第13話 BBQ&花火

夏休みに入った。

モデルの仕事は西野さんに簡単な仕事から慣れていきましょうと言われた。

事務所行ってモデルの契約書を書いてきた。ちょっとビビッて彩奈についてきてもらった。

普段は学業優先で休日主体でたまに平日もってやる予定。平日もバンバン仕事の入る彩奈はなんて勤労なんだ。

ちなみに恵や敏彦には言っていない。だって恥ずかしいからな。


来週に地元で花火大会が行われる。恵からみんなで一緒に見ないかと誘われた。彩奈も敏彦も行くみたい。桂子さんも大丈夫。秋司は連絡待ちだけど多分大丈夫との事。

「花火大会は19時から。17時にうちに集合ね。BBQしながら花火をみよう」

恵の家は普通の戸建て住宅だが屋上がある。そこから花火がよく見えるのでBBQしながら花火を見るのだ。BBQ&花火とか豪華すぎるだろ。

17時に集合して食材の買い出し。18時からBBQを開始。お腹が一杯になったら花火と、完璧なスケジュールだ。今から楽しみである。



花火大会当日。

実は昼過ぎまでモデルの仕事が入っている。撮影が終わるのが14時位の予定なので、時間が過ぎても余裕がある。

撮影は現地に一人で直接行く。いきなり一人で平気か?と思ったが、うちの事務所がよく仕事をしてる場所なので、相手方もよく分かっているみたい。西野さんが新人が行くから面倒見てねと相手方にお願いしていた。

おいおい、相手方ってことはクライアントなんだよな。お金貰う相手に頼むってすげーな。西野さんパネェっす。

一人での初仕事は衣料品店のモデル。色々な年代の人がいた。爺さん、婆さん、父親、母親、あと子供。俺は高校生役での参加。若者向けの服だね。トレーナーやパーカー、Tシャツやズボンなど着替えながらどんどん撮影する。

彩奈との撮影に比べたらあっさりと終わった。2時間かかってない。特にミスもなく無難に終わる。簡単すぎるだろ。

事務所に戻って西野さんに報告。今日の収入は8000円なり。コツコツと実績を積み上げていこう。


仕事帰り。集合時間には大分時間があったので一度家に戻る。

母さんがスイカを持っていきなさいと1玉渡された。ちょっと重いんですけど。

シャワー浴びて家を出た。もちろん浴衣を着て。自分じゃ着れないから母親にやってもらったけどね。

恵の家まで歩いて20分位だ。でもスイカもって20分歩くと疲れるぞ。しかも下駄だ。カランコロン音はいいけど歩きづらい。

30分かけて恵の家に到着。

「こんにちわー、上原です」

インターホン越しに恵のお母さんに挨拶をする。中学校の時に何回か遊びに来てるので顔見知りだ。スイカ食べてくださいと渡すことができた。ふぅ、重たさから解放。

すぐに恵が2階から降りてきた。恵も浴衣なんだな。

「おっ、似合ってるな」

いいでしょうとその場でくるりと一回転する恵。うん、いいね。


17時になりメンバー全員が揃う。なんと全員浴衣。すげーな。

彩奈の浴衣は紫陽花柄かな。すごく似合ってる。

横に並んで小声で、

「月並みな言葉だけどすごく似合ってるね。多分みんな見惚れるよ」

「そう、ありがとう。久しぶりに着るからちょっと心配だった。褒めてくれて嬉しい。千秋も素敵だよ」

うん、最高。


「じゃあ買い出しに行くよ~」

恵の案内で近所のスパーに向かった。スーパーでは肉・肉・肉・野菜・肉・飲み物を購入する。BBQ用の炭は恵の家にあると言うので使わせてもらう事に。買い物が明らかに肉に偏っているが、高校生は肉が好きなのでしょうがない。誰からも文句は出なかったし。

買い物を済ませて恵の家に戻る。途中で彩奈が今日の撮影の事を聞いてきた。

「今日大丈夫だった?一人って聞いたけど」

「うん大丈夫。西野さんがあらかじめ連絡してくれてたし、前回の撮影に比べたら楽だった」

緊張もあまりしなかったしな。

「私も小学校の時に、あの衣料品店に何回か行って撮影したことあるよ。スカートとかジャケットとかはいいんだけど、パジャマとか着せられた時はちょっと恥ずかしかった」

小学生の彩奈か。可愛かったんだろうな。

「頑張って仕事していくよ。少しずつだけど」

「うん、頑張って。応援するから。また一緒に仕事したいね」

彩奈レベルの仕事は俺には入らないだろうからな。

「また恋人設定の撮影があればお任せを」

にっこり笑顔で俺は答えた。


BBQをするために炭を熾す。校外学習と同じように敏彦に任せた。

炭が安定して燃えだしたらBBQ開始。みんな一斉に肉を焼きだす。網一面が肉。すべて肉。

「気持ちいいくらい肉だね」

秋司のつぶやき。

「みんなお肉大好きだからね~」

恵は肉が重なるほど網に乗せていく。ちょっと乗せすぎじゃないか?

それからしばらくはスーパー肉タイムは続く。

途中やっと野菜が網に乗った。シイタケと玉ねぎ。

「肉ばかりだとやっぱり飽きるな。わかってたけど実感した」

敏彦のつぶやきにみんなが頷いてる。でも肉焼くんでしょ?

「彩奈はお肉をたくさん食べて大丈夫?スタイル的に」

「動いているから平気。心配してくれるなら早朝に一緒に走って」

残念、君の家は遠いんだ。

「暇なときに散歩しようか」

「うん、約束ね」


あれだけあった肉が網から消え、今は各々がマシュマロを焼いている。肉の後のマシュマロはいいね。

その時最初の花火が空に上がった。

お腹に響く破裂音。花火が始まった。

赤・青・緑、様々な色や形の大玉が夜空を彩る。

「綺麗だね」

彩奈の呟きに横を向く。花火に照らされる彩奈は綺麗で可憐だった。

その横顔から目が離せない。キラキラした大きな目も、すっとした鼻筋も、柔らかそうな唇も。

吸い込まれる。

しばらく動くことができなかった。


彩奈が振り向いた。目が合う。何も言わない俺に首をかしげる。どうしたの?って思ってるんだろう。

言わないんじゃなくて言葉がでないだけだ。何回も見ているはずなのに今夜は持っていかれた。完全にやられた。

まいったなぁ。

しょうがないからそっと手を差し出す。彩奈はその手を取ってくれた。

軽くぎゅっと握って微笑む。皆がいるからすぐに手は放してしまったけど、確かに彩奈とつながっている気がした。

今はこれが精一杯。でもいつかきっと。

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