第63話 扉の向こうに待つもの

 ゴゴゴゴゴゴゴ…。


「な、なんだ?地震?」


 サファイアが声を挙げる。


 過去の歴史が記された壁が崩れ始める。


「皆!下がるんだ!」


 プレスの声に反応し皆が壁から距離を取った。濛々と上がる土煙が収まるまで待っていた一行は眼前に巨大な扉が現れたことに驚く。


「この感じ…。ティア…。ここに君の言っていた兵器ってやつがあるのかもね…」


「うむ…。主殿…何やら少し嫌な気配を感じるぞ」


 二人の会話に怪訝の表情を浮かべるトーマス。


「プレスさん!兵器って何のことですか?」


 プレスは掻い摘んでティアが囚われていたことを話す。


「…そんなことが…」


 トーマスは今日何度目かの驚きの表情を見せる。


「この扉の向こうにその兵器があるのでしょうか?」


 戸惑うトーマスにプレスが答える。


「分からないけど、このまま放置するのもね…。扉を開けてみてもいいかな?」


「トーマスとやら…。この扉の中にはがあるとみえる。ここは主殿に任せた方がよいと思うが…」


 ティアの言葉を聞いたトーマスはプレスに頷いてみせる。


「お願いします!」


「では…。よっと!」


 そう言いながらプレスは扉を押し開いた。かなり昔に造られたものであるはずなのに滑らかに扉は開き始める。


「こんな簡単に開くなんて、きっと魔力の保護が作用していたね…っと?奥行きがそれほどあるわけじゃないから入るのは止めよう。罠が怖いしね」


 扉の先にはそれほど大きくない空間があった。天井は手前の空間の半分以下、そして奥行きは一五メトル程で行き止まりだろうか…。薄暗い中に何かが保管されている。


「…ライティング…」


 プレスが呟くと2つの光球が現れふよふよと部屋の奥を照らし始める。


「プレス殿!!い、今さらっと何を!?ま、まさか多重詠唱?それに操作も…。こ、これは同時操作!?」


「「「「…」」」」


「サファイア…。落ち着いてくれ…。ま、そんなものを目にする日もあるさ…」


 やはりと言うべきかサファイアが驚愕する。しかしトーマス、ユスティ、カダッツ、ミラは遠い目をしている。


「もう驚き切りました…」

「心が付いていかない…」

「こんなものを目の当たりにするとは…」

「今日何回こんな気持ちになったかな…」


 プレスは気にしないことにして部屋の奥に集中する。どうやら巨大な鎧が安置されているようだ。人が使う鎧にしては大きくかなりごつい印象だ…。座った姿をしているが立たせると四メトルにはなるだろう。


全身鎧プレートアーマーってやつか…それが兵器って?…いや…、何かが変だ…」


 プレスがそう呟いた瞬間、けたたましいサイレンのような音が響き渡り全身鎧プレートアーマーの周囲に紫の魔法陣が浮かび上がる。


「XXXXXX、XXXXXX、XXXXXX、XXXXXX、XXXXXX、XXXXXX」


 それと同時に聞き取れない言葉も繰り返し鳴り響く。その音にティアが反応した。


「主殿!これは壁にあった言葉と同じ言語だ!我々に警告を発している!!」


「扉を開けた以外は何もしていないし部屋に入ってもいない。ライティングの影響なんて微々たるものだろう…。扉を開けると作動する仕組みになっていたか?…それにあの魔法陣は何だ?滅茶苦茶な術式になっていないか?でも…、ええっと、ここからで分かるものは…増殖の魔法??なんだこれ?」


「主殿!これは嫌な感じだ…」

「あ、いけない…」


 ティアとプレスがそう呟くのと同時に魔法陣が消える。すると空間が軋むような大音量の金属音共に全身鎧プレートアーマーがゆっくりと立ち上がる。


「リビングアーマーか!なるほど…でかい!これは兵器って気がする…ってことは……。全員後退!!距離を取れ!!ティア!一旦あいつを押さえろ!」


「承知!」


 プレスがトーマス達を庇いながら祭壇から距離を取ろうと移動を始めたとき、剣を構えたリビングアーマーの背後と足元から水蒸気が噴き出す。どうやら推進力を得るつもらしい。そしてリビングアーマーが前傾したように感じ…想像以上の速さで部屋の奥からこちらに突っ込んできた。

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