第12話

「ええ分かりました。ではそのように。」


どこかその眼に憎悪を宿しながら彼女はうなずく。


「じゃあ少しばかり重い空気にしちゃったからジャムタルトをサービスしよう。マスター、俺の給料から引いておいて。」


マスターはうなずき答えた。


「じゃあそういうことだからゆっくり勉強して行って。愛理、積もる話はお店が終わってからな。」


「はい。」


愛理は憎悪の感情をあらわにしたまま重々しくもうなずいた。


「不躾だがミーナ、あの愛理とかいう親戚の子はイグアスと何の関係が?」


ミーナは俺にアイコンタクトをし確認を取った。俺は他の皆に見えないくらいの最小限の動作で微かにうなずいた。


「私は知っているけど深くは知らない。知りうる範囲で話すわ。」


「頼むわ。プライベートなことだと思うけどあの憎悪の瞳が気になって。」


「彼女、イグアスの妹と仲が良かったの。それだけしか言えない。何に対しての憎悪かは私には判別がつかないの。」


もうその時点でリュヒルの合点が言った。


何に対しての憎悪かは確かにわからない。だが友達を失ったことに対する憎悪が誰かに向けられていることは分かった。


「しかし、既にスキル昇華まで果たしているとなると。」


リュヒルもまたスキル昇華を行うにあたっての逆境を乗り越えるだけの鍛錬と過酷な状況から活路を見出す胆力が必要だということを理解していた。


スキル昇華を行うにしてよく使われることわざがある。


一胆二力三功夫


逆境的な状況例えば

ポーカーでロイヤルストレートフラッシュを三回続けなければ勝てない状況で大胆不敵に自分の命をチップにする度胸とそれを続けるだけの精神力を一つとし


自分の持てるだけの手札がそれに勝てうるだけのものを二つとし


それを引き当てバレないようにするだけの#技術__イカサマ__#を三つとした多大なる賭け


やり遂げたモノだけが手に入れられる賭けの商品。


それがスキル昇華。


だがそのスキル昇華は賭けの商品すら良い物とは限らない。雷槍術師のように偶々持っていたからそうなった。というだけ場合もあれば、昇華したものの性格によっては呪われた装備をその身に受けることを強制される。一長一短の善悪も何もない祝福という名の呪い。


彼女がその憎悪を宿したままスキル昇華を行ったのならば彼女は間違いなく呪われたものを身に着けているという確信じみたものがリュヒルにはあった。


「それについては大丈夫だ。」


俺はジャムタルトの盛り合わせを持っていく次いでにリュヒル達の話に入っていった。


「ええ、イグアスさんの言う通りです。私のスキル昇華は神刃使い、日乃本の神代の刃を扱うことを許されたものです。」


愛理も聞こえていたのかリュヒルの質問に答えた。


「リュヒルさんもスキル昇華をしているから気になっていたみたいだ。気を悪くしてすまなかったな。愛理、詫びとしてこれも一つサービスだ。」


そういって俺はずんだの春巻きを中硬水で淹れた緑茶と共に置いた。


「相変わらず好みは覚えていてくれるんですね。」


そういい愛理はお茶に口をつけた。

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