリさんはわからないとばかりに考え込んでしまいました。
そこでウッディさんはぽんと手を打って答えがわかったぞと一人納得していました。
「先に答えを言ってもいいかな?」
「マリさんは降参する?」
「わかりませーん、降参!」
「ではウッディさん、お願いします」
「これは学生時代に担任の薀蓄(ウンチク)で聞いた話なんだけどね。
鳥は糸のように細かいものを遠くから認識できないみたいなんだ。
それで害鳥被害に遭っていた老夫婦は糸を編み込んだネットで家の周りを囲って寄せ付けないように撃退したって逸話があってね。ミュウ君はきっとそれと同じことをやろうとしているんじゃないかと思ったのさ」
「お見事、正解です」
「つまりは?」
「鋼の糸を木々の間に張り巡らせて、中心に囮を置けばあとは勝手にレベルアップ」
「おぉ!」
「だけどそんなにうまく行くかな? ここのAIは馬鹿にできないだろう?」
マリさんが期待を膨らませる一方でウッディさんはすこし不安げに唸る。
「案ずるより産むが易しとも言います。まずは数匹倒してしまいましょう。
ウッディさん、矢を射掛けて貰えますか? 近接して来たやつはこっちで仕留めます」
「了解」
「あたしは?」
「マリさんは幸運係。バッグの中に高品質でレアなやつが来たら教えて」
「オッケー」
さぁ! 作戦開始です!
ウッディさんが適当に矢を射掛けます。
空ではホークが群れを成して様子を伺い、矢を余裕を持って回避すると、威嚇気味に強襲を仕掛けて来ました。
本気ではありませんがやはりそのサイズは脅威です。
羊程大きくもありませんが、鍵爪で人の頭なんて簡単に握りつぶせるサイズ……そう思ってくれれば伝わると思います。
ウッディさんなんてその場でへたり込んでしまいましたからね。迫真の演技です。良いですよ~、その演技……
あ、演技じゃない? あはは。笑ってごまかしました。
それを見てホークはほくそ笑む。
そして余裕を持って飛翔……させるとお思いですか?
すでに網も設置は完了済み。
何かに引っかかる感じを受けながらもホークは力任せに飛翔を決行、その結果……鋼を付与した糸が、細い糸がその強靭な羽毛を切り裂いて食い込んでいきます。
違和感は一瞬。しかし時すでに遅し。
地上までは届かず、上空へ上がることもままならないままウッディさんのデバフの矢がホークを襲う。
与えた状態異常は猛毒、麻痺、そして睡眠。勝手にパニックに陥り、暴れまわることで毒が体内に回っていく。
呼吸が乱れる。しかしそれの原因がわからない。
なにかが体内に潜んでいることさえ知らず、なにがとどめを刺したかもわからず、ホークは慢心からその短い命を落とすことになった。
やがて体が光に包まれ、天に昇って行く。
瞬間真上から鋭い視線が突き刺さる。
ギャアギャアと騒ぎ始めるホーク達。
その敵視(ヘイト)はマリさんに向けられている。
ビンゴ!
