第123話 ダンジョン内の冒険者
あちこちに海水が流れている薄暗い洞窟内。五人組のパーティが魔物と遭遇している。
「サハギンか…、まず俺が抑える!その隙に攻撃を頼むぜ!」
そう言って突っ込んだのは大盾を構えた髭面に筋骨隆々の大男。大盾での体当たりはサハギンを大きく後退させた。同時に残り二人の前衛が動き出し、後衛の二人は魔法の詠唱を始める。
大河オーティスに出現するリバーサハギンはやや小型で動きが素早いが、この迷宮のサハギンは人型であってもニ.五メトル程もあり力が強い。単独で現れることの多いこの魔物一匹と戦うする場合、パーティでC級、ソロならB級以上が推奨されていた。
「ヒャッハー!!」
奇声を上げつつ細身の体をしならせてサハギンの左側面から迫るのは赤毛の双剣使い。振り回す魔物の腕を躱して次々と斬撃を当てる。そんな致命傷とまではいかない双剣使いの攻撃を嫌がったのかサハギンが反撃に出た。
「ぐう!」
そんな言葉と共に大盾使いが大きく後退する。その巨体に似つかわしくない素早さでサハギンが大盾目掛けて体当たりをしたのだ。
双剣使いが開いた距離を再度詰めようとした時、魔物の右側へとドタドタという足音と共に一人の冒険者が迫って行く。
「うわぁーー!!」
そう喚き声にも似た気合の声と共に斬りかかる黒髪黒目の冒険者。足の運びも構えもその太刀筋も素人に毛が生えた程度の動きではあるが、柄頭に赤い宝玉が嵌め込まれ、美しい刀身を持つその長剣はサハギンの右脚を切断していた。
脚を失ったサハギンなど冒険者パーティの敵ではなく、戦いは短時間で終了した。
「いい攻撃だったぜ!」
「私達の出る幕がありませんでした」
「魔力を節約できたんだからいいじゃない?」
「その剣、ホントにすげえ切れ味だな!」
口々に褒められて恐縮している冒険者。その黒い髪と瞳はまさしくプレスである。C級冒険者のプレストンは、D級冒険者ブラズルトンを名乗ってB級冒険者パーティと共にここリドカル沖の孤島にあるダンジョン『南海の迷宮』に潜っていた。
冒険者風の装いにマジックボックス、背中の木箱はいつも通りだが、腰には廉価版の長剣ではなく美術品を思わせるような美しい拵えの長剣を差している。柄頭の赤い宝玉は嫌でも人の目を引いた。
現在、このパーティがいるのは第四層の後半部分。初級パーティの上限と言われる第五層、通称『奈落の入り口』を目指すということになっていた。
…………時は少し遡る。
「ソロはA級以上とはめんどくさいな…」
ここはリヴァイストホテルの食堂スペース。そう呟くプレスにクリーオゥが声をかける。
「若手冒険者の死亡率が上がったことの対策らしいさね。ギルドではパーティでの探索を推奨しているよ」
「ふー。どうしよっか…。今ギルドカードを受付に出したくはないんだよね…」
リヴァイアサンとの遭遇がどのようにギルドで扱われているか…。厄介ごと…、特に宰相家関連のことには巻き込まれたくないプレスであった。
「プレスちゃんの話を聞いて冒険者ギルド内の会話をちょっと聞いてみたけど、冒険者の間ではよくあるホラ話程度の認識さね。だけど宰相家からはC級冒険者のプレストンが現れたら屋敷に来るよう連絡が行ってるね」
「…ん?じゃあ、受付にさえ行かなければ大丈夫か…、あそこのホールは大きいから…」
そう言いながら考える。しばらく経ってプレスは不意に顔を上げてニヤリと笑った。
「主殿?何かよからぬことを考えたのではないか?」
ティアがそんなことを言う。
「大丈夫。相手が何もしなければおれも何もしないさ…。クリーオゥ!頼みがある」
「なんなりと…。何か思い付いたかい?ひっひっひっ…」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます