第37話 みんなでDIY<5>
わたし達も荷物を運ぶのを手伝い……マリさんはお手つき厳禁ですよ?
その顔を見れば我慢できないのは目に見えてますからね。仕方ないので空輸で運びました。
ウッディさんはそれを見てたいそう驚いてましたが、吹っ切れたようにこれは使える、と考えを改めてました。
ゲンさんにこっそりと耳打ちされたようです。何を言われたのでしょうね?
ねーマリさん……あれ? マリさんどこいったのー? あ、羽ばたいて空輸の中身のぞいてる。
そんな悪い子はえーい。
ばちーんと反転させたノックではたき落とします。
「痛いよ、何すんのさ!」
『お行儀が悪いですよー?』
「ガッハッハ、立つ瀬ねぇな、進行役?」
「いい加減学習しようぜ進行役。あ、乾杯の時の音頭取りも頼むわ」
「進行役、もうすこし我慢しましょう、ね?」
「みんなしていじめるー。お前ら後で覚えてろよ──! うわぁあああああん」
みんなから非難の声をかけられてマリさんは大声で叫びながらヤケクソ気味に宴会会場予定地まで猛ダッシュを決めました。もう、ほんと子供なんだから。
わたし達はそれを笑いながら見送ります。なんかこういう関係もいいなぁ。
お互いに信頼しあってる感じで。
「遅いよみんな~。もう準備できてるから、早く早く! みんな待ちくたびれてるよ?」
目的地の宴会会場……作りかけのウッドハウス建設予定地へ着くと、土台の上ではマリさんと作業員達がすっかり寛いでいました。
わたし達もそこへ混ぜてもらい、マリさんが音頭を取ります。言わずもがな視線は食べ物に釘付けですね。
「今日はみんなお疲れ様! とりあえず方向性も決まって誠にめでたい、という事でここらで意見交換会を開こうと思います。白熱される事と思われますので、うちの料理班から心ばかりのご馳走をこしらえていただきました、拍手!」
パチパチと挨拶を受けてマリさんはさらに言葉を重ねていく。
「それでは挨拶もこの辺りで乾杯といきましょう。皆さんお手持ちのジョッキにエールは注いでありますか? ありますね。それではイマジンの復興を願って、カンパーイ!」
ガツンとジョッキを多方向からぶつけ合い、エールを喉に流し込むと、パチパチと拍手の嵐が巻き起こる。
皆さん楽しんでいるようですね。わたしもなんだか嬉しくなって、拍手をする振りをしました。所詮振りなのは音が鳴らないからですね。でもこういうのは音がなることが大事なのではなく、その場に馴染むために同じことをする、というのが大事であるとマリさんは言ってました。
そして今参加することによってそれを体を通して感じています。
そして食事をしながらの意見交換会が始まりました。第一声はウッディさんから。
「まずは今回の非公式イベントに集まってくれてありがとう。今回の企画発案者として、うちの司会進行役がここまでの規模を用意してくれるとは思わず、すこし緊張しています。まあ、挨拶はこの程度で、みんな木工LVは稼げてますか?
