139ページ目…ダンジョン・オープン記念日【4】

 とりあえず、嫌な予感はする物の無事にダンジョンはオープン、冒険者達はダンジョンへと入っていく。

 とは言え…今日は初日で、オープンしたばかりって事もあるが、当然ながら、みんな一斉に入って行ける様な作りにはなっていない。


 そもそも、第1、第2階層は基本的に迷路になっているのだ。

 その為、弱い魔物ではある物の、戦闘する事を考えて道幅は広めに作ってあるのだが…複数のパーティーが同時に入っていくと身動きが取れなくなる程の広さしかない。


 それでも、新装開店?新しいダンジョンが使用可能になると言うのは、冒険者達が集まるには十分な理由となる。

 そもそもな話、ダンジョンでドロップした物は何故か品質が良かったり、特殊な効果を持っていたりと多種多様な道具アイテムが手に入る確率が高いのだ。


 当然、効果が良ければ高く売れる…その為に危険を顧みずに無茶をするヤツらも多い。

 場合によっては、高価なアイテムを手に入れた物の、瀕死の重傷を負い、帰っている途中で死亡…なんて話も、冒険者ギルドの雑談の中では、稀に耳にする事があるほどである。

 もっとも、冒険者の心得で無茶をするなと言う教訓だとは思うのだが…悲しい事に、実際にあった話らしいので笑い話にもならない。


 まぁ、何はともあれ…そんな訳で、混雑を避ける為、ダンジョンに入るのは順番に入って行く事を冒険者ギルドが管理する事となっている。


 しっかし…これだけの人数が集まるなら、もっと魔物を配置していても良かったかもしれない。

 ぶっちゃけ、冒険者達は順番に入っていく物の、数は力だ。

 正直、第2階層までは、それほど強い魔物は居ない。

 複数出たとしても、こちらも複数いるのであれば数の暴力で何とかなってしまう。


 やはり、こちらの予想以上に冒険者が来ているのが問題なのかもしれない。


 僕達がダンジョンに入る事になったら、速攻で調整しなければ…って、待てよ?

 僕は、ふとサブマスターとしてダンジョンコアのある部屋に置いてきたスライムの事を思い出す。

 魔王化した僕の一部で、簡単な命令を聞くだけの端末でしかないが、それでもサブマスターである事には変わりない。

 もしかして、このまま指示を出したら、ここからでも調整可能なのではないか?

 そう思った僕は、スライムに〖念話〗を飛ばしてみた。


〔えっと…聞こえるか?〕

〔うきゅ(はい)?〕


 へ、へ~…最近のスライムって、うきゅって鳴き声なのか…って、念話なんだから言葉に変換されても良いだろう?

 まぁ、イメージも伝わってくるから大丈夫っちゃ大丈夫なんだが…。

 そもそも、プリンが念話で話し掛けてきた時は、ちゃんと言葉で聞こえてきたぞ?

 もしかして…こいつ、わざとか?わざと鳴き声で返事をしているのか?


〔お、おぅ…ちゃんと聞こえている様だな。

 昨日、僕がダンジョンを調整したのを覚えてるか?〕


 ダンジョン開放の初日とあって、難易度を簡単イージーモードに設定している。

 ただ、予想以上に冒険者が集まっている為、通常モードにした方が良いと思う。


〔うきゅきゅ(覚えています)。〕


 やはり、鳴き声で答えやがる…ここはツッコんだら負けだ…ツッコミたいのを我慢して僕は命令する。


〔コア…ダンジョンコア操作して、昨日調整した前の設定ノーマルに戻してくれ。〕

〔うきゅ~(了解~)!〕


 スライムからの返事を聞いてから30分が経過した頃、中から最初に入った冒険者達が出てきた。

 その様子を見ると、初心者ダンジョンにも関わらず、あちこちに掠り傷程度の怪我と装備の軽度の損傷が見受けられる。

 しかし、その冒険者はみんなの前にドロップした…戦利品を掲げる。


「みんな見てくれ!このダンジョンで手に入れた物だ!!」


 その男の手にあるのは、薬草以外の回復薬…魔法薬と言われたがポーションがあった。

 ちなみに、あえて魔法薬と言ったのは普通の回復薬には、即効性がない為だ。

 その点、魔法薬は即効性…つまり、飲んだり振りかけたりした場合、即座に傷が癒されたりする。


 まぁ…流石に、死に掛けている者に回復薬ポーションを使っても効果が出る前に死んでしまう可能性が高いのだが…魔法薬だった場合、即座に効果を発揮する。

 その為、損傷にもよるが助かる可能性は、かなり高くなるはずだ。


 そんな理由もあってか魔法薬と言うのは高額で取引される。

 初級のポーションだから高額とは言っても、そこまで高くないはずだが…。


 それを考えると、装備を直したりしたら手元には余り残らないのではないか?

 だが、リアルラックが良ければ、もう一本くらい手に入るだろう…。

 腕が良ければ、それだけ装備の損傷も少なくて済むし魔法が使えるのであれば、装備の損傷は無いかもしれない。

 そう考えれば、みこのダンジョンは稼げるダンジョンと言う事が分かるだろう。


 結果、それを見た他の冒険者達の目の色が変わる。


「「「「おぉ~~~~~ッ!!」」」」


 ポーションもドロップすると言う情報は『ヘタレ』とか言う調査員バカが、情報を先に流してしまったが…実物を見た訳ではない。

 あくまで事前情報だったのだが…今、最初に入った冒険者達が持って帰ったのである。 

 ただの情報が真実に変わった瞬間であり、今まで感じていた嫌な予感が一気に膨れあがる。

 もしかすると、第3階層へ入っていく冒険者達も居るんじゃないだろうか?


 もし、そうなら…通常モードだと死者が出るかもしれない…。


〔おい、設定は終わったのか?〕

〔うきゅきゅ~(既に終わりました~)。〕

〔そ、そうか…ちなみに、終わったなら終わったと報告を入れる様に…。〕

〔うきゅ(はい)。〕


 スライムからの返事を聞いた僕は、プリン達に順番待ちの列から離れない様に伝えると、ラオンさんを探す為に駆け出すのであった…。

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