310ページ目…ファナル砦
魔族領…もしくは、魔王領と呼ばれる大地は、周囲を海に囲まれた大きな島と言っても過言ではない程、不自然な形をしている。
と言うのも、その魔族領と人間…人族や亜人族などが住んでいる大陸を繋ぐ道は、一本道の渓谷があるだけなのだ。
しかも、一本道の渓谷とは言っても真っ直ぐな道ではなく、クネクネと蛇行しているので直線距離に比べて、5倍の長さがある。
そんな、
もっとも…下級魔族だけで上級魔族の姿が見えないと言う不可解な現象をも引き起こしていた。
「それで…やはり、上級魔族は姿を見せていないのだな?」
「はい、物見の報告からでは、魔王はおろか上級魔族も姿を見せていないと…。
それと、下級魔族達の動きに関しましても、隊長の予想通り、統率など一切無く、好き勝手にこちらへ向かってきているそうです。」
「そうか…そうなると、ますます分からなくなるな…。」
「えぇ、そうですね…わざわざ宣戦布告までして戦争を始めたのに、本気でこのファナル砦を堕とす気がないとしか思えない愚行…。
そもそも、これだけの数の下級魔族…レッサーデーモンを何処に隠していたのか…。」
「さぁ…な、ただ、これだけは言える。
ここが堕とされれば、戦渦は一気に広がるだろうと言う事。
そうならない為にも、最終防衛として我々、ラストガーディアンズだけでなく、冒険者も一緒に戦っているのだ!」
そう…ここファナル砦には、魔族の侵攻を阻止する為、各地から、次々と軍隊や冒険者達が集まってきているのだ。
そして…ついに、問題の一組の冒険者パーティーが到着する事となる。
「初めまして、貴方がラストガーディアンズの隊長さんですが?」
「いかにも!して、貴方達は?」
「おっと…申し遅れました。
僕達はメルトの冒険者ギルドのギルドマスターであるラオン殿からの緊急協力依頼を受けてお手伝いに来ました。
えっと…僕の名前は
一応、全員妻と言う事で紹介したのだが、言い方が言い方なだけに、妻とその他みたいに聞こえるのは、語力のない僕が悪いのだろう。
「これはこれは、私はラストガーディアンズ隊長、フランベルク・シルバーソード…まぁ、フランベルクと呼んでくれれば良い。
しかし、メルトからとは…わざわざ遠い所…を?
ちょっと待てッ!?魔族の宣戦布告があってから、まだ4日しか経っていないのだが、どうやって此処に?
メルトから此処、ファナル砦まで早馬を乗り潰しながら乗り継いだとして、最低でも2週間は掛かると言うのに…。」
「フランベルクさんでしたっけ?僕達は冒険者ですよ?それなのに、それを聞くんですか?」
「い、いや、スマン…つい気になってしまっただけだ。
我々とて、その事について知っている…。
故に、今の話は、無かった事にして貰えると助かるんだが…。」
僕達の言う『それ』とか『その事』と言うのは、冒険者の過去を詮索しないとか、冒険者の秘密を暴こうとする…等の行為を指す言葉であり、
またそれは大変失礼な行為でもある為、冒険者の事を知っている人達なら、例え子供だあっても聞いたりしてはいけない。
ぶっちゃけ、それを守らなくても罪になる訳ではない…ただし、人として全く信用されなくなる…等の社会的制裁を受ける事となるのだ。
例外として…仲の良い冒険者同士が、友達の範囲として聞くのであれば
他には…当たり前と言ったら当たり前なのだが、罪を犯した場合は、その限りではない。
当然ながら、冒険者だろうが貴族だろうが王族だろうが、罪を犯せば犯罪者なのだから、当然の結果である。
まぁ、普通の冒険者と貴族や王族が同じ扱いかと言うと、そうではないのが悲しい所ではあるのだが…。
そんな訳で…隊長さんは、これ以上、詮索はしないから今の許してね?と言っているのである。
「えぇ…それは全然、問題ありませんよ。」
そもそも、そんな事くらいで怒鳴り散らしたりするほど、小さい男ではないのだ。
「そんな事より、今、どんな現状なんですか?」
「あぁ、その事なんだが…。」
先程の事を『そんな事』で済ませたからなのか、お詫びのつもりなのか分からないが、部下に任せるのではなく隊長さん自らが僕達に説明してくれる。
まぁ、内容自体は、単純な内容であったのだが…。
「なるほど…数は、そこそこいる癖に、攻撃も単調な上、隊形も連携もなし…か。
一つ気になったんですが…魔王教と言うか魔神教団?の動きって何か情報はあったりしますか?」
「いや、魔神教団の話は聞いた事がないはずだが…トム、お前は何か聞いた事あるか?」
「そうですね…えっと…魔王を信仰する団体ってヤツ以外ですよね?
私が知っている情報ですと…今の所、各地でテロ活動を行う…としか知らないですね。
まぁ、つい先日、どっかの貴族が襲われて亡くなった…とは聞いていますが…。」
おそらく、そのどっかの貴族と言うのは、僕達が聖剣を用意する原因になったバカ貴族の事だと思われる。
「そうか…すまんな、もう作業に戻って良いぞ。」
「了解しました。」
フランベルクさんにトムと呼ばれた青年が走り去っていく。
って、先程から、あの青年、激しく動き回ってる様だけど、何してんだろう?
「ん?カタチベさん、どうかしましたか?」
「いえ、あのトムって人、何を慌てて走り回ってるのかな?と…それと、僕の名前はカタチベではなくカタリベですので、間違えない様にお願いしますね!」
もっとも、僕自身は間違えた事は気にしないのだが、僕以外の人は気にするのだ。
そう…プリンを始めとする嫁~ズ達である。
怒気を孕んだ目でフランベルクさんを睨み付ける…だけなら良いのだが、クズハだけは怒気以外にも殺気を混ぜ込んでいる。
最近、特に思うのだが、クズハの尻尾の数が増えるに従い、感情が爆発しやすくなっている気がする。
まぁ、何はともあれ僕の訂正にフランベルクさんは…と言うと…。
「こ、これはとんだ失礼を…どうも、昔から人の名前を覚えるのが苦手と言うか何と言うか…。」
「い、いえ、お気になさらずに…正直な話、僕の友達にも、そんな人いまして…何でも、覚えようとしても、なかなか覚えられなくて苦労しているそうです。」
「ははは…自分が言うのも何ですが、そのご友人、苦労なさって居るんですね…。」
「えぇ…とは言え、そいつは名前や特徴をメモに取ったりして対処しているらしいですよ。」
もっとも、それで改善されたと言う話は聞いていないのだが…。
「なるほど…流石に、メモを取るのは不可能だが、覚える努力か…私も見習うべきだな。」
フランベルクさんはそう言いながら、ウンウンと肯いていた。
「とりあえず、僕達は、この砦を見て回ります。
じゃないと、いざと言う時、迷子で遅くなりました…では、話にならないので…。」
「そうだな…なら、誰かに案内させよう。」
「いえ、お構いなく…皆さんの邪魔はしたくありませんので…。」
僕はそう言うと、プリン達を連れて、砦の中を散策し始めるのだった…。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます