317ページ目…休憩タイム

「ふぅ…何とか、此処まで来れたか…。」


 魔族領まで、まだまだ先は長いが、現在地は魔族領までの行程の1/5程進んだ、ちょっとした広場になっている場所である。

 つまり、1/5の所までは何事も問題なく来れた事になる。

 あれから、僕達はファナル砦で準備をすると、すぐに砦から出て敵から身を隠す様に移動していた。


 とは言っても、全部の敵から逃げている訳ではない…砦に敵が雪崩れ込んだら問題なので、ある程度、敵を間引く様にしながらの移動だったりする。


 もちろん、敵の間引き方は、2~3匹の小規模グループになっているヤツらではなく、5匹以上のちょとした戦力と思われるのを中心として狩っているのは、砦への負担を減らすのと共に、みんなの経験値を稼ぐ為だったりする。


「とりあえず、ここまでは特に異常はないな?」


 まぁ、あの程度の下級魔族…レッサーデーモン相手だと、みんなの実力から言えば雑魚だろうけど…。


「えぇ、そうですね…そもそも私達の隠密行動に気が付くのは普通に考えれば至難です。

 更には、クズハさんの幻惑魔法も併用していますから…余程の敵じゃない限り、気が付くのは不可能だと思いますけど…。」

「ゆ、油断はしちゃダメですが…。」

「大丈夫よ、クズハ…今のは油断などではなく、現状報告ですから。

 それに、ローラさんの索敵能力も使って、敵に見付からない様に移動してますからね?」

「えっへん!ローラの索敵、無敵。」


 えっと…ローラが言うと間違った言葉の使い方に思えるんだけど…。

 とりあえず、ローラの索敵を誤魔化す強者は早々いないって事だろうな…

 まぁ、現状、僕の索敵範囲内に敵がいないのだから、当然、その範囲よりも広いローラの索敵範囲内にも敵はいないって意味でもあるんだろうけど…。


 とりあえず…正直、クズハの幻惑魔法は僕でも引っ掛かる可能性が高い。

 だから、クズハは自分の能力に、もう少し自信を持っても良いのでは?と思う。


「でしたら、ここらへんで少し休憩でも致しますか?」


 とは、ブラウニーのアリスである。


「いや、流石にこんな場所じゃ…。」


 いくら、開けた場所とは言え敵が来る場所である。

 僕はアリスに断ろうとした…したのだが…。


「それは良い提案ですね。

 では、アリスさん、みんなにお茶を入れて貰えますか?」


 プリンはそう言うと、倉庫代わりに使っている〖胃袋〗から、テーブルと椅子…それからティーセットを一式用意する。

 此処で言うお茶とは、日本人の馴染みである緑茶ではなく、紅茶やハーブティーの事だ。

 って、…いやいやいや、プリンさん…此処、ある意味、戦場なんですよ?

 何で、危険な事をしようとするんですか?


「で、では…ご主人様あなた、A-5の箱を出して貰って良いですか?」


 と、クズハが言ってくる…A-5の箱…と言うと、確か、アールグレイの茶葉が入っている缶だったかな?

 ついでに、お茶請けとして、アールグレイに合うクッキーか何かも入れていた様な…。

 何はともあれ、アリス言うの休憩には、クズハまで賛成の様だ。

 だったら、僕だけ反対しても意味がない。


「はい、クズハ。」


 僕は諦めて無限庫インベントリから、A-5と書かれた箱を取り出し、クズハへと渡す。


「あ、ありがとう御座います。」


 クズハは僕にお礼の言葉を言うと、てきぱきと紅茶を入れる準備を始める。

 え?ローラの意見は…だって?


「肉、ウマ。

 プリン、も一皿出して。」


 と、言う事だ…既にプリンからローラ用の串焼きを一皿出して貰い、すでに休憩中だったりする。

 と言うか、1皿10本、串焼きは乗っている。

 にもかかわらず、追加で一皿…って、休憩じゃなく、本気で食事取ろうとしてないか?


御主人様あなた、そんな所に立っていないで、椅子に座って寛いで下さい。

 それに、ちゃんと人払いの結界は張っていますから、大丈夫ですよ?」

「そ、そうなんだ…なら、僕も休憩するか…。」


 アリスに言われた様に、僕は椅子に座ると『ふぅ~』と、張り詰めていた気を抜く。

 ちなみに、人避けの結界とは、結界の外の人…この場合は、結界の外の生き物と言った方が正しいが…に、対し、結界の中を無意識に認識させない様にする為の魔法の事を言う。

 これにより、ダンジョンとかにある安全領域セーフティーエリアの様な空間を擬似的に作成した事になるのだ。


「それはそうと…僕達を尾行していたヤツら、どうなった?」

「そうですね…うん、どうもなっていません。

 ちゃんと彼等も全員、付いて来てます…とは言え、少なからず怪我を負っているようですが…。」


 ふむ…致命傷は喰らっていないが、大なり小なり、怪我を負っていると言う事か…。


「なら、ポーションでも差し入れしてくるよ。」


 僕はそう言うと、僕達を尾行していた人達の元へと向かう。

 とは言え、尾行している人達が誰かは知っているので、警戒はしていない。

 まぁ、尾行していた人達にしてみれば、目標人物ターゲットが自分たちに近付いてくる様は、恐怖の対象になったかも知れない…


「あの…これ、どうぞ…。」


 僕はそう言うと、尾行していた人達にポーションを渡す。

 致命傷の人がいないと言うプリンの診断結果により、渡したのは初級の回復薬ポーションだ。

 ちなみに、これは中級の回復薬を作る作業の時に、調合に失敗して初級になったしまった分の、再利用でもある。


「あ、ありがとう…じゃない!

 い、いったい…いつから気が付いてたんだい?」


 あ、この声は…。


「もちろん、最初から…ですよ、レスターさん。」


 そう、冒険者ギルドの暗部所属のレスターさん達だったのだ。


「それに…僕のパーティーって、僕を含めて索敵出来る人が殆どですから…。

 多少なりでも違和感があれば、みんなで原因探りますから…認識阻害を使い、一人で動かない限り、僕達にバレないで尾行するのって難しいですよ?」


 僕はそう言うと、用事は済んだとばかりに踵を返し、プリン達の元へと歩き出す。

 これで、レスターさん達が僕の後を付いてくるなら良し…付いてこなくても自己責任だ。


「あら、ご主人様あなた一人で戻ってきたんですか?

 と言う事は、やはり軽傷だった様ですね。」

「そうみたいだね…まぁ、一応、人払いの結界の中で、初級とは言えポーションも渡した。

 そんな優しいプリン達のお陰で、彼等も治療も出来る…ってな訳で、もう少し休憩と行こうか。」

「はい、ご主人様あなた♪」


 そう…この休憩の本当の理由は、僕達の為の休憩ではなく…尾行していた人達が、無理をして死なない様にする為の休憩だったのだ。

 もちろん、僕達の休憩も必要ではあったが、まだ大丈夫だった。

 最初の提案者はアリス…その後、プリンが了承して休憩開始。

 最初、僕は反対だったのだが、嫁~ズ全員が賛成なので、諦めた結果だったのだ。


「まったく…僕の嫁~ズ達は、他人に甘いんだから…。」


 と、愚痴っては見た物の…人成らざる者達ばかりの筈なのに、その優しさが嬉しくて、つい僕の口元はニヤ付いていたのだった…。

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