本番4 かめとかめがぶつかる時の中間座標がずれる時
かめ小僧が探す美少女……。
地下アイドルを激写する度。焼き付くフラッシュが自分を照らす時……。
超巨大台風接近。
彼が副業として経営するイベント保険会社の社長としての感覚が超心理学的な何かを匂わせる。
かめ小僧達の中で一目置かれる存在……。
イベント中止で保険金は支払われる。2020年のコロナ禍が忘れさられた今年でもその時の保険会社の損失は個人の保険代理店まで殆ど潰すような経営基盤の悪化を招いた。
かめ小僧は午後6時の空を見上げ、手に持ったカメラをリュックにしまおうとした。
地下アイドル……。
大雨が降った時、地下に流れ込んでくる水。
大雨で地下店舗に流れ込んでくる水から地下アイドルを守護する為、彼、カメ小僧は、普段カメラを街中に向ける……。
彼のパソコン技能は、水が流入する経路として最短経路をアウトプットするアプリの開発に使われていた。
物流会社のトラックでの配達で最短経路で配達する。
シンギュラリティーをまだ先にしている位、人の感覚での最短経路で配達する能力は、コンピューターをまだ遥かに超えている。
あるドライバーさん曰く、カーナビは当てにならない……。
シンギュラリティーとは人間の想像性をコンピューターが凌駕する瞬間の事を言うが、物流配送運転手が配達票を抜いて自分で組み合わせ、ルート配送していた時代、ドライバーの能力はそのルート組みだったのだ。
夏や冬の繁忙期、正社員ではないドライバーが、いまだに配達票を抜いて自分でルート組み。そのルート組の能力で認められる時、正社員雇用の道が開けるとまで言われる。
水が流れ込む最短ルートは等高線の高さで下る坂へと水は流入していき、下り坂の地下アイドルを助け出すファンは天気予報が外れる時、その怒りを気象庁に向けるのだ。
大雨でイベント中止。保険が下りる。そのイベントの売り上げを予想し、保険金を算定し掛け金を支払う主催者側。
コンビニでの一日保険を500円で支払う地下アイドルと、イベント参加者が払う掛け金をそのまま大手保険会社のイベント保険の掛け金とした時、その一日の当日保険ではなくイベント予定日に合わせた一日保険。
カメ小僧はそのイベントプランナーとして、他のカメ小僧を取りまとめていた存在だった。
カメ小僧は一度視線を道路に落とし、午後6時30分の空を見上げた。
前を走る自転車。
横断歩道に差し掛かるカメ小僧の向こう側。
一人の美少女が明らかに、20メートル離れても美少女だとわかる彼女が、前にいたのだ。
激写したい思いを伏せて、歩行者用信号が青になった時、踏み出す足を一度止める。
中間……。
相対性理論はアルファの座標とオメガの座標の中間を設定し、そのお互いからの座標の中心へ運動速度が衝突エネルギーに変わる時、光は物理的なエネルギーに変換される。
相手が迫り、自分は止まる。
相手が纏うオーラは、自分の側へエネルギーを押し込む。
カメ小僧は彼女があちら側からこちら側へ来るのをただ待つだけのように、彼女が自分の側へ接近するのを待っていた。
眼鏡を外す……。
彼女の横側が自分の右側にくるのか、左側にくるのかで、自分に掛けた……。
彼女が手荷物バックが右手にあり、彼女の利き手が左手だと分かる。
左脳は言語脳で右半身を司り、右脳はイメージ脳を司る天才脳とされる。
文系か理系か? 大脳生理学で言われていた事。
左右の手でプログラミングする理系のオタ小僧の統合失調。
右脳と左脳の機能が、左右の半身の機能と、耳、目と、それぞれがニュートラルな状態に戻らず、自分の精神も肉体も統合機能を失ってしまう時、左右で操るキーボードの存在に変わるモノが必要だと、自分の大学の先輩が工学部で製作していたモノ。
カメ小僧の利き手側……。
カメ小僧はその横側に涙を見たのだ。
彼女の涙を……。
美少女がクラスの同級生の妬みで、イジメを受ける時……。
彼女の拠り所は、彼女を崇拝するファン。その自分の居場所へと、彼女をいつも運んでいた。
カメ小僧が推していた地下アイドルとは別の存在……。
対立する地下アイドルのグループの中心的な存在だった彼女を、カメ小僧は本当は知っていたのだが、彼女の素の姿を知らなかった。
統合失調で壊れた理系オタと。
クラスの同級生のイジメで、精神を心で遊離させている美少女。
彼女が地下アイドルをしながら夜の道路をただ歩き、そして歩き、ただ誰かに遭遇する為に歩く時……。
カメ小僧は彼女を自分のカメラに収めそれを大手の事務所へ送る事。
彼女の被写体として、夜の歓楽街の風景として、ニュースで報道されるような、盗撮対象としての人物中心の撮影ではなく、ただ彼女が営む歩く行為が、ただテレビでニュース報道される街の風景の片隅に、彼女の涙の一日が終わり、彼女が自分から赴くファンの元で、自分が輝く一瞬を、未来のエネルギーにしている事を……。
ニュース映像は知らない。
カメ小僧はただ振り返り、彼女が歩む歩数と同じ速度で、ただ彼女を見つめる事しか出来なかった。
「君……」
「え?! なんすか?」
私服警官が僕を呼び止める。
「あの娘に関わらない方が いいぞ……」
僕が、あっちの世界。
殆ど売れないエロDVDが、電子世界で売られながら、電脳端末の中で、人の脳裏に、犯罪と犯罪ではないスレスレの中、男性、女性の夢の中へ、転送、転生してゆく、あっちの世界。
ファンタジー世界に、アダルトDVDが電子転送され、世界のネットで絡み合う。あっちの世界へ運ばれる時、僕の一枚のジャケ写が、ジャケ写としての価値もなく、金額さえつかない、ダウンロードの世界へ、アップロードされる、電子情報が、あっちの世界でどう価値付けされる。僕は彼女の価値を確かめなくてはいけなかった。
悲しい横顔の美少女が、朝から放課後までクラスで同級生の妬みに怯えながら、自分の羽を窓の外ではなく、熱いパトスを迸らせる場所が、たとえ地平線の下でも、彼女が訴えたい想いが、そのダンスと歌詞にこめられているとしたら……。
彼女の存在を焼き付ける装置を持つ僕が、僕の距離と彼女の距離を相対性的に測りながら、彼女を被写体に選びたいと、思う自分の思いに正統性を持たせるのに十分だったのかもしれない。
僕は、私服警官の制止を振り切り。
彼女の後を追った……。
僕のイヤホンを外す存在はいない。
YOASOBIのメロデイーが右耳の耳朶を震わせながら……
第6話 了
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