90ページ目…ムスビ山脈

「お客さん、今夜泊まる宿はもうお決まりですか?

 うちの温泉は貸し切りもあるから、みんな揃って入る事だって出来ますよ!」


 と、声を掛けてくる宿屋の客引き…そう、ココはムスビ山脈のふもとにある町の一つ『オカカ』だ。


 では、何故、こんな所に居るのかと言うと、進む事の出来る道がここまでだったのだ…。

 いや、実際には歩いて登る道は複数存在している…正確に言うと車で移動出来る道が、ここで途切れているのだ。

 そんな訳で、移動手段が徒歩となったので、ひとまず美味しい物を調査する事になったのだ。


 もっとも、その内の一つがニョロニョロ鍋…と言うのがオススメだと言うのは、メルトのギルド受付嬢ポプラさんの情報だ。

 ニョロニョロ…某、カバみたいなのが住んでる谷に居る白いクネクネしたヤツによく似たキノコらしいのは雑誌で確認している。

 ある意味、ゲテモノ感が強いのだが、この『オカカ』でも一番美味しいと言うお店が『ムーリン』との事だった。


 …色んな意味で良いのか?と疑問になるネーミングである。


「いらっしゃいませ、何名様ですか?」


 僕にプリン、クズハ、ローラ、アリス…今回からは、プリンの人化がすでに普通の人と同じに見えるほどレベルが上がっているので一緒に食べたり出来る様になっているのだ。

 もっとも、『普通』と言えないほど、プリンは可愛いと思っているのは僕だけではない様で…すれ違う人がちょくちょく振り返っているのを僕は知っている。


「えっと…5名です。」


 何はともあれ、プリンを含めて全員の人数を伝えると、直ぐに係の人が対応してくれる。


「では、席に案内しますので、こちらへどうぞ。」


 そんなこんなで、店員さんが案内してくれた席は、所謂いわゆる、座敷と呼ばれるタイプの席だった。

 若干、和テイストの作りだな…と思いながら席に着く。


 ちなみに、ローラは人狼化して、人型になっている…が、やはり僕の知っている人狼とは掛け離れているので違和感がある。

 むしろ、人化と言われた方がしっくり来るのだが、この世界の事だから、仕方がないとしか言いようがない。

 とは言え、人型のローラも綺麗だし、クズハもそこそこ可愛い。

 クズハはまだまだ発育途中なので、これから色々と期待が十分持てるだろう。


 とりあえず、そんな事は置いておいてメシの注文だ。

 そんな中、僕はメニューにある物を見付けた。


「おむすび…しかも、塩むすびと、おかか…焼きおにぎりまである…。

 って言うか…この町には、米や醤油、味噌もある…のか?」


 元の世界でよく読んでた小説とかの物語ではエルフ豆と呼ばれている豆が、味噌になっていたりするが、醤油まであるのには驚いたし、何より、こちらの世界に来て初めての米だ。

 まぁ、元の世界みたいに品種改良された甘みのある米ではないとは思うが、まさかの米だ…ここで喰わずして、いつ喰うのだ!

 こうして、僕のメニューは決まった…。


 そして、みんなのメニューが決まった所で、ウエイトレスのお姉さんを呼んだ。


「すいません、注文良いですか!」

「は~い、少々お待ちください~!」


 それから少し経ってから店員が注文を受けにやってきた。


「大変お待たせいたしました!ご注文を伺います。」


 ふむ…有名所の店だけあって、ここも礼儀正しい店員の様だ。


「えっと…僕は、おむすびセットと焼きおにぎりセット…それから、ニョロニョロの鍋を…それから、こいつには、お肉たっぷり鍋をお願いします。」


 僕はそう言うとローラの分の注文も一緒にする。

 そうしないと、肉、肉と、うるさいからだ。


「では、私は鳥鍋でお願いします。」


 プリンは、僕とシェアする約束になっているので、僕が食べたい物をチョイスして選んでくれている。


「私は…この、つくね鍋…を、お願いします。」


 クズハは僕の顔を見ながら注文をする。

 わざわざ、つくね鍋と言って、僕が肯くのを待たなくても良いのに…と思うのだが、性格なのだろうか?

 もしかしたら、プリン同様にシェアするつもりなのかも知れない。


「えっと…私は、このモツ鍋と言うのをお願いします。」


 最後にアリス…他にも種類があっただろうに幾つか種類があるのに、あえてモツにいくのは凄いと思う。


 そして、店員は全員の注文を紙に書いて奥へと戻っていった。


◆◇◆◇◆◇◆


「ふ~、食べた食べた…もう入らない…ゲフッ」


 さすがに、おにきり4個に鍋を1つ…更に、みんなから少しずつ貰って食べたら、お腹もパンパンになっても不思議ではない。

 もっとも、僕の鍋もシェアしてるので少しは減っているのだが…それに関しては、一つ事件が起きた。

 ただし、今回の発端はローラだったりする…。


 普段、食いしん坊のローラが他人に肉を分ける事など無い。

 にも関わらず、今回、鍋を半分ほど食べた時に、自分の食べてる鍋の肉を僕に食べさせようとしたのだ。


 その行為が引き金となり、クズハやアリスまで参戦して、僕はみんなの鍋を少しずつ食べるハメになった。

 とは言え、僕の鍋もみんなに少しずつ食べさせたのだが…文字通り『あ~ん』って言わされて、相手の口まで持って行き食べさせると言う恥ずかしい行為を強制させられてしまった。


 何て言うか、みんなの目が怖かったです。


 ちなみに、味に関しては、僕の好みとしては名物のニョロニョロ鍋には肉が入っておらず、現代っ子の僕には物足りない感じで、鳥鍋の方が美味しかったのだが、ローラの食べていたお肉たっぷり鍋も良い味が出ていて美味しかった…とだけ言っておこうと思う。

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