第57話 冒険者として

「…残念だ。全員を守れなかった…」


 そう呟くプレスにユスティの治療をミラに任せたサファイアが声をかける。


「プレス殿が気を落とすことはない。あの転移の事故は間違いなく彼らによって為されたもの。彼らがあのような愚かな行いをせねばプレス殿は我らと同行できた。プレス殿であればあの魔物を斃せたのであろう?冒険者の命は完全なる自己責任と聞く。これが彼らの生き様だったのだ」


 プレスは分かっているという風に頷く。


 冒険者の命は完全なる自己責任。これは冒険者がE級となり始めて冒険者証を受け取った時に説明される内容の一つである。冒険者は自由であり何者にも縛られない。それは事実であるが、しかしその生き方は常に死の危険を孕むという残酷な事実と隣り合わせであった。だからこそ冒険者は日々研鑽を積み、自らの行動と戦い方に様々な工夫を凝らすのだ。


 プレスは彼らの亡骸付近に移動し何かを探す。見つけたのは銀の帯が入ったカード。それが四枚。彼らの冒険者証であり彼らの生きた証である。この冒険者証を証言と共にギルドに提出すれば死亡扱いとなり、遺族を登録している場合はギルドから連絡を入れることが出来た。


「行方不明ではあまりにも寂しいからな…」


 そう言いながらプレスはサファイアに冒険者証を託す。


「あとで詳しく説明するが、おれは偽名を使っているしね…。これは君とトーマスがギルドに提出してくれ」


 事情を察したサファイアがそれを受け取った。プレスはようやくのことで光る枠の中でのた打ち回る魔物に目をやる。


「さてと…。サファイア、先に君たちの話を聞きたい。結構時間を稼いでいたよね?あの魔物とはどんな話をしたのかな?」


「ああ。しかしあれ大丈夫なのか?光る枠の中に閉じ込めているようだが…?」


 サファイアの問いにティアが答える


「無論!我の魔法だ。今の我の魔法では魔王と呼ばれる存在でも脱出は困難だろう。安心してよい」


「そ、そうか…、分かった。ではこの魔物の話をしよう…。この階層に来る少し前なのだが…」


「…………………」


 プレスはサファイアからの話を聞き二人に向け頭を下げる。


「トーマス、サファイア…。よく頑張ったな。そして申し訳なかった。依頼を受けていたのに直ぐに助けに行けなかった…」


「プレスさん。顔を上げてください。我々はプレスさんを信じていました。そしてプレスさんは来てくれました。それで十分です」


「…ありがとう」


 そう答えたプレスは向き直り魔族へと近づいてゆく。光の空間に閉じ込められた魔物は手足を切り落とされた痛みで転げまわっていたがプレスの姿を見て動きを止めて叫び声を上げた。


「貴様!一体何者だ!?一体何をした!?」


「何者って旅の冒険者さ。何をしたのかはわかるだろう?右腕と右脚を斬り飛ばしたのさ…」


「バカな!!私はエルダーリッチだぞ!?人族ごときにこんなことが出来るはずがない!!」


「できたんだから仕方ないだろう?それよりも聞きたいことがある。あ、予め言っておくが嘘はつくな。一つでも嘘があれば貴様を消滅させる。おれにそれができることは既に分かっているよな?」


「!」


 エルダーリッチの表情に明らかな恐怖の色が浮かぶ。


「そうそう!何も答えなくても消滅させる。別にお前達の情報はあってもなくても構わない程度のものだ。ただ尋問を長々とする気はこちらには全くない。だからまだこの世に存在していたかったら潔く質問に答えることだね」


「…貴様の問いに応えれば我を解放するのか?」


「少なくとも開放してもいいと思っている」


「よかろう。答えようではないか…」


 エルダーリッチが言葉の終わり際に薄笑いを浮かべたことに気づかないようなプレスではないがここは取引を終えた交渉人のごとく振舞う。


「よし…。では…」


 そうプレスが口を開いた。

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