第61話 その壁が語るもの…
継承の儀を続けることを決めたトーマスとユスティの一行は未だ同じ場所に留まっている。
「ティア!二人の状態を確認してくれ。特にユスティ殿下の方を頼む。あの魔物達に呪いか何かを付与されていないかよく診てくれ」
プレスはトーマスとサファイアの話を聞き、トーマスとユスティの状態を気遣った。特にユスティである。厄介な呪いなどを貰っていなければいいのだが…。
「承った!」
そう言ったティアはその視線をトーマスとユスティへと向けゆっくりと近づく。流石にドラゴンに慣れることなどできていない二人はプレスの従魔と知っていても青ざめた顔で後退した。
「ティア!ちょっと待った。トーマスとユスティが真っ青だよ。姿を変えることはできる?もう少し小さい形態とか?」
「勿論である。グル…ル……ル…ル」
プレスの問いに答えたティアは人族の耳では聞き取れない言葉を発する。どうやらドラゴンの魔法らしい。するとティアの全身が輝き姿に変化が見え始める。その姿はどんどん小さくなり…。最終的に中型犬くらいのサイズとなった。パタパタと羽を動かしながら空を飛びプレスの頭へと着地する。プレスは頭のドラゴンをひょいと取り上げてまじまじと見る。すいぶんとかわいい外見となった。
「凄い!こんなことも出来るのか?」
プレスも驚いているが他の者達も目を丸くしている。この世界では姿を変える魔法そのものは存在しているが行使が難しいというのが共通の認識だった。姿を変える魔法は変身後の姿のイメージも重要だが元に戻るイメージを保管することが困難なため通常は使われることがない。
「どうだ?主殿?悠久の時を生きるグレイトドラゴンである我ならばこの程度の魔法は簡単なものよ」
「元に戻るのも簡単なのか?」
「無論!」
そう言って元の姿に戻ってみせる。そして苦も無く再び小さい状態になった。
「見事な魔法だ。流石だよ!」
褒められたのが嬉しいのかティアは盛んにプレスにじゃれついた。プレスも撫でてやると、
「グルルルルルル」
気持ちよさそうだ。
「これならきっと怖くないよ!」
そう声をかけてプレスはティアを二人の方へと飛ばした。パタパタと飛行しながら移動するティア。これは可愛いかもしれない…。トーマスとユスティの眼前へと迫りまじまじと視線を合わせる。二人とも今回は大丈夫なようだ。
「ふむふむ…。大丈夫。呪いのような物は付与されてはいない。主殿!二人の状態は問題ない!」
「そうか…。よかった!呪いが発覚したらそれこそ継承レースから脱落する可能性があるからな…。あいつらもそこまではしなかったのかもしれない…。よし!では移動しようか!あの祭壇みたいなところかな?」
「恐らくそれだろう」
そう答えたサファイアがカダッツとミラに後衛を任せる形で陣形を組む。先頭はプレス。その傍らに小さいドラゴンがふよふよと浮いていた。そうして目的の場所に着く。
「………ええと…どうすればいいんだ…?……誰かこれ読める?」
困惑したプレスの声に人族の者達は同じような困惑した表情を浮かべていた。
その祭壇と思しき場所には幾つかの台座があり壁にはびっしりと文字が刻まれていた。壁自体は傷もなく先ほどの戦闘やティアのブレスの影響を受けていない。恐らくは何らかの魔法的な補強がされているのかもしれない。
「ティアはどう?」
そう相棒の従魔の方を見ると既に壁の前に浮いていた。
「主殿。無論のこと我はこれを読むことが出来る。これは随分昔…。千年以上前に使われていた文字だ。当時の王族や貴族と呼ばれる者達が正式な文書や宣言を記録したときに使っていたと記憶している」
「そんな昔のものなのか…」
そうプレスが呟く間もティアはふよふよと浮きながら壁の文字を見ている。
「…どうやらこの国の建国時に起こったことを
「是非やって頂きたいものです」
トーマスが声を挙げる。サファイアたちも頷いているが…、
「それはちょっといやだ…。ティア!継承の儀に関する記述はないかい?」
プレスの言葉にティアはさらにあちこちを飛び回る。
「………あったぞ。主殿。ええと…『継承の儀』…なになに…『継承者たちよ。共に力を合わせ、迷宮を踏破したこの国を継ぐ勇者達よ。真の後継者の証としてこの国の礎となった力を授よう』…かな?…それから…探索の種子に芽吹きし聖なる…なんだ?この文章は………そうかここに入る言葉は『パーティ』でいいのか………この訳は………比喩が多くて難しいぞ…………分かった。要約すると『ダンジョン踏破のパーティリーダーは右側へ他のメンバーは左側へと立ちそこへ手を置け』と書いてある」
それを聞いてプレスが声を挙げる。
「…ということは最初からパーティで協力してダンジョンを攻略することが前提になっている設定か?今のティアの説明だと後継者だけでパーティを組んでいたように感じる。となると…」
プレスは皆の方に振り返る。
「何か分かったのかプレス殿?」
サファイアの言葉に頷くプレス。
「継承の儀は競うものではなく協力するものだったみたいだ!」
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