第23話 結成!彼氏いない同盟<下>
◇side.ココット
「うまくいったわね」
『ん。第1段階はね。空歩の回復がどれくらいかかるか次第では空は安地じゃなくなるし』
「それもそっか。それでここでのんびり休憩ってわけでもないんでしょ?」
「そうなんですか?」
「そりゃ高さによる優位ってあるじゃない」
『鋭いね。まあ見ててよ。壊れたフィールドにはこんな使い方もあるんだ』
「見させて貰いましょうか」
あたしは自信満々に答えるフレンドのお手並みを拝見することにした。
さっきの《霧化》はギリギリだったわ。
言うタイミングが絶妙だったから間に合った。この子は本当にブランクがあるのだろうかと疑問に思った。
10年の月日はそう簡単に取り戻せるものじゃない。なのに彼女はこうも当たり前のように使いこなす。
そして次に行われる行動で思わず吹き出してしまった。
だってアレよ? 壊れたフィールド片を持ち上げてキャッチボールしてるんだもの。
フィールド片がボールであの狼さんがミット。もうボッコボコ。
そんな使い方する? ってラジーと一緒に指差して笑っちゃったわ。それが原因で位置が特定されちゃったけど、一歩届かず態勢を崩して背中から落ちちゃった。それだけで結構なダメージが行くんだからやっぱり高さは優位よね。ヴァンパイアを選んで良かったわ。
悔しそうにこちらに向かって吠えてる狼さんが傑作だったわ。
腹いせに【アースクェイク】でストレス発散しているみたいだけどいいの?
その規模でもミュウにとってはボールよ?
案の定隕石みたいなサイズの地盤を放り投げてたわ。この子どれだけ規格外なのよ。終始笑いっぱなしだったわ。
……でもダメね。このまま何もせずに勝ってしまうのはあたしのプライドが許せない。だってそうでしょ? 目立ってるのはあの子だけ。
それはダメ、絶対にダメ。
だから言ってやるんだ。
「ミュウ、あたしの分も残しておいてよ」
『止めるのおそいー。残弾もそろそろ尽きるし打って出るよ』
「ココ姉様! お考えはあるのですか?」
「無いわよそんなん。だけど仲間に任せっぱなしというのはあたしの性に合わない。あんたもそうでしょ、ラジー。心の奥底からぶつけたい衝動ってもんがあるでしょ?」
「はい……そうですね、私はそんなことも忘れてしまっていたようです」
『おおー、その言葉を待っていたよー』
「だから手加減してくれてたんでしょ?」
『どうかな? でも一人で倒すのは違うと思うんだよね。ほら、わたしってサポートキャラだし』
「どこがよ!」
「あははは……それは無理があるかと」
ラジーにも言われてるじゃない。
まったく。
あたしは安全な場所からの闘いを捨てて平等な場へと降り立つ。
「さぁ、第2ラウンドといこうかしら」
あたしは未だ体力ゲージを半分以上残す狼さんの前に立ち、そう言い放った。
◇side.ミュウ
ココが挑発しながら前に出る。わたしは背中から見守り、ラジーはそれを合図に闇に紛れた。半径5メートル以上離れないように。これが今回取り決めたルールも何もないぶっつけ本番。
レンゼルフィアはと言うと、ルナからの影響が強く出たのか発狂状態にまで達していた。目は血走り身体中はボロボロで、そして何故か回復しないスタミナに痺れを切らしていた。
ココは闘牛士のように華麗に舞い、レンゼルフィアを翻弄し続ける。際どい攻撃だけ弾き、それ以外は彼女の判断に任せる。これはさっき遊びすぎた自分に課した罰である。彼女はそれを良しとしなかったけど、スリルを味わうには丁度いいという事で許可が下りた。
人間、楽を覚えると成長をする機会を失うからね。厳しいかもだけどここは耐えて欲しい。
ラジーの行動はさっきと一緒。基本は逃げに徹して
【魅了のオーラ】と並行してサポートしながらの全力攻撃で少しづつダメージを蓄積してもらってる。
とはいえ少し小細工もある。
戦闘中に上がったジョブLVにより彼女はまさにうってつけの能力を得た。
それこそが【毒手】。
付与できるのは様々な効果がランダムで乗ると言うもの。彼女には攻撃の際、毒手も並行して使用して貰っている。
それは【魅了のオーラ】をレジストした際に起きる意識混濁を巧みに使った戦略だった。
レンゼルフィアには一体自分が何をされている状態か理解できていないのだ。
蓄積された毒は6種類。
神経を蝕む《混乱毒:混乱付与》
五感を蝕む《感触毒:鈍感付与》
視力を蝕む《盲目毒:感知スキル使用不可》
記憶を蝕む《喪失毒:スキル忘却》
精神を蝕む《消耗毒:MPスリップダメージ》
やる気を蝕む《怠惰毒:活力を奪う》
どれも精神に作用する毒であり、強力な物だ。ココが回避盾でいられるのもラジーの【毒手】による効果が非常に大きく出ていた。なるべくなら怠惰毒を切らさないで欲しいが、こればかりはランダム。運を天に任せるしかなかった。
「いい加減あんたの顔も見飽きたのよ!」
ココはここぞとばかりに前に出て、わたしの精霊装備を解除した。予定にない行動……これは大技を出すつもりだ。それによる熟練度を吸われるのは痛い。それを含めての装備解除。わたしはそれを悟ってラジーへ向けて糸を放出、巻き取った。
「わわっ! どうしたんですか?」
『ココが大技行くみたい』
「姉様が?」
『わたしを解除したって事は被害が大きいって事よ。空に回避、準備はいい?』
「いつでも」
『【ノック】!』
わたし達が上空に逃げるのと同時に、ココの周りに闇が急速に集まる。
天に輝く月はいつのまにか血に濡れたような赤い輝きに彩られていた。
声が響く。彼女の、ココットのエリア交信だ。小さく笑い声が聞こえる。
しかしそれは徐々に大きくなり、しまいには腹の底に響くような甲高い笑い声に変わった。
その声が大きくなると同時に集まる闇も大きく肥大化していく。
そしてそれはココの笑い声をかき消すように大爆発を起こした。
チュドーン!
