178ページ目…聖王都への旅路【9】

 八日間と言う…ちょっと長めの時を要して、僕達は無事に聖王都『シロガネ』へと到着する事が出来た。


 もっとも、何者の襲撃がなかった訳ではない。

 だが、盗賊団が2組とゴブリンの集団が1組…いずれにしろ、大した敵ではなかったので、僕やプリンが手を出さずとも、クズハだけで殲滅が可能な位、弱かった事もあり、僕は久しぶりに練習がてら骸の魔銃を使って迎撃してみたりもした。

 そこで改めて…骸の魔銃って、こんな形と威力だったかな?と思ったのだが…ここの所、剣と魔法ばかり使って、銃を使う事がなかった為の違和感かと思い、そのまま使っていた。


 だけど、最後の敵を倒した時、骸の魔銃が闇に包まれたかと思うと形が変化したのだった。

 まぁ、今まで忘れていた事だが、この骸の魔銃って、成長する武器だったんだよな…。

 この世界に来て、既に大概の事には慣れていたと言うのに、改めて、この世界って凄いな~と思った瞬間だった。


「さて、聖王都に着いたは良いが…これからどうするか…だな。」

「そうですね…とりあえず、まずは宿屋…ですよね?」

「あぁ、そうだね…流石に、家を買うと勿体ないから…ね。」


 まぁ、冒険者ギルドのAランク冒険者になってからと言う物、受けれるクエストが高額報酬の物が多い為、結構、懐具合が温かかったりする。

 なので、買おうと思えば買えなくはないのだが…。

 ぶっちゃけ、本拠地がメルトの町なので聖王都に屋敷を買った場合、色々と不都合が起きる。

 そもそも、僕のダンジョンがメルトの側にあるのだから、聖王都に屋敷を買ったとしても、そこは別宅扱い…そうなれば、維持するのも大変になる訳だ…。

 なので、屋敷の購入は我慢した方が良いだろうな…と思う。


 そんな訳で、僕達は宿屋を探す事になったのだが、ここまでの移動で使った馬車も泊める必要もある為、表通りの大きな宿屋に泊まる必要が出てきた。


 その所為で、宿泊する為の費用が予想以上に掛かり高額になりそうなのでギルドで仕事をしないと、持ってきたお金が尽きてしまう可能性が出てきてしまった。

 とは言え、聖王都と呼ばれる程の街ならば、十分に稼げるはずだ。


 そして、美味しい物だって、いっぱいあるに違いない。

 そんな訳で…僕達は、のんびりと馬車を走らせていると『天使の羽』と言う看板が見えた。


 『天使の羽』…確か、メルトの町のギルド、受付嬢のポプラさんが持っていた雑誌に載っていた店だった様な…そう思っていたら今度は『天使の翼』と言う店が2軒隣にあるのを見掛けた。

 似た様な名前で、似た様な作りの店がある事で疑問が浮かんだ…あれ?雑誌に載っていたのは、どっちの店なんだろう?

 うろ覚えの記憶では、どっちが正解なのか分からないが、どちらにせよ嫌な予感がしたのは二人には秘密にしておこうと思う。


◆◇◆◇◆◇◆


「いらっしゃいませ、お客様は何名様ですか?」

「えっと…3名だけど部屋は空いてるかな?」

「大変申し訳御座いません、本日、大変込み入ってまして…3名様がお泊まりになれそうなお部屋ですと、ご用意出来るお部屋は一部屋しかありません。

 それも、貴族様が泊まられる様な高価なお部屋しか空いておりません。

 え~…料金の方は一泊、金貨1枚と高額になりますが、どういたしましょうか?」

本気マジか…た、高いですね…ちなみに、食事とかは?」


 金貨1枚…日本円にして、やく100万円…某ホテルのスイートルームですか?って話だ。

 これで、料理が付いてなかったら…と不安になってくる。


「それはもちろん、当ホテルの一流シェフが腕に縒りを掛けて作った料理をお部屋に運ばせていただきます。

 もちろん、その代金は宿泊代に含まれていますのでご安心下さい。」

「へ~、良いな…って、ちょい待ち!もしかして、その部屋に泊まる人は、金貨1枚ずつ払うのかな?

 例えば…僕達は3人なので金貨3枚必要って事?」

「はい、そうなります。」

「ご、ごめん…さすがにそれは無理だ。」

「ですよね~、正直な話…よほどの貴族様か王族しか泊まる事のない部屋ですから…私も無理だとは思ってはいたんですよ…。

 ですが、これも仕事なので、一応は案内しないとダメなんですよ…。」


 そう言うと、ガックリと肩を落とすフロントのお兄さん…もしかして、このホテルってブラック企業なのではないだろうか?と不安になってしまう。


「ま、まぁ…気を落とさないでください…それはそうと、馬車を止めれるホテルで…出来れば、安い場所って知りませんか?」

「はぁ…そう言う事でしたら、冒険者ギルドの側にあるホテルなんてどうでしょう?

 見た所、お客様も冒険者の様子…そちらであれば冒険者ギルド直営のホテルなので、ランクに応じた割引が利くはずですよ?」

「へ~、そんな所があったんですね。

 では、さっそく言ってみようと思います。」


 僕はそう言うと、大銅貨を1枚取り出すとお兄さんに渡す。


「少ないですが、チップです。」

「チップですか?まだ、受け取る様な事は何もしてない筈ですが…。」

「あ~…ほら、冒険者ギルド直営のホテルを教えてくれたって事で…少額ですので遠慮せず受け取ってください。」

「はい、では…ありがたく頂いておきます。」


 ホテルの紹介だけでは、チップの対象にならなかったのか、困惑気味にお兄さん。

 そんなお兄さんに別れを告げると、表の馬車で待っている二人に事情を話す。

 そして、目的のホテルを目指す為、冒険者ギルドへと馬車を走らせたのだった…。

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