327ページ目…魔族領、探索開始
「まさか、本当にお二人で砦を落としてしまうとは…。」
とは、冒険者ギルド暗部所属のレスターさんだ。
あまり、魔族の数が多くなかったとは言え、上級魔族が居たのだから驚く事は無理からぬ事。
「これで、ひとまずはファナル砦への侵攻は収まるかと思います。
なので、僕達はこのまま先行していこうかと思います。」
要は、邪魔だから付いてくるな…と言っている訳だ。
「そうですか…本来なら監視対象である
良いでしょう…我々は、この砦を拠点とするべく動く事にしましょう。
ただ、出来る事なら…こちらに定期的に報告に来て頂けると助かります。」
「そうですね…可能だったら、報告に来る…で良ければ、僕達も異存はありません。」
そう、可能ならば…とは、便利な言葉だ。
まったく、その気がなく報告に来なくても、可能じゃなかったと言えばそれまでの話なのだ。
もっとも、そんなのはレスターさんだって分かっている…故に…。
「はぁ~…可能ならって絶対、報告しに来るつもり無いですよね?
まぁ、我々では貴方方に付いて行くだけですら厳しい状況ですから、それでも仕方がない訳ですが…。」
「そうですね…正直、何度見捨てようかと思ったか…。」
「いや~見捨てられなくて良かったですよ、ハッハッハッハッ………って、冗談ですよね?」
「えぇ、嫁~ズはともかく、僕は見捨てる気はなかったですよ?」
もっとも、
「そ、そうですか…本当に助かりました…。
ま、まぁ、それはともかく…話を戻しますが、我々はこの砦を魔族領攻略の為の拠点とする為に動こうと思います。
流石に今すぐに…とは無理でしょうが、ファナル砦の冒険者達や軍隊もそろそろ動き出すはずです。」
「なるほど…出発前、何を話していたのかと思えば、そう言う事でしたか…。」
「えぇ…まぁ、これほど早く砦を落とす事が出来るとは思いませんでしたが…。
とは言え、彼等が動き出しすとなれば十分な装備を整えてからのはず…そうなれば、途中の
ふむ…でも、それでも数日は掛かるはず…。
「その間、レスターさん達だけで大丈夫なんですか?」
「えぇ、十全で大丈夫とは言えませんが、これでも私達は隠密行動が得意ですから…レッサーデーモン数体程度であれば余裕ですし、十数体でも何とか…。」
「それ以上だったら?」
「その時は、諦めて逃げます。」
「………プッ!」
即答で逃げると言うレスターさんの答えに、思わず唖然としたが、確かに行く残るのには最善の手だと思った。
冒険者なら当然の行動だな…と思ったら、つい笑ってしまった。
「はて?今の答えに笑う所なんてありましたか?」
「いや、そう言う訳じゃないんです…ただ、あまりにも当たり前の答えだったんで…てっきり、死んでも守る…とか言うタイプと思っていた物で…。」
「いやいや、私達は軍隊じゃなく冒険者ですよ?
幾ら私達が暗部に所属していたとしても冒険者は冒険者…。
それこそ、軍隊みたいに名誉だなんだと言うしがらみに縛られないからこそです。
そもそも、冒険者は何の保障もない…それ故、生き残ってこそ、なんぼでしょ?」
と、冒険者にとって一番大事な『生き残る』の部分を強調する様な返事が返ってくる。
あぁ、そうか…僕がレスターさん達を見捨てないと決めたのは単に、見捨てたくないと思う他に、冒険者なのだから、こんな所で死ぬんじゃない!絶対に生き残るんだ…と思っていたのかも知れない。
ならば、レスターさん達は無理をせずに引き際を間違う事もないだろう。
僕は
もちろん、取り出す際は
「これは…ポーションじゃないか!?貰って良いのかい?」
「えぇ、でもポーションとは言え初級の回復薬ですから、大怪我をしたら効かないので注意して下さいね?」
「あぁ、それでも生き残る可能性が増えるのはありがたい。」
正確には、初級のポーションだろうが大怪我だからと言って効かない訳ではない。
ただ、回復量に対して怪我が酷くて、所謂、焼け石に水…と言った状態になるだけの事。
とは言え、運が良ければ、致命傷だった傷が致命傷じゃなくなる事だってあるのだ。
それに、確かに渡したのは初級のポーションだ…が、一言で初級と言ってもピンキリだ。
中級の回復薬とほぼ同じほどの品質があったしても、鑑定の結果、初級と明記されていれば初級なのだ。
中級ポーションの品質が著しく悪い物と初級ポーションの高品質…はたして、どちらが良い物か…と言われたら、場合によっては初級の方に軍配が上がる事もあるのだ。
そして、高品質の初級ポーションと言うのは一般的には市場に出回らない。
何故なら、その品質が当たり前だと思われたら低品質の物が売れなくなるからだ。
そう言う意味では、僕が渡した初級ポーションは高品質だったりする。
また、自分で作った物だし、一般的には出回る事がない品だったりする。
とは言え、それを説明するつもりは、さらさらない。
「それで…君達はもう行くのか?」
と、レスターさんが聞いてくる。
「えぇ、これでも忙しい身なので…ね。」
「そうか…なら、君達も無理をせずに、再び必ず生きて会おう!」
そう言ってレスターさんが右手を差し出してくる。
だが、僕はその手を握り返す事はなかった…何故なら…。
「レスターさん、僕達は冒険者ですよ?」
そう言って、僕は握り拳を前へと出す。
「あぁ、そうだったね…これは一本取られたね。」
レスターさんはそう言うと拳を握り、僕の拳と合わせた。
そう、これこそが冒険者流の…再び会おうと言う別れの挨拶なのだから…。
◇◆◇◆◇◆◇
それから直ぐに僕達は砦を後にした。
とは言え、行く宛がある訳ではない。
元々、僕達の住んでいた領土は魔族領とはあまり交流が少ない土地なのだ。
その為、どこに村や町があるか知る機会が殆どなかったのだ。
それ故、魔族領の地図と言う物を手に入れる事が出来なかったのだ。
「で…みんな、どっちに行く?」
レスターさん達の前では格好を付ける様にしていた。
当然、別れる時に格好を付けたのだが、嫁~ズ達の前では、情けない姿も平気で見せる。
そもそも、僕の嫁達は、そんな事で僕の評価を落とす事はしない。
「そうですね…それなら、こんなのはどうでしょう?」
プリンはそう言うと、僕達に思い付いた事を教えてくれたのだった…。
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