それは夜が弾け飛ぶような規模の大爆発。超至近距離でそれを受けたレンゼルフィアはひとたまりもない。半分近くあったHPも残り2割となっている。驚いた。あれだけで3割も。24000近くも与えたと言うことになる。フレンド欄にはいまだに彼女の名前が刻まれているので生きてはいるようだ。
ラジーがいてもたってもいられないといった表情でわたしを見てきているが、行くのはやめてあげなさいと嗜める。
彼女のことだ、ひょっこりと戻ってくるだろう。
案の定、すぐに戻ってきた。随分とみすぼらしい姿で。
『おかえりー。随分とまあ可愛くなっちゃって』
「ただいまー。あんだけ闇を集めたのに倒しきれなかったわー。ちょっと休憩~」
「姉様! 私心配したんですよ!」
「ごめんごめん、何をやるか言えばラジーに止められると思って」
「当たり前じゃないですか!」
「だよね~。だからあたしは言わなかった。言えなかった。でもね、夜のフィールドで吸血姫がちょっと不利だからって尻尾巻いて逃げるわけにはいかないのよ。ラジーもそう思うでしょ?」
「……、 はい」
『ちょーびびったよー。ココの事だから大丈夫だとは思ったけど。何だかんだちゃっかりしてるしね』
「なによその言い方~。随分と棘を感じますなー?」
『シッ、ターゲットが動き出したよ』
「タフだねー、HPと状態は?」
『残り15000の盲目、混乱、喪失』
「あちゃー、怠惰消えちゃったか」
「おかわりならいくらでもご用意できますよ?」
「ひゅう♪」
剥がれ落ちた状態異常にげんなりとしつつもラジーの頼もしい発言にココは口笛を吹く。
さあ、このままちゃっちゃとトドメまで行っちゃいますか。そう思った時、不意に意識が薄れて行く感覚に包まれる。
まずい……この感覚は強制ログアウトだ。
『ごめん、続きは今度でいい? ログイン時間がやばいかも』
「あー、あたしもそろそろ」
「じゃあここで解散しちゃいます?」
『いいの? せっかく倒すチャンスだよ?』
「あまり目立ちたくないんで良いですよ。それに……誰かもわからない人達に褒められるよりも、私は姉様達に褒めてもらえれば十分ですから」
「あら、嬉しい事言ってくれるわね」
『ねー。ってそれわたしも含まれてる?』
「ご迷惑でしたか?」
『全然! すごい嬉しいよ。この姿で年上に見られたことってなかったから! ありがとう、ラジー』
「ちょっ、あいつこっち見てますよ?」
「見せつけてあげれば良いじゃない。また近いうちに再戦するでしょ。どうせこの後誰も倒せないと思うし」
『わからないよー? 何だかんだ2万近く削ってたし』
「ああ、じゃあ学習したあいつと戦うのか、骨が折れそう」
「MOBも学習するんですか?」
『するよ。討伐されてリスポーンの間に蓄積されたログから少しづつ吸収して行くの。昼の学習をしたやつがこれなら納得』
「うわっ、エグ!」
『おっと時間切れ。また来週』
「おつー……って来週? 明日じゃなくて」
『うん、わたしリアル超忙しいから。マリさんに誘われてなきゃここ来なかったし』
「あちゃー、んじゃあそれまでに土産話たくさん用意しとくわ」
「お疲れ様です、ミュウ姉様。また来週」
『じゃあね~』
パシュン、と言う音とともにわたしの意識は途切れて私の意識が戻ってくる。
ふぁぁああ~~遊び足りなーーーい。
すごい消化不良。ココやラジーに悪いことしちゃったなー。
でも21時過ぎちゃったしもう就寝しないと絶対明日ボロ出ちゃ……いますよね、これは。
あぶないあぶない。
言葉使いも直していきませんとね。
でも……楽しかった。
茉莉さんには悪いけど今更ゲームなんて……そう思っていたけれど。久し振りにドハマりしそうな興奮感に寝付けずにいました。
Imagination Brave Burst
それが私に自由へ羽ばたく翼を与えてくれるキッカケになるとはこの時は思いもよりませんでした。
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