僕は10上がりました」
自分の自慢をしつつも呼びかけると、予想通り順調に木工LVは稼げているとの反応が大きく、呼びかけてくれてありがとうの声も聞こえてきます。
「しかしここでみんなに新たな発表があります」
そう言ってウッディさんが取り出したのは先程わたし達に見せてくれた斜めに切った木材でした。それを合わせて、振ります。そして同じような反応を示す木工師の人に向けてこう言いました。
「実はこれ、木工スキルを一切使ってないんです」
その言葉にザワザワとどよめきの声が上がりました。しかしそれに被せるようにしてウッディさんは声を上げます。
「さて、今日は木工スキルのレベリングついでにウッドハウスづくりに参加してくれた方も多いと思います。
しかしこう言ってはなんですが木工スキルを生かせそうな環境って日常にはあまりありませんよね?」
皆さん思っていることは同じだったようで使い道の少ない無駄スキルだとどこかで思っているようでした。
そこで一拍置いてウッディさんが声をかけます。
「そこである人の作品を見て思いついてこのような仕掛けを作りました」
そう言ってこちらをちらりと見て、視線をみんなの元へ戻します。何人かこっちを見てますね。愛想でも振りまいておきましょうか。ニコニコ~。
「正直な感想を言いますと、この世界では現実と同じ知識が利用できます。例えばですが皆さんが口にしているこの料理。これはスキルによる補正を受けていません」
目の前にある唐揚げを一つつまみ上げ、口に入れてもぐもぐとします。
ごくんと飲み込んだあと、ゲンさんへ流石ですねとお礼を述べ、ある思いを語り出しました。
「まずこの世界には初めから料理が存在しなかった。しかしエールや携帯食糧は存在したりとチグハグなことが多くあります。そこを不思議に思ったプレイヤーはいますでしょうか?」
ざわめく木工師さん達を片手で制し、ウッディさんは続けます。
「僕たちはゲームだからといってスキルに頼り切って居なかっただろうか? それが僕たちの足かせになっていたのではないか? これこそが僕がみんなへ問いかける最初の議題とします。各自意見もあることでしょう。まずはこの会を楽しみつつ、感想を述べていただきたいと思います」
そう言ってウッディさんが下がると拍手が巻き起こった。
何も解決はしていない。けれどその問いかけで多くのプレイヤーがあるシステムに気がついたようだった。
「お疲れー。名演技だったよ、棟梁」
「そんな、やめてくださいよ進行役」
「いや、そんな謙遜することはないぞ。あいつらの顔を見てみろ、何かを思いついたみたいに瞳に火を灯してやがる」
『だねー。やっぱりスキルに関して思うことあった証拠だよ』
「俺らは一からだったからあんまスキルにゃ頼んなかったけどよ、でも一見関係なさそうな奴が、料理に使えたりすんだよな」
「そうそう、投石スキルから派生する命中UPが串焼きのブロック肉を貫通させるのに役立ったりな」
「なにそれ、詳しく聞かせて!」
「大した話じゃないぞ?」
『そういう自分じゃ発見できない話が面白いんだよ。わたしも聞きたいな』
ウッディさんを迎え入れるようにして輪の中へ招き、労いの声をかけていきます。みんなの反応も様々ですが手応えはあったみたいで、やり切ったようにウッディさんはエールを喉へ流し込みました。その横顔はなんだか誇らしげで、これからやってやるぞと意気込まれていたように思えます。
そこへスキルの意外な活用話で盛り上がり、ログアウト時間まで楽しい宴が続きました。
宴の余韻を残しながらログアウトをします。つい先ほどまでの騒がしさもログアウトと共に薄れていきました。それもこれも今の私を取り巻く環境のおかげですね。
「ふぅ……休日に一人でいるというのもきついものがありますね」
特に平日が騒がしい環境へお引越しした後だから言えることですが。
同棲して4日目。
孝さんはあまり帰ってきませんが、琴子ちゃんは私によく構ってくれてたのです。
しかし今日に限って示し合わせたようにお出かけしてしまいました。
なにも今日でなくてもよろしいのに。
でも、だからこそこうして茉莉さんと遊ぶ時間が設けられているので一概に悪いことばかりでもありませんね。
早速茉莉さんからメールを頂きました。
料理の件ですね。
旦那様を振り向かせるためには胃袋を掴む必要があることをゲームで知ったようです。
確かにゲンさんの料理は逸品ですからね。
味覚のないドライアドですら、感動させる何かがあります。何かはわかりませんが、妙に惹かれるのですよね、彼の料理は。
知っている範囲での知識を文字へ落とし込んでアドバイスを授けます。
そしてすぐさま返信をいただきました。
相変わらずのクイックレスポンスに食事を頂く暇すらありません。早速拝見しましょう。
なになに?
手間が多すぎるから工程が少なくて済む奴を教えて欲しい……ですか。
はぁ……これは根本から鍛え直す必要があるようですね。
先ほどの工程をさらに綿密に書き記して、そうですね……どうしてこの行程が必要か説明書きも記しておきましょう。
ふふふ、楽しくなってきました。
やはり彼女は私の最高の親友ですね。
先ほどまでの寂しい気持ちもあっという間に吹き飛んでしまいました。
何気ない会話のやり取りでさえ、心を満たすことができる。それを再確認して、心の中で茉莉さんへ感謝をしました。
すぐに泣き言を添えて返信がきましたが、見て見ぬ振りをします。何事も数をこなさなければ力になりませんからね。今は耐えてください。
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