180ページ目…聖王都、探索【2】

「た、大変申し訳ありませんでした!」


 奥から戻ってきたギルド受付嬢のお姉さんは、顔を真っ青にして僕達に謝ってくる。

 その際、勢い良く頭を下げた為、少々、胸元…谷間が目についた。


「いえ、僕達は怒っていませんので、お気になさらずに。」


 僕は直ぐ様、問題ない事を伝える。

 そうしないと、プリンがボロカスの様に文句を言いそうだったからだ。


 僕は、横目でプリンを見ると、案の定、ほっぺたを膨らませて不機嫌な態度を取っていたのだが…さっき、僕がブラックドラゴンの部位を鑑定に出した時に、悪戯と言って、僕と一緒に笑っていたのに、何で不機嫌なの?と不思議に思う。


「あの~失礼ですが、ギルドカードを拝見しても宜しいでしょうか?」

「えぇ、全然問題ないですよ?」


 僕はそう言うと、お姉さんにカードを渡す…すると、『うわ~』と言って、再び慌てて奥へと走っていってしまった。

 あの~流石に持って行かれると困るんですけど…。


 すると、先ほどのお姉さんが、すぐに一人の爺さんを連れて戻ってきた。


「お初に目に掛かります、ワシはこのギルドのギルドマスターでクラウスと言う者です。

 このパフィーがとんだ失礼をした様でワシの方からも謝罪をさせて頂きたいと思います。」


 これはまた…何とも腰の低そうなギルドマスターである。


「いえ、先程も…パフィーさんですか?そちらのお姉さんにも言いましたが、どうかお気になさらずに…。」


「では、お言葉に甘えさせていただきたく存じます。

 それで…改めて、お伺いを致したいのですが…こちらのギルドに何のご用でしょうか?」

「それはですね…今日、メルトからシロガネに着いたのですが、少々、路銀が減ってきましたのでクエストを受けようかと思いまして…。」


 何処で誰が聞いているか分からない為、バカ正直に、『零の使い』を調べに来たとは言えず、路銀が少なくなったからと誤魔化しを入れる。

 まぁ、普通であれば、こんな話を信じるとは思えないのだが…。


「なるほど…ですが、おそらく掲示板を見てガッカリしたと思われますが、当ギルドでは基本的に雑用クエストを扱うばかり…ムゲン様が満足出来るクエストはないかと思われます。」


 一瞬、自己紹介していないのに何で名前を?と思ったが、冒険者カードをパフィーさんが持って行ったのだから、いくらでも見る機会はあったはずだ。


「えぇ…先程、パフィーさんに聞きましたが聖騎士団の方に、討伐クエストが流れているとか…しかし、何でそんな事になったのですか?」

「それが…ワシにもよく分からんのです…いつの間にか、依頼が来なくなり、聖騎士団に取って代わられた…と言う感じで…。

 正直、未だに何故そうなったのか、見当も付かないのです…。」

「つまり、原因不明なのですね?」

「お恥ずかし話ですが…その通りです。」


 聖騎士と言えば、特別な加護を持った騎士で、強力な騎士と言うイメージがある。

 そのイメージそのままの存在であるのなら、まぁ、こんな風に危ない仕事に騎士が立ち向かうのも納得がいくし、依頼が聖騎士団へと流れるのも理解出来る。

 ただ、本当にそうなのか?そもそも…今までメルトにいたとは言え、聖王都の聖騎士の噂など一度も聞いた事がないだの。

 だとしたら…いったい何処から現れたのか…。


「あの…失礼ですが、聖騎士ってどの様な人達か伺っても?」

「それは…白い鎧を着た騎士ですね。」


 パフィーさんがクラウスさんの代わりに答えてくれた。

 うん、でも…聞きたいのは、どんな格好をって話ではないんだよね…。


「これこれ、パフィー…こちらの方は、その様な事を聞いておるのではない。

 とは言え、パフィーの言う事も正しいがの。

 確かに白い鎧を着ているのもそうなのじゃが…皆が皆、見た事もない様な強力な魔法を使う上に、王様より直接この街を守る様に言われたとかで…下手な貴族よりも権力があるとか言う噂ですな。

 もっとも、裏ではとんでもない事をしていると言う噂なのじゃが…何をしているかまでは全然聞こえてこないがの。」

「ちなみに、何人くらいいるんですか?」

「正確な数は分からんが…ワシが見た事があるのは、謁見の間で王様の護衛に付いていた…7人じゃな。」


 7人か…多い様な少ない様な微妙な数だが…下手に探ると、藪蛇になりそうだから、もう少し情報が集まるまでは放置しとくのが無難な様だ。



「分かりました、ありがとうございます。」

「いやいや、大して役に立てず申し訳ない。」


 そう言うと、頭を下げるクラウスさん…結構、お疲れの様だ。


「あの…失礼ですが、だいぶお疲れの様子…こちらをどうぞ。」


 僕は持っていた小さな小瓶…回復薬ポーションを渡す。


「これは…見た所、ポーションとお見受けしますが…よろしいので?」

「はい、やはり健康が一番ですので…それでは失礼いたします。」


 僕はそう言うと、二人を連れて宿屋へ戻るのだった。


◆◇◆◇◆◇◆


「さて、二人共、これからどうする?

 幸い、この宿屋は思ったよりも安いので、しばらくは泊まれるとして…問題は、聖騎士と呼ばれている者達の事と『零の使い魔』の探索…だな。」

「それと、美味しい物…ですよ?ご主人様。」

「あぁ、そうだった…それが本来の目的の筈だったからね。」


 一応、表向きの理由となっているが、実際、それがメインである。


「そ、それで…どうしましょう?」

「ご主人様、協力していただけましたら、一つ方法が…。」

「ん?どういう事?」

「まず、魔王化します。」

「…ここで?」

「はい…その後、分裂して多数のプチスライムを作成します。」


 確かにプチとは言え、スライムであれば潜入捜査にはもってこいであろう。


「なるほど…それで、そいつ等を使って情報収集って訳だ。」

「はい、それと…今回、私も嫌な予感と言うのですか?

 何か危険な感じがしますので、保険を用意しておこうかと…。」

「保険って、どんな物を?」


 プリンは、僕の感じる違和感は感じない様だが、危険の予感は感じている様だ。


「それは、女の秘密ですよ♪」

「はいはい…なら、チャッチャとやっちゃいますか。」


 そう言うと、僕はプリンと融合して魔王化するのだった…。

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