「マリさん、空中にレア素材放出!」
「はいよ!」
「ウッディさんは退避!」
「了解」
糸でホーク肉を絡みとり、木と木の間に通した糸にかけて吊るす。
「さぁ! 始まりますよ!」
それはまるで大地が迫ってくるような錯覚を見せた。
空に集まるのはホークの群れ。
その数は少なく見積もっても50はかたい。
それらが怒り狂ったように、次々に囮に向かって一直線に突っ込んで来る。
しかし極最小の糸がその行く手を阻む。
上空からは見ることのできない。
賽の目に並びたてられた鋼の糸に、ホーク達は次々と飛び込んだ。
鳴り止まないレベルアップ音。
上下4までの経験値を大幅に下回る入手経験値にもかかわらず、その取得量はレベル11の私にはあまりにも多すぎた。
ホークの個体レベルは25。
14も上ならば入手経験値は1/10まで下がる。
マリさん曰く基礎経験値は250。
それが減少しても25。
ホワイトラビット(3)に比べれば実に8倍以上。
羊(25)と同等、角羊(30)よりは劣る。
それが滝のようように勢いよく滝壺に流れ込んでいくように、種族経験値プールに溜まっていくのですから笑いが止まらないとはこのことです。
思わず私もにっこり。マリさんもウッディさんもにっこり。
私もLVアップでMPが増量した分を追加で設置し直してますから。なにも棒立ちで突っ立ってるわけでもないんですよー。
お二人もさっきからメニューとにらめっこをしながら種族進化先を決めていましたもの。
彼らは私よりも蓄積していた経験値が多く入り、30まで一直線。
そして進化先を悩む時間まであるという事でした。
私も21まで上がりました。
ようやくです。しかしここからの上がり方が笑っちゃうほど早かったです。
すぐに29まで上りきりました。
お二人も進化先の種族が20近く上がってます。あはは、これはGM案件でしょうか?
そしてスキルポイントも貯まったことですしようやく『切断』も取得。これでレンゼルフィア戦に向けて準備オッケーですね。
今の状態はこんな感じです。
「デストラップ」ミュウ【ランク:F】
★サブ種族:エルフ LV29
HP:290
MP:999【上限】
満腹度:50%
スタミナ:40%
体力:0
知力:300【上限】
筋力:0
精神:0
器用:0
敏捷:0
幸運:0
残りステータスポイント:80
★スキル03/10
☆残りポイント:35
『糸:魔力糸生成/操る』
『鋼:強靭さを付与する』
『切断:鋭さを付与する』
切りのいいところで撤退します。
マリさんもウッディさんもホクホク顔です。やはり種族レベルが上がるのはなにをおいても嬉しいようですね。
おっと、私も丁度30まで上りきりました。もうこれ以上はお腹いっぱいなのでドライアドにチェンジしてエリア1まで移動しちゃいます。
そこでエルフに切り替えて素材を販売。ご飯を食べてレンゼルフィアの下まで向かいます。
巻きで行きますよ~。
「と、言うことでやってきましたけど」
「混んでるね」
「昨日の今日ですからね。弱体化したとあっては鬱憤がたまっている勢はそれを晴らしにいくでしょう……ところでミュウ君」
「なんでしょうか?」
「ものすごく弱体化されていますけど、これって何回連続で討伐したんですか?」
そっぽを向いて口笛を……ぷすー。
あ、吹けない。マリさんの真似してみたんですけど難しいですね、これ。あとで練習しませんと。
「その空気の抜けたような音は口笛かな? と言うことは図星だね?」
ウッディさんがいつになく怖いです。
「まぁそれはひとまず置いといて」
助かった?
「まずは順番待ちと行きたいけど、これ今日中に終わりそうかな?」
「いつものペースなら二時間で終わりそうだけど、今は中途半端に拮抗してるからね。あっと、倒された。全滅だね。次のパーティもまた強そうだね」
「と、言うことなんだ」
どう言うことでしょうか?
「ふむ。君はここに陣取っているお偉いさんと知り合いじゃないかと思ってね。少し交渉してきて欲しいんだ。なに、僕も一緒について行って条件を突き出そう。進行役も勿論ついてきてくれるよね。ウッドハウス……正確に言うとログハウスだけど、それの件で交渉できないかな?」
「ははーん、棟梁。ここで売り込みだね?」
「そのようなものです。なんといってもここに集まってくる人たちの共通の目的は……ですからね。人数が嵩めば本拠地が居る。そこまでは組合の必要経費に含まれていない。後はそれをどこに頼むか」
「なるほどね。譲ってくれた人にサービスするわけだ?」
という事らしいですよ。
このやり取り、つい最近どこかでみたような気がしますけど……はて?
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