第120話 竜を洗脳するということ

「主殿…?何か分かったことがあるのか?」


 そう聞いてきたティアにプレスは笑顔を返す。


「ああ、いろいろとパズルが完成してきた気がするよ。おれは魔法陣の専門家ではないけれど…、ティア、ここを見てよ」


 そう言ってプレスが魔法陣の一部を指す。


おびただしい量の洗脳の術式だな…。こんなものをかけられたら人族や亜人では発狂してしまうだろう…。その周囲にも精神に作用するような記述が満載だ。しかしこの術式はボロボロだな…、改めてみると酷い魔法陣だな…」


「そう!この夥しい洗脳の記述から言って人や亜人では精神が耐えられない。つまりこれはリヴァイアサンのような強大な魔物に使用する前提で書かれたことが推測できる。そして洗脳の術式が悉くズタズタになっている。このことから分かるのは…」


「魔道具の使用者の意図通りには洗脳が作用していない…。そうだな?主殿!?」


 ティアの言葉に頷くプレス。


「ティア!その通りだよ。やはり魔道具などで竜を洗脳しようという試みには無理があったんだ…。最初からおかしいとは思っていたんだ。リヴァイアサンは極めて強大な魔物だ。おれやティアならいざ知らず、たとえS級冒険者のパーティであってもリヴァイアサンを止めることは容易とは言えない。そんな強大な魔物を洗脳してまで何故宰相の娘を狙う必要があるのかってね…。紋章を見て我を忘れたといっていたから標的の一部ではあったはずだけど…」


「真の標的…。リヴァイアサンを襲い掛からせたかった相手は他にいると?」


「ああ、確かにおれ達があそこにいなければ宰相の娘であるマリア=フランドルは死んでいた。しかし宰相の娘が死んだところで、宰相家が悲しみに暮れるだけでこの国…、港湾国家カシーラスには何の影響もない。それにもしマリア=フランドルが狙われるような重要人物であれば宰相家もあんな護衛だけで外出はさせていないだろう。仮にあの船に宰相本人が乗っていたとしても…、このカシーラスはその発展が示すように人材が豊富な国だ、宰相は優秀な奴だけど彼一人が死んだところでこの国に痛手など殆どない」


「…?主殿は宰相を知っているのか?何やら知っていそうな言い方ではあったが…」


 ティアの問いにプレスは笑って答える。


「いずれ宰相本人に会う時があったらその時に説明するよ。楽しみにしてていいよ。話を戻すけど…、まあ、宰相家への個人的な恨みって線は消せないけど…。でも宰相家への恨みの線で考えてもリヴァイアサンで船を襲うくらいなら、この街にリヴァイアサンを上陸させて宰相家の屋敷と街そのものを破壊する方が自然だと思うんだよね。魔道具の使用者はおれやティア、それとクリーオゥの存在なんて知らない筈だから…」


「では、宰相家もリヴァイアサンに襲わせたい標的の一つではあるが、他にも襲わせたい標的がいたということになるか…?だが洗脳が不完全であったためリヴァイアサンは大河オーティスを遡上しリンドバル号を襲うことになった」


「そのあたりが真相だろうな…。あとは他の標的ってのが気になるけどね…」


 そんな話をしていると、

「船が入るぞー!」

 船着場の方から野太い声が響く。ふとその声が気になり裏道から広場へと移動したプレスの眼前には入港する四本マストの巨大な帆船があった。明らかに高位の貴族が乗っていると分かるような豪華な装飾が施されている。


「急げ!!今日はあと四隻が入港予定だ!!時間を無駄にするな!!」


 その言葉を聞いたプレスはティアの方へ振り返る。


「ティア…。まだ観光はしていないけど昼食を兼ねて一度ホテルへ戻ろうと思う。クリーオゥに確認したいことができた。いいかい?」


「もちろん。我には何の異存もないぞ!」

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