第二話

 ご飯を食べ終え、お腹も満たされ

ふ~っと一息着くと、

「サラ、今日はゆっくりおし。

まだ体の調子も戻ってないだろうからね。

部屋で休んでおきな」

「ス、ステラさん、ご、ご馳走様でした...」

ステラは、ニッコリ笑い

「たいした物は出せないけどね。喜んで

貰えてこちらも嬉しいよ」

ロビンもニコニコして、サラを見ている。


ペコッとお辞儀をすると、2階の部屋へ行く。

ヒューも、サラの後に着いて行き、

サラとヒューは部屋に入る。


ステラはサラが2階に行ったのを確認すると

「ロビン、サラの事なんだけどね....」

「何となく、分かってるさ。ワンピースから

出ている腕から、少し痣が見えたよ」

「そうなんだよ。

酷い事する連中がいるもんだっ。

良く耐えたよ。

今頃死んでてもおかしくないよっ」

怒りを隠せないようだ。

「サラを家で預かろうと思ってるんだ。

どこかの令嬢だと思うんだけど」

「ああ、構わないよ。

ステラの好きにすればいい」

ロビンは、娘が死んだ時の事を

痛い程分かっている。

ステラは、自分の娘を守れなかった事を

とても悔やんでいて、毎年誰も着る事のない

ワンピースを作っている事を。


「ありがとよ。それと、周りの人間には

サラがどこかの令嬢とも内緒だよ。

親戚の子を預かった事にする。

どんな悪い奴が来るか分からないからね」

「ああ、分かってるさ」

ステラとロビンはサラを家に迎える事

に決めた。


部屋に入ったサラは、机に置いた、ネックレスを手に取り身に付ける。

これは、母の唯一の形見で、一度はテリーザから取り上げようとされたが、何をされようが

必死で守った大切な物だった。


「サラ、いいネックレスを付けてる

じゃないかい。小汚ないあんたにそんな物は

似合わないよ」

テリーザは無理やりネックレスを引っ張る。

「やめて、お母様.....」

「あんたに、お母様なんて呼ばれたく無いね」

テリーザはサラの母マーガレットに

そっくりな事を酷く嫌っていた。


体の弱かった、マーガレットだが

心の優しい父、ルパートは、マーガレット

を心から愛していた。

マーガレットには幼なじみのテリーザがおり、

二人共、ルパートを愛していたのだが

父は、マーガレットを選んだ。


そして、サラの小さい時にマーガレットが

亡くなると、直ぐにテリーザが父の側に

現れると、妻を無くした淋しさからテリーザと結婚してしまったのだ。


最初はサラと仲良く過ごしていた事も

あったのだが、サラが成長するにつれ

マーガレットによく似てきて、美しくなる

サラを疎ましく思うようになっていった。


テリーザが一人目の男子を出産すると

同時に、サラへの態度も変わっていった。

「サラ、あんたは何度言ったら、分かるだろうね。私の好みをいつ覚えるんだい?ほんとバカな子だよ。マーガレットにそっくりさ」

死んだ母を悪く言うのは当たり前で

侍女のような扱いをされていた。


父もこの事にうすうすは気が付いていたのだが跡取りを生んだテリーザには、逆らえず、

二人目の女子を授かると

父の体は、日に日に悪くなって来る。


「サラ、私はもうすぐ死ぬかもしれない。

何もしてあげられなくて、すまなかった...」

「お父様、何を言ってるのですかっ!」

そして、三年前のサラが14才の時に

息をひきとった。


「やっと、死んだね。結構渋とかったね」

「お母様、まさか、お父様を.....

愛していたのではないのですかっ!」

「愛?そんな物、マーガレットを選んだ

時点でなくなってるさ。

バカな男だよ。最初から、私を選んでいれば

こうはならなかったのにねぇ」

テリーザはにやっと笑った。


父が死んだ後、サラは全ての物を奪われ

薄暗い、屋根裏部屋へと移された。

「まだ使い道もあるかもしれないからね。

使用人として、使ってあげるよ」

三年もの間、サラは使用人として、屋敷で

使われる事になった。

「いいかい、サラに味方した者は、

給金は出さないからね」

サラの仕事は、屋敷でも一番きつい、

ゴミの回収や、皿洗い、トイレ掃除などを

させられる。

「また皿を割ったんだって?今日は

晩御飯は無しだよ。本当に使えない」

ご飯を食べれない日などはざらで、

日に日にサラの体は痩せ細り弱っていった。


「サラお嬢様、これを、食べて下さい....」

見かねた使用人がパンを一切れ持って来てくれる事もあったのだが

「ダメよ。見つかったらあなたが大変な仕打ちをされてしまうわ....」

優しいサラは、必ず断りを入れる。


ついには、力が入らなくなり、起きる事も

ままならくなってしまう。

それでもテリーザは

「サラ、いつまで寝てるんだいっ」

サラをベッドから引きずり下ろすと

蹴り飛ばすようになっていた。

「早く起きないから、こうなるんだよ」

と言い、どんどんと、暴力は加速していく。

ついに、サラは起き上がる事が出来なくなる。


「起き上がれないんじゃ、

風呂にも入らなくていいだろ?」

風呂にも入れてもらえず

囚人のようなご飯を与えられ、

生きる気力が無くなり、部屋のベッドで

じっとしている事が多くなった。


ガチャっとドアが開く音がする。

サラはまた何かされるのかと

ビクビクしながら、恐怖に震える。


水差しを持ってテリーザと娘のエレザ

が入って来る。

「エレザ、サラの事必要かい?」

「嫌よ。こんな汚いお姉様なんて、

恥ずかしいったらないわ」

「サラ、皆、お前の事、要らないってさ。

返事も出来ないのかい?」

もう、この頃にはあまり人とは、

上手く喋れなくなっていた。

「あぅ、あ、あ.....」

「やだっ、お母様、サラ姉さん、

何て、言ってるのかしら?」

「さあね?喜んでるんじゃないかい?」

テリーザとエレザは水差しを置いて

部屋から出て行く。


置かれた水を一口飲むと、強い眠気が

襲ってきた。

そのまま、サラは深い眠りに落ちる。


一人の男がサラの部屋に入って来て、

サラを担ぎ荷馬車に乗せる。

そして、そのまま、森へ向かい

森の奥深くへ来た所で、蹴飛ばして

サラを、落とす。

「野犬にでも食われちまうだろな....」

男はサラを捨て、再び荷馬車を走らせる。


強い衝撃と、寒さでサラは目が覚めると、

そこは誰もいない真っ暗な、森の中だった。


月だけが、サラを照らしていた。

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