349ページ目…ローラの決意

<side:ローラ>


 クズハが覚醒を果たした次の日、ローラは焦っていた。

 と、言うのも正妻であるプリンは実力もさる事ながら、旦那から絶大な信頼を寄せられている。

 しかし、クズハは、良くて自分と同じか、それ以下だと思っていたのだ。

 それなのに、覚醒なんて言う物を果たしたクズハ…それは、自分の存在を脅かすどころか軽く抜き去ってしまっていた。


 覚醒後のクズハの姿はメスの自分が見ても綺麗だし、何より胸も自分より大きかった…。

 その事が原因とは言わないが、主のクズハを見る目がメスを求めるソレに変わっているからだ。

 不味い、非常に不味い…もしかしたら、自分は捨てられるのではないか?

 そんな不安に駆られ始めたのだ。


 実際はそんな事はなく、旦那はローラだけではなくクズハに対しても変わらずに接している…完全にローラの勘違いである。

 だが、それでもローラは考えた…。


「ローラ、まだ幼生体…なら、成体になれば…。」


 神獣であるフェンリルの成長と言うのはは、人族のソレとは違い、思いによって成長する。

 そう言う意味では幼生体であるにも関わらず、〖人狼化〗によって獣人みたいな姿になれる事自体、通常ではあり得ないのだが、ローラはその事を知らなかった。


あなた、ローラは…ローラは…。」


 本来、そう簡単に人に懐くはずがないフェンリルではあるが初めて優しくされた事により、半ば刷り込みの様な形で好きになったオス…。

 だが、切っ掛けはどうであれ、その後の展開はそうじゃないとローラは自信を持って言えた。

 その為、群れの中での順位が下がる事に懸念を覚えたローラは焦りまくったのである。

 そして、その日の夜…ローラは決意をした。


☆★☆★☆


<side:夢幻>


 今日の料理当番はローラだ。

 流石に、家にいる時などは、クズハかアリスが料理をするで必要など無いのだが、万が一の事を考えて、この機会にローラにも料理を覚えて貰おうと言うのが、趣旨である。

 そして、その料理の手伝いと言う名目で、昨日から、何か考え込んでいた様な気がするので、このタイミングに、ついでに聞いてしまおうと思ったのである。

 まぁ、ローラなら他の人?達とは違い、変に黙る事はないだろう。


 それに、酷い話ではあるが肉を与えれば直ぐに機嫌が良くなるのでは?とも思う。


あなた、ローラ来た…入って良いか?」


 噂をすれば何とやら…さっそく、ローラが来た様だ。

 とは言え、返事をしなければ忠犬であるローラは入ってこないだろう。

 なので、僕は入る様に言う。


「あぁ、もちろん!ローラ、入っておいで。」


 僕がそう言うと、いつも元気いっぱいで入ってくるローラが、今日に限って、しんみりとした雰囲気で入ってきた。


「ロ、ローラ…何かあったのか?」


 普段とはあまりに違うローラの態度に、僕は不安になる。

 もしかして、そんなに料理をするのが嫌になったのだろうか?


「あ、あなた…ローラ、少しの間、主の元、離れようと思う。」

「な、な、何だってッ!?」


 あまりに突然の申し出に、僕はパニックになった。

 だって、ローラはお留守番で離れる事はあっても、僕を嫌いになって離れる事は絶対に無いと思っていたからだ。

 まさか、そこまで料理をするのが嫌だったのだろうか?


「そ、それは、もしかして…ローラに料理をさせようとした僕が嫌いになったから…なのか?」

「違うッ!!ローラ、あなた、大好きッ!!

 でも、今のローラは主達あなたたちの足手まとい

 だから、ローラ、強くなってくる!」

「はぁ?ローラ、いきなり何言ってるんだ?

 足手まとい?僕はローラにいつも助けられてるんだぞ?」


 戦闘面では、少しばかり頼りないと思う事はあるが、それでも十分戦力にもなるし、普段から空気を読まないローラの明るさに助けられている。

 所謂いわゆる、ムードメーカー的なポジションにいるのがローラだ。

 それなのに、何で急にこんな事を言い出すのか、僕には分からない…。


「それでも、ローラは弱い…。

 だから、強くなってくる!」


 …どうやら、ローラの決意は固い様だ。


「そ、その…ローラは、強くなったら戻ってくるんだよな?」

「当たり前、ローラの帰る場所は、あなたそば

「分かった…なら、僕はローラの意思を尊重する。

 ただし、強くなりたいからって無茶だけはしない事…良いね?」

「分かった、ローラ、無茶しない」


 ローラが無茶をしないと言ったからには、無茶はしないだろう。

 それより、気になる事が一つある。


「それで…今から旅に出るのか?」

「それはない…旅に出るのは明日から

 それに、今日はローラの番

 暫く、愛されないから今日は壊れるくらい抱いて貰う」


 …どうやら、決意は強くても、夫婦の営みやる事はやるみたいだ。

 とは言え、何日離れているかは判らないが、1~2日で戻って来るとは考えづらい。

 ならば、ここはローラが望む様にするのがベストなのかも知れない。


「分かった…今夜は、ローラの望む様に抱くよ。

 でも、その前に、料理を作ろうか?」


 そうしないと、みんなお腹を空かせてしまうから…。


「…ローラ、逃げたらダメ?」

「ダメです。」

「ローラ、無茶しないと約束した。」

「そうだね…でも、それは強くなる事に対してだから、料理は関係ないよね?」

「うぅ…あなたのイジワル…。」

「まぁまぁ、僕も手伝ってあげるから…ね?」

「分かった、ローラ、頑張る。」


 その後、ローラと一緒に料理を作る。

 え?味はどうだったかって?

 まぁ、食材は無駄にしなかった…とだけ、言っておこう。


☆★☆★☆


 そして、夜、僕の部屋にローラがやって来た。

 料理を作る前に言っていた約束を果たしに来たのだろう。

 その頬は、僅かに紅く染まっている。


「ローラ、こっちにおいで。」


 僕はそう言うと、ローラをベッドに引き入れると、そのまま激しく愛し合う。


『ア、アォーーーーーンッ!!』


 その夜、周囲には狼の遠吠えが、何度も鳴り響いたのは言うまでもない…